2018/6/11 18:01 日本経済新聞 電子版
個人の運用次第で将来の給付額が変わる確定拠出年金を導入する企業が急速に広がっている。「2020年に2万社」という政府目標を大きく上回り、3月末で3万社を突破。4月には出光興産と博報堂が導入した。株高が追い風となっているほか、同制度は企業が年金の運用リスクを負わずに済む。人手不足のなか、福利厚生を充実して人材を確保したい企業のニーズを強く映している。
確定拠出年金は公的年金に上乗せする企業年金の一つ。全国民が加入対象の国民年金、会社員らが報酬に応じて受け取る厚生年金に上乗せする「3階部分」に当たる。厚生労働省の調査によると3月末時点の加入企業は3万312社。1年間で4084社が導入した。
博報堂と博報堂DYメディアパートナーズは4月、決まった年金額を企業が約束するこれまでの確定給付から、確定拠出年金に制度を変更した。2社合わせて4千人弱の従業員が新制度に移行。東洋インキSCホールディングスは、今春に入社した従業員から企業年金を確定拠出年金だけとした。これまでは確定給付と併用してきた。音響機器のティアックなども導入した。
確定拠出年金では従業員が投資信託など運用商品を自ら選び、運用成績がよければ将来の年金額が増える。税制優遇があり、企業型は掛け金が月5万5千円まで非課税になる。政府は12年につくった成長戦略で「20年に2万社」を目標としたが、大きく上回るペースで普及している。企業型と個人型を合わせた加入者は延べ733万人。20~60歳の9人に1人が加入している計算だ。
企業が導入する理由の一つは年金運用のリスクを負わなくていいためだ。大企業に多い確定給付年金は運用利回りが予定を下回ると、企業が穴埋めしなければならない。博報堂DYホールディングスは確定拠出導入について「財務上のリスクを軽減し、経営の安定を図る」と説明している。
企業年金制度の変更は労使の合意が必要だ。直近の日経平均株価は2万2000円台で5年前のほぼ2倍。株価の上昇基調を受けて「加入者が投資を始めやすい環境」(みずほ銀行)にあり、労使が合意に達しやすい。
深刻な人手不足も導入を後押ししている。企業は福利厚生を充実する姿勢を訴え、人材確保につなげようとしている。企業にとって、確定給付に比べて導入する負担が軽い確定拠出年金は、従業員向けに福利厚生を拡充するうえで有力な選択肢となっている。
個人が投資を始めるきっかけとなるほか、株式市場などへのリスクマネーの安定的な供給にもつながる。16年度の年間の掛け金は計8562億円。17年度は1兆円近くに上るとみられる。原則60歳まで引き出せないため、長期間にわたってマネーが投資信託などを通じて市場に流れ込み、企業の成長を後押しする効果が期待される。
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