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国の決算は国会への報告事項? ―2

2016年11月14日 | 読書

6.国の公会計制度改革の課題と展望 

東信男(会計検査院)

 

 

 2001年3月末における国と地方を合わせた長期債務残高は645兆円に上ると見込まれているが,これは日本のGDPの1.29倍に達する規模である。このGDP比は,他の主要先進国と比較すると最悪の水準であり,租税収入の低迷,金融破綻処理の拡大などにより,さらに悪化する可能性がある。この結果,財政の硬直化により,今後,経済構造の成熟化,少子高齢化社会の到来などの社会経済情勢の変化に対応した機動的な財政運営を行うことができるかどうか懸念される状況になっている。

 

 

 一方,1990年代初頭から現在の日本と同じように財政赤字の拡大に悩んできた欧米主要先進国では,NPM(New Public Management:新公共管理論)1)の理論を行政・財政に導入することで,行政の効率化及び財政の健全化に努めた結果,近年,国及び地方を合わせた長期債務残高のGDP比は横ばい,または,減少する傾向にあり,日本との差を際だたせている。

 

 

 そして,このNPMの最後の切り札とされているのが,公会計制度の改革と政策評価2)の導入である。つまり,欧米主要先進国では,国民へのアカウンタビリティを高めることで,行政・財政の構造改革に対する国民からの支持を獲得し,国家財政の危機的状況を克服してきたのである。

 

 

 現行の公会計制度では,現金主義・単式簿記に基づいた記帳が行われているため,資金のフローと資金のストックが別々の帳簿体系で会計処理されており,歳入歳出決算には歳入歳出予算の対象となった財政資金のフローだけが反映される結果となっている。つまり,もう一つの資金フローである歳入歳出外現金(資金運用部資金,簡易生命保険資金等の財投資金,外国為替資金等)については,毎年度,巨額の資金が調達・運用されているにもかかわらず,歳入歳出決算には表示されていないため,現行の歳入歳出決算には資金フローの一部しか反映されていない。

 

 

 現行の公会計制度では,(1)で述べたとおり,現金主義・単式簿記に基づいた会計処理が行われているため,経常収支と資本収支が区別されていないなど,発生主義に基づいたコストが認識されていない。

 

 

 さらに,国の政策の中には,社会保障,公共事業等,複数の会計で実施されているものもあるにもかかわらず,歳入歳出決算は一般会計及び各特別会計(勘定が設置されている特別会計では各勘定)ごとにしか作成されておらず,これらを連結した国全体としての連結歳入歳出決算が作成されていない)。この結果,国が当該年度に実施した政策ごとのコスト情報を把握することが不可能となっている。

 

 

 国の行政は財政面からは予算により統制されていることから,我が国では決算の役割として,予算統制が的確に機能したかどうか,すなわち,合規性(Regularity)に関する情報を提供することが最重要と考えられている。

 

 

 3.公会計制度改革の目的

(1)国の財政状況に関する網羅的・体系的なフロー・ストック情報を提供する。

(2)政策評価を有効に行うために必要な政策ごとのコスト情報を提供する。

(3)決算で得られる財務情報及び業績情報を予算の編成・配分にリンクさせる。

 

 

 例えば,1998年度において,一般会計及び38特別会計の歳出決算額の単純合計額は356兆9708億円であったが,このうち会計・勘定間の繰入れによる重複額は47.7%に相当する170兆4209億円に上っている。また,1998年度末において,財政投融資制度の中核を担っている資金運用部特別会計では,国債保有高が94兆6353億円,一般会計・特別会計貸付金が92兆8851億円に上っている。したがって,国の行政活動及び財政状態の実態を把握するためには,一般会計と38特別会計を連結することが必要である。連結に当たっては,一般会計に加え特別会計の歳出も主要経費別に分類するなど一般会計と特別会計の歳入歳出に関する分類体系を統一したり,歳入歳出外現金に関連して保有することになった資産・負債も含めるなど,会計処理の原則及び手続きの統一を図ることが求められる。

 

 

