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これを読んだら!と娘から渡されたのがこの本。
ブレイ ディみかこ著 新潮社
正直、全然知らなかったが、話題の本?らしい。
図書館への返却日も近いのでしぶしぶ読み始めた。
読みやすかった。
連載コラムをまとめたものなの?
著者は「ライター」だから文章に軽快さがあって読みやすいのか?と思った。
内容は、著者の10代はじめの息子さんの成長過程での思考とそれを通したイギリス社会の問題を知る事ができるもの。
イギリス人・・いや、アイルランド人の男性との間に生まれたお子さん。
この本の基盤にあるのは「アイデンティティ」「多様性」「差別」「人種差別」「階級差別」など。
二元論思考では絶対に理解も解決もできない問題。
多民族の移民を受け入れた国、EU離脱で国民が2分した国 イギリス。
複雑な社会である事を10歳くらいの少年の日常と思考から、知る事ができる。
それに比べれば日本はなんて単純で幸せなのだろう、、と思ってしまうが・・
現実は、「実習生」という名の移民政策により進む多民族化、正規非正規雇用の問題、貧富差の広がり、高齢者と若者、長寿と年金問題、若者の自殺の多さ、などなど、格差や対立や差別、孤独、はかなり広がっているように思う。
本を読んで複雑なイギリス社会を知るが、同時にイギリスの教育や住民の互助の考え方を知ると、うらやましくも思う。時間はかかっても問題を国民全体で、特に大人達とは違い、今まさに複雑な多様性の渦中で新しい価値観を育む若い世代が解決していくのだろう。
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教育・・
教育の影響の大きさについて考えさせられる。
日本は、「教師から生徒への一方通行」の教育がずっと行われてきた。それで育った大人が順に教師となり、その教育は益々「一方通行」度を濃くしてきてないのか?
【与えられた問題】に、【適した回答をする事が良し】とされてきた。
つまり、問題も答えもすでにあり、そのパターンをどれだけ多く記憶するかが重要だった。
「自分で考える」という名目で教えていた事は、文字通りの「自分が考える」のではなく、「どれだけ素早く回答を選び出せるか」という能力の事のように思う。
「思考」 ではない。
「問題」は、疑問を感じるから生れるもの。疑問を感じる力をつけるための教育っていうのは、日本の教育にはなかったのでは?
さらに、「問題」とは「自分にとって」であって、他者には問題ではないかもしれないし、またはその違う側面に「問題」を感じているかもしれない。
「問題」にはいろんな側面がある。
「問題」それ自体が正しいのか?間違えなのか?。
それより
正しいか間違えかの答えを出そうとする事が問題なのかも。。
つまり「答え」も多数存在する事になる。
1つの問題=1つの答え ・・・ ではない のだ。
ここに「多様性」と「アイデンティティ」の問題が存在する。
何を疑問に感じるのか?「自分」はなぜそう感じるのか?「自分」はどう考え何を提案をするのか?
「感じて考える自分」 ・・ それがアイデンティティ
同様に、「感じて考える他者」がいる事 ・・ それが多様性
そして多様性とは
世界であり、社会であり、自分の回りの事。
多様性とアイデンティティは同時に存在するもの。
特に今の日本では、多様性をひとつの線で区切り、こちらと向こう とに分け、「こちら」に所属する自分が「正しい」、向こうは「○○脳だ」「反○○だ」などなどと「絶対的な悪」かのように差別をする。
「自分」を主張するために「多様性」の中に敵を作り、その対比で「自分」を際立たせているかのようだ。常に「正しい」グループに所属する事に注意深を払っているようで、「感じて考える自分」(アイデンティティ)というより「所属を拠り所とする(匿名の)自分」でありアイデンティティではない。
著者の息子さんは10代はじめの年齢。その彼は、「そういう事はおかしくない?」と、自分の意見を堂々と話しする。
多種の出身国の移民の子が多数いる学校で、日常的にいろんな価値観に触れ、繊細な差別の場面にも遭遇している「彼」は、単純な感情とは別に相手の立場や背景をきちんと理解して言葉にしようとしている。
なんだか恥ずかしくなってくる。
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親である前にひとりの自分。
他者に対する態度。
息子さんには感心させられるが、母親である著者の態度にも感心してしまう。
イギリス社会で暮らす東洋人や他民族が、当然受けるであろう差別、
そして多様性やアイデンティティについて、「しょうがない事」「考えても無駄な事」とはぜずに向き合い自分の考えを持っている。
だからこそ息子さんの感情や言葉を受け入れ、「私はこう思う」と息子さんを「言ってもわかない子供」ではなく「ひとりの人間」として向き合っている。
その態度というのは、もちろん「愛」はあるけれど「尊重」だと思う。
私達にはかなり欠けている「態度」のような気がする。
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海外で暮らす人にとってはあたり前の話しなのだろうけれど
日本に住む私にとっては、考えさせられる「本」だった。
「考える事」「ひとりの私」の大切さを伝えたいと思っているが、まだまだ浅い事に気づかせてもらった。