2018/7/6 22:13 日本経済新聞
市場のクジラ、ほぼおなかいっぱいです――。約160兆円の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)で2017年度末、国内株の運用比率が初めて25%の目安を超えた。大食漢が日本の株価を上げる構図は終わり、これからのクジラは「ESG」を切り口に食べ物を選ぶ。運用の安定には債券も含めたバランスの良い食生活も課題だ。
GPIFは6日、17年度の運用成績を発表した。主に国内債、国内株、外国債、外国株の4つに分散して運用しており、国内株の比率は25.14%。14年に運用改革を始めてから、年度末時点で初めて基本ポートフォリオ(資産構成割合)の目安を超えた。世界的な株価上昇で、17年度は約10兆800億円の運用益が出た。
株式市場でGPIFが「クジラ」と呼ばれるきっかけになったのは、安倍晋三政権のもとでの運用改革だ。デフレ脱却による長期金利の上昇を想定し、国債に偏る運用を見直す必要に迫られた。日本株市場に突然現れ、幅広い銘柄を一気に買うところから、市場関係者がクジラと呼んだ。
13年3月末の運用資産は62%が国内債だった。14年10月に決めた基本ポートフォリオの変更で国内外の株式比率を合計50%に増やし、18年3月末時点で国内株の保有総額は40兆円を超えた。約2300銘柄を保有し、東証1部上場企業の多くで大株主になっているとされる。
14年度以降の累計買越額は推計6兆3696億円と東京証券取引所第1部の時価総額(約630兆円)の約1%にあたる。野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストによると「日経平均株価を1000円程度押し上げた計算になる」という。
基本ポートフォリオの目安は一定の乖離(かいり)が認められている。国内株式の比率が25%になっても「行動をやめることはない」(高橋則広理事長)。ただ運用改革直後のように、市場全体を押し上げる買いは期待しにくい。
満腹になったクジラは食べ物を選び始めた。食指を動かすのは環境や社会への配慮、企業統治の「ESG」に優れた企業だ。ESG企業に絞った投資は17年度に始め、1.5兆円を投じた。主体は東証1部に上場する全企業の株式を同じように買う東証株価指数(TOPIX)に連動した運用だが、選別によるグルメ志向を強めている。
ESGは持続的な企業の持続的な成長力や安定性を測る指標で、優れた企業は長期で株価上昇や安定した配当が期待できるというのがGPIFの見方だ。投資開始を受け、対象にならなかった企業では「どうしたら入れるのか」と信託銀行などへの問い合わせが相次いだ。
基本ポートフォリオで最も配分が大きい国内債は18年3月末時点で27.5%と目安の35%を大きく下回る。日銀による大量購入で品薄となり、「主食」が減った。偏った食事は体調を崩す。クジラの運用も主食の国内債を確保しながら、主菜のリスク資産を成長の力になる中身に変えていく姿が理想だ。
資産運用の世界では規模が大きいほど、市場平均を上回る運用成果を上げにくいとされる。機関投資家として、世界最大規模のGPIFは相場と一体だ。ならばESGで企業の規律を強めて、市場全体の底上げを図る。グルメになったクジラはこんな青写真も描いている。
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