 各プロセスにおいては,大蔵省の予算編成における予算編成支援システム,各省庁の予算執行における官庁会計事務データ通信システム(ADAMS),会計検査院の決算確認における決算確認システムなどのように,省庁の一部では会計事務を電算処理しているが,会計データのプロセスから次のプロセスへの移行は基本的には紙媒体により行われている。また,債権,物品,国有財産等のストック情報に関しては,歳入歳出決算とは独立した帳簿体系によりそれぞれ管理されているため,ADAMSからの会計データが自動的に蓄積される体制にはなっていない。このように,現行の公会計制度では,全プロセスにおいて共有できるような会計データの電子化・データベース化が行われていないことと,フロー情報とストック情報が遮断されているため,歳入歳出決算の作成と債権,物品,国有財産等の各総計算書の作成に膨大な労力と時間が投入されている。

 

 

 企業会計的手法の導入により現行の公会計制度を改革する場合,会計事務処理のためのインフラをどのように整備するかが課題となる。発生主義が導入されると,現在のように出納整理期限及び出納閉鎖期限(7月31日)を設定する必要がなくなり,また,複式簿記が導入されると,フロー情報とストック情報がリンクして処理されることから,決算の早期作成が可能となり,企業会計並に年度末経過後3ヶ月以内に国会へ提出することが可能になる。これにより,決算に開示される国の行政活動の実績及び財政状態を決算対象年度の翌々年度の概算要求及び予算編成に反映することが可能になるため,決算の早期作成が公会計制度改革のメリットの一つといえる。しかし,これは理論的な話であり,会計処理としては複雑化することから,決算の早期作成を現実のものとするためには,会計データの電子化・データベース化を行うとともに,予算要求から決算の確認までの全プロセスを包含したソフトウエア・プログラムの開発とシステム運用を行うことにより,労力と時間の大幅な削減を図ることが必要不可欠である。

 

 

 現在,国は前記の予算編成支援システム及びADAMSの適用範囲の拡大を図る一方で,省庁内LAN,霞ヶ関WAN等の既存のネットワーク・インフラを活用したり,省庁間電子文書交換システムを整備することにより,行政事務の電子化を推進しており,決算作成まで統一的に処理できる官庁会計事務処理体系の確立も視野に入れている。企業会計的手法の導入により公会計制度の改革を行うに当たっては,このようなインフラ整備が前提となることから,積極的な取組みが求められる。

 

 

 

出所:http://www.jbaudit.go.jp/koryu/study/mag/pdf/j22d05.pdf

 

 

 

7.参考資料:政府公会計制度改革の国際的動向

2016.6月

山浦久司(明治大学)

 

 政府の財政が悪化するなかで、財政構造全体を常時的に把握して管理し、会計の規律(compliance)を保ち、また行政の合理化と効率化を果たすためには、企業会計の利点を政府公会計にも採り入れるべきだとの考え方が急激に広まってきた。

 

 

 また、政府は、国民や議会・国会への説明責任(accountability)を果たし、その他のステークホルダー、たとえば各種の公債引き受けファンド、官民合同のPFI(Private Finance Initiative)やPPP(Public Private Partnership)事業の民間パートナーなどへ情報を開示するためにも、発生主義会計の有用性が認識されている。

 

 

 現在、政府公会計に発生主義(accrual-basis)を採り入れている国は、世界で何か国あるのだろうか。

この疑問に答える最新の調査結果がプライス・ウオーターハウス社(PwC)から公表された。この調査(2015 年 3 月までの期)によれば、調査対象国 120か国(直接に返事を受け取った国 88 か国、デスク調査国 32 か国)のうち、27か国が現金主義、30 か国が修正現金主義(期末日後、一定の出納整理期間を設ける。日本はこのタイプ)、26 か国が修正発生主義(発生主義の適用による資産・負債項目の一部を認識しない)、37 か国が発生主義を適用しているとされ、発 生 主 義 な ら び に 修 正 発 生 主 義 に よ る 政 府 公 会 計 を 採 用 し て い る 国 は 52%に上るとする。

 

 

 この調査によれば、政府公会計の発生主義化は明確な流れとして認識できる167が、その背景にあるのは、行政体を経営するうえでの様々な利点が認められるからである。そして、その最大の利点は、政府の財政機能の有効性を高め、健全で、責任体制を保持した、透明性の高い政府運営を可能にする点にあり、さらに、固定資産の管理、原価計算、行政評価などの改善に資することで効率的な行政の経営を可能にし、また長期計画と予測にも貢献することにあるとする。

 

 

 最近では、欧州公会計基準(European Public Sector Accounting Standards:以下、EPSAS)という新しい概念のもとで、EU加盟国間の会計制度の公会計制度の統一化を進

めようとしている点が注目されている。

 

 

 そして、欧州会計検査院は、EU 公会計制度の問題点の元凶が現金主義と発生主 義 の 折 衷 体 に あ る こ と を 「 発 生 主 義 会 計 制 度 に 向 け て

( Towards an accrualbased accounting system)」と題する意見として表明するに至った。これを受けて、欧州委員会は、新しい財政規則(Financial Regulation)を 2002 年に成立させ、欧州会計検査院が批判した点に対処して、2005 年度から公的機関に対応す

る国際的に承認を受けた発生主義会計の原則に準拠して財務諸表を作成することを規定したのである。

 

 

 EU加盟各国の公会計の成熟度

英国 96% ドイツ 22% ギリシャ 12% フランス 89% スエーデン 81%

 

 

 また、ドイツのように、発生主義化を回避した国は、「成熟度」というカテゴリーとは一線を画すべきである。

 

 

 EUが、2007 年リスボン条約で欧州議会の権限を強めるなどした結果、加盟国間の財政政策の調和化についての必要性は高まったものと考えるべきで、その当然の帰結として、公会計改革に関する新たな動きが始まった。

その改革の契機は、2009 年以降の欧州財政危機の発端となったギリシャの財政赤字問題である。ギリシャでは、同年 10 月に新政権に変わり、旧政権下で国内総生産(GDP)比 5%程度と公表されていた財政赤字が、実は 13%近くに達し(後に、13%を超えていることが判明)、債務残高も対 GDP 比 130%以上の巨額であることが明らかになった。

 

 

 また、加盟国の抵抗とは、ドイツの EPSAS 適用に対する反対である。ドイツの財政状態は、現在のところ他の加盟国より比較的良好であるが、EPSAS を適用することになれば、将来的に年金債務を計上せざるを得なくなり、他の加盟国と同様のレベルに財政状態が悪化するのでないかということである。つまり、透明性が向上することで、国際金融市場において借入金利が上昇することを懸念しているのではないかということである。

 

 

 EPSAS の法制化には、欧州委員会からの法案の提出と、欧州議会および理事会の同意が必要であるため、上記の事情を顧みると、EPSAS プロジェクトが確実に実施されるかどうかは予断を許さないといえよう。

 

 

 

出所:http://www.jaa-net.jp/sc2014a/pdf/C06b.pdf

 

 

 

 

8.新しい公会計制度への提言

亀井孝文(南山大学)

 

 後世の会計史家から見れば,近年約20 年間は世界の公会計制度にとっておそらく最も大きな変革を遂げた時代のひとつであると評価されるであろう。その決定的な理由は,公金の管理と記録がようやく「会計論」として認識されてきたことによる。逆にいえば,これまで存在したのは財政制度の一環としての単なる公金の出納に関する手続き規定であって,「会計論」としての公会計制度ではなかったということでもある。

 

 

 現行制度では国に関しても地方自治体に関しても簿記法を直接指示する規定は存在しないが,備えるべき帳簿と決算として求められる計算書によって事実上の簿記法が決定されるしくみとなっている。

1889 年明治会計法が制定されたことによってそれまで 10 年間にわたって採用されてきた複記法が廃止され,その後に採用された帳簿は,当時の官庁簿記書によれば「貸借を応用したる複記の法に拠らず又簿記法に所謂単式とも称すべからざる一種の書留簿の様式」といわれる。内容からいえば,それはドイツ語圏の国々で伝統的に採用されてきたカメラル簿記で用いられる帳簿様式に基づいたものである。

 

 

 このように現行の公会計における簿記法はその歴史的経緯にまで遡ると複雑な背景と内容をもっており,巷間いわれるように「わが国公会計制度における簿記法は単式簿記」と簡単に割り切ることはできない。少なくとも「複式簿記ではないから単式簿記」という理解は修正される必要がある。新しい制度における簿記法を考える場合にも,制度の歴史的経緯と現行制度に関する明確な理解を基礎にしなければならない。また,簿記法には上記のような簿記法の他に,カメラル簿記と複式簿記との折衷の意味をもつスイスのコンスタント簿記,あるいは,カメラル簿記を改良し拡張したオーストリアの多段階簿記等さまざまなものがある。

 

 

 コンテンラーメンは「標準勘定組織」ともいわれ,会計主体の違いにかかわりなく勘定をその本質に基づいて分類整理した体系表である。コンテンラーメンでは各勘定が10 進法によってクラス分類され,次の段階では,個別会計主体に適合するようにこれに基づいてコンテンプラーンが作成される。

 

 

*厚生年金基金事務所において、抜粋者は昭和50年頃、業務分掌表を十進法によつて細分化していた。その延長線に複式簿記の勘定科目を設定していた。

 

 

 主としてドイツ語圏では新たに会計制度を構築するさいには必ずコンテンラーメンが作成され,新しい公会計制度の議論にさいしても,公会計コンテンラーメンが最初に提案されている。コンテンラーメンにおける各勘定にはすべて番号が付され,勘定分類の細分化に従って番号の桁数も増えることとなる。重要なことは,この番号を記録のコンピュータ処理にさいしてコード番号として機能させ得ることである。

 

 

 しかし,どのような会計にあってもまず制度を構成する個別概念と計算構造が存在すること,また,計算構造の論理性が担保される記帳システムが存在することは普遍的な要請である。ここに会計が統計から区別される根拠が存在する。

 

 

 

出所:http://www.jbaudit.go.jp/koryu/study/mag/pdf/j45d01.pdf

 

 

 

9.財政民主主義と公会計の課題

中道信廣

 

 現在、わが国では、明治国家建設以来続いてきた、官治社会の体質のため、民主社会では、 到底考えられないような、諸悪の現象が噴出している。私たちが分担し納付した税が、会計検査院の指摘をまつまでもなく、各省庁の所管分野で、 惜しげもなく無駄に浪費 (官僚にとっては、有意義な使途であろうが、納税者にとっては、国民の義務であっても負担することを拒否したいような) されている事実が暴露されている。

この現状を改善していくためには、外科的大手術が必要であり、その場限りの治療策 (官僚の綱紀粛正や業者との飲食禁止や天下り自粛 策など) ではどうしょうもない。

 

 

 民主主義の原理が機能し、政府には、税を国民から徴収する代わりに政治を行うことを受任・受託するという関係が生まれる。そこで、会計で古くから民主社会の伝統として伝えられてきたアカウンタビリイティが機能する場が設定される。その受託責任を果たすための財政 (財務) 報告が、 国民に、またそれを代表する議会になされる。

 

 

 それは、ジョン・ロック著『市民政府論』で展開された、人民の革命権 抵抗権の理論か、 その原理的核心になった、とされている。

 

 

 わが国では明治維新の後、天皇主権のもと、官僚専制的な中央集権国家が形成され、西南戦役の西郷をはじめ、反政府の思想は強権のもとに弾圧され、自由民権運動も、大正デモクラシーも、殆ど、その成果を現在に伝えられなかった。しかし、西欧諸国における革命の原理とされた、ジョン・ロックの『市民政府論』は、「権力の不適切な行使に対して人民の側から抵抗しうる」ことを示し、「政治権力は人民の同意に基づいてのみ行使されうる」、「信託違反に対する最終的手段としての抵抗権は、自然法によって認められた権利であり、人民は、天に訴える自由を、あらゆる法に優先する自然法として留保している」 ことを明らかにしている。この自然法の精神である抵抗権・革命権の思想が、わが国の社会で受け入れられるようになることも、民主社会に不可欠な第三の前提条件として、欠かせないものであると、私は考えている。

 

 

 

出所:https://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:w5FZMAXVRZEJ:https://seisen-.repo.nii.ac.jp/index.php%3Faction%3Dpages_view_main%26active_action%3Drepository_action_common_download%26item_id%3D761%26item_no%3D1%26attribute_id%3D18%26file_no%3D1%26page_id%3D55%26block_id%3D104+&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp

 

 

 

 

10.予算制度改革と公会計制度改革

筆谷 勇

 

 昨今、わが国の多くの地方公共団体は総務省方式による貸借対照表(以下、「B/S」と

いう。)を作成しているが、この総務省方式による B/S の作成方式は平成 12 年に公表されたものであるが、会計制度に基かずにあくまで統計的手法に基いて B/S を作成しているために,折角の B/S も中身のない外枠のみからなる「張子の虎」のような入れ物を作ったに過ぎず、経営管理目的には全く役に立っていないのが現状であり、平成 18 年 5 月に公表された総務省の[新地方公会計制度研究会報告書]においても、6年前と殆ど同じものが名称を変えて公表されたに過ぎず、一向に改善しようとする気配が感じられない

のは極めて遺憾な状況といわざるを得ない。

 

 

 前者の[会計の基礎]についての世界的な趨勢を見ると、会計取引の認識時点を、①現

金主義、②修正現金主義、③修正発生主義、④発生主義へと変遷させてきているが、日本

においては、平成 15 年6月 30 日、財制度等審議会が、[現金主義会計]について、「最も作成しやすくしかも理解しやすい」という理由から、これに優る[会計の基礎]はない、ということを、その[公会計に関する基本的考え方]において明言し、この考え方をわざわざインターネット等を通じて国民の前に公表しているが、今や、英国、ニュージーランドを初め先進各国は発生主義会計を既に導入しておるか、または、その導入準備に走

っている国々が大部分であり、旧態依然として守旧的な取組みのみを行なおうとしている日本の現状を知るたびに、日本人としては背筋に極めて冷たいものが走るのを感ずるのを禁じ得ない人々が多いといわざるを得ない。

 

 

*総務省にも財務省にも会計を学んだ者がいないのか、あるいはまた、外部に問い合わせるという姿勢がないのか、それが一国を担うはずの日本官僚の内向き姿勢なのだろう。東大卒官僚の一般教養が疑われる。東大で何を学んだのだろう。東京都に教えを乞うべきだろう。

 

 

 財政制度等審議会などが提唱している貸借対照表の作成方法に関しての本質的な欠陥(会計制度によらずに統計的に貸借対照表の作成方針を指導していること)について、再考を促したいと念ずるものである。

 

 

 中長期予算制度、内閣への大幅な権限委譲を考えるためには、決算制度の強化が必要である。即ち、予算については、憲法第86条において、「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。」として国会の「議決」を求めている。これに対して、憲法第90条①は、「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」として、[決算]の国会への「提出義務」のみを定めて[決算に関する国会決議]については一切触れていない。

一方、財政法第40条は「内閣は、会計検査院の検査を経た歳入歳出決算を、翌年度開予算制度改革と公会計制度改革会の常会において国会に提出するのを常例とする」として、会計検査院による行政内部の監査に重点をおいており、国会による[決算]に関する外部監査についてはこれをなおざりにしている、というよりも、むしろ殆ど無視をしているのが現状である。

 

 

 少なくとも、国会による決算の妥当性についての「決議」が必要といわれており、そのためには、現行の歳入歳出決算書のみの「フロー情報」に係る決算だけではなく、貸借対照表などの「ストック情報」に係る決算についても国会の「議決」を必要とするように現行の「憲法」および「財政法」を改めるべきである。

 

 

*上記、決算の国会議決に関する意見に全面的に賛成する。この事態を国会議員は承知しているのだろうか。官僚の暴走を国会議員が抑えないで誰がする。先の大戦での軍部独走を許したのも国会の議決が機能していなかった故であろう。

 

 

 現行の憲法、財政法、地方自治法及び地方財政法等における予算制度は、単年度収支均衡予算主義に拠っていて、これを固定資産も含めた「中長期収支および中長期損益予算」にまで改訂するには現行法制度の改正を伴うことになり、その改正を緊急に達成することは極めて困難なことと言わざるをえない。

しかし、先進公会計改革諸国の努力の成果について見習うべき時期は目前にあるといえ

るのであって、日本のみが例外ということはありえないものと考えられるのであり、現に、東京都においては、平成18年度より発生主義会計の導入に踏み切っており、発生主義会計→予算制度改革→中長期収支・損益会計導入の路線が、近い将来において敷かれるものと期待されており、従って、これに伴う法整備も近い将来に実現することになるものと考えられている。

 

 

 予算のフィードバック機能を高めることによって、予算統制主義から決算重視型経営管理システムへのフレーム・ワークの転換を図る。

 

 

 したがって、正確、かつ、現実的な「財政政策」を策定してそれを『予算化』するためには、『現金主義会計』のみによっていては不正確で、しかも、非現実的な結果しかもたらされないということを、為政者をはじめとする関係者は是非とも理解してもらいたいのである。

 

 

 「収支分岐点分析」の例で見たように、「公会計制度改革」の基本となるものは「会計の基礎」を現在の「現金主義会計」から「発生主義会計」に改めることが最小限必要な大前提であることが理解できるのであり、「新地方公会計制度研究会報告書」が提唱しているような「統計的手法によった単なる空洞化した貸借対照表」の作成のみでは、「収支分岐点分析」のような精緻な計算を可能にすることは到底不可能であることを理解すべきなのである。

 

 

 このようなことは数百年前(1,495 年)からイタリアで公表されたルカ・パチオリの「ズムマ」(数学書)によって紹介されてきている発生主義に基く会計手法ではあるが、不幸にして日本では明治の半ば(1,889 年)以降から現金主義会計が公的部門に採用されてきたのは、誠に不幸な出来事といわざるを得ない。

 

 

 やはり、現金主義を前提にした改善手法には自ずから限界があり、ましてや、単年度のみでなくて中長期的に資金収支を合理的に分析するためには、[会計の基礎:会計基準]を現金主義会計から発生主義会計に転換しない限りにおいては、有効な改善手法が見当たら

ない、というのが本稿の結論なのである。

 

 

 

出所:http://www.lec.ac.jp/pdf/activity/kiyou/no06/07.pdf

 

 

 

 

11.東京都の新たな公会計制度 解説書

平成20年4月

東京都会計管理局

 

 行政と民間との協働や地方分権改革を推進するうえで、地方自治体は、住民に対する説明責任を一層果たすとともに、行政運営に当たり「経営」の視点を確立することが不可欠となっています。このため、多くの自治体が財務諸表を作成していますが、官庁会計方式による決算数値を組み替えたものであり、作成に時間がかかること、個別事業ごとに作成することが困難であることなどの限界が生じています。

こうした従来の財務諸表の課題を克服するため、平成14年5月に、石原知事が、東京都の公会計制度に複式簿記・発生主義会計を導入することを表明しました。その後、会計基準の検討や財務会計システムの再構築を行い、平成18年4月に新たな公会計制度を導入し、平成19年9月にはこの制度による我が国初の本格的な財務諸表を公表いたしました。

 

 

 新たな公会計制度は、従来の官庁会計(単式簿記・現金主義会計)に複式簿記・発生主義会計の考え方を加えた会計制度で、財務会計システムにより、日々の会計処理の段階から複式簿記の処理を行い、多様な財務諸表を迅速かつ正確に作成するものです。このことによって、財務諸表の分析結果を翌年度予算に反映させることが可能になるとともに、個別の事業改善に活用することが可能となります。

 

 

 以上の「ストック情報」と「コスト情報」の2つの欠如のために、更には「アカウンタビリティ(説明責任)」と「マネジメント」の2つの欠如を招く結果となっています。これが官庁会計の「4つの欠如」といわれるものです。

 

 

 平成14年5月末の定例記者会見で石原都知事は、東京都の会計制度に複式簿記・発生主義会計を導入することを表明しました。知事の表明後、庁内に公認会計士も含めた「東京都の会計制度改革に関する検討委員会」を設置して東京都の会計制度改革についての検討を行い、それにあわせて財務会計システムの再構築に着手しました。

 

 

 様々な試行錯誤の末、平成18年度から一般会計及び特別会計(ただし、公営企業会計及び準公営企業会計を除く。)に複式簿記・発生主義会計が導入され、新しい財務会計システムにより会計処理が行われています。

これまで国や地方自治体の中には、官庁会計の決算数値を組み替えて財務諸表を作成している例はありますが、日々の会計処理の段階から複式簿記・発生主義会計で処理を行うのは、東京都が日本で初めてのことになります。

ただし、従来の法令に定められた官庁会計をやめてしまうということではありません。平成18年度から従前の官庁会計に加えて、複式簿記・発生主義会計を導入したということです。この制度は「民間の企業会計手法を踏まえつつも、行政の特質を考慮した独自の会計制度」ということができると思います。

 

 

 東京都会計基準の特徴

○ 行政コスト計算書では、民間の損益計算書における「収益」という用語は用いず、収入については行政サービスの提供に要した費用(コスト)に対する財源という概念に基づき整理した。

○ キャッシュ・フロー計算書では、現金収支をその原因に即して直接に記録する「直接法」を採用した。

○ 行政コスト計算書及びキャッシュ・フロー計算書の費用に係る勘定科目については、給与関係費や物件費など、東京都の予算で用いている性質別の科目分類を採用した。

○ 貸借対照表では、道路や橋梁などの社会資本を特に「インフラ資産」として区分計上するとともに、「行政財産」や「普通財産」といった地方自治法における財産の分類も採用した。

 

 

簿記に関する最初の書物は、1494年にイタリアのルカ・パチョーリという修道僧が著した数学書であると言われています。

 

 

 東京都の財務会計システムの概要と特徴

●会計処理を行うシステムの全体像

財務諸表を作成するためには、財務会計システムだけでなく、様々なシステムとの連携が必要

●東京都の財務会計システムの特徴

現行の官庁会計の処理はこれまでと同様。複式簿記・発生主義会計を並行して導入

日々仕訳を行って勘定残高を蓄積するシステムであるため、迅速な財務諸表の作成が可能

仕訳情報、建設仮勘定情報等を簡単な操作で自動生成するなど、職員負担を軽減

他の財産や負債を管理するシステムと連携し、情報を共有

会計別や局別、事業別等の多様な財務諸表が作成可能

●財務会計システムの概要と複式処理サブシステム

財務会計システムは複式処理サブシステムを含め10のサブシステムで構成

複式処理サブシステムは、仕訳情報の蓄積や仕訳の訂正、財産、負債などのシステムとの連携、財務諸表の作成などの機能を保有

 

 

 複式簿記は、中世に地中海貿易で栄えたベニスの商人たちが、帳簿の右側と左側に分けて記録したことが始まりと言われています。

 

 

 日本では、明治6年、アラン・シャンドというイギリス人の口述筆記を翻訳した「銀行簿記精法」により複式簿記が紹介されたと言われています。

 

 

 財務会計システムの再構築に要した開発経費は、平成15年度から17年度の合計で約22億円です。

この開発経費には、複式簿記・発生主義会計対応機能の開発費用だけではなく、官庁会計部分の開発費用、開発期間中の本番用サーバ機器・データセンタの運用費、開発用機器費用及び端末操作研修費用等が含まれています。

これは、今回の再構築は、既存の官庁会計のシステムに複式簿記・発生主義会計の機能を付与するというものではなく、Web方式による新たな財務会計システムを構築する形態をとったためのものです。

従来の財務会計システムは、平成4年度から稼働を開始しましたが、大型汎用機と専用端末を使用するシステムであり、平成14年度時点では、高額な運用経費の問題や積み重なったシステム改修により、全体として更新する時期となっていました。

この再構築により、運用の経費は、年間13億円から8億円に減少しました。その結果、開発経費は、5年程度で回収する見込みです。

 

 

 ドイツの文豪ゲーテは、複式簿記を「人間の精神が生んだ最高の発明の一つ」と絶賛しています。

 

 

 

 東京都会計基準

平成17年8月26日

17出会第308号

 改正 平成18年3月31日17出会第811号

 平成19年2月28日18出会第675号

 平成20年3月31日19会管会第777号

序章

本会計基準は、東京都における一般会計、特別会計(地方自治法第209条第1項に定める一般会計及び特別会計をいう。ただし、地方公営企業法第2条の規定により地方公営企業法の全部又は一部の適用を受ける特別会計を除く。以下同じ。)及び局別の財務諸表を作成する際の基準を示したものである。

第1章 総則

1 基本的な考え方

(1)複式簿記の記帳方法による財務諸表の作成

本基準は、複式簿記の記帳方法による正確な会計帳簿を通じて財務諸表を作成する際

の基準を示すものである。

(以下略)

 

 

*東京都はすばらしい事業を行っている。

 

 

 

 

出所:http://www.kaikeikanri.metro.tokyo.jp/000sinkoukaikei.pdf

 

        -ト      #特別会計

 

 


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