( 常盤台写真場 )
先日、江戸東京たてもの園 に行きました。
古い建物の中で、感じて考えたい事があって・・・。
何回かに分けて整理します。
その第3回です。
第1回 家は暗くていい
第2回 家は暗くていい2
( 常盤台写真場 )
江戸東京たてもの園にあるのは、江戸時代から昭和20年代くらいの建物です。
江戸時代には電気の照明などなくロウソクや行燈(あんどん)が照明で、天井から照らす器具などはありませんでした。
今で言えば、スタンドを部屋のメインの照明とする事です。それはそれで素敵な事です。
室内は床面に近い位置からの光で天井に当たり間接光の全体照明になります。間接光があると奥行のある素敵な空間になります。
私はできるだけ天井に照明器具をつけたくないので、必要最小限の照明器具をつけ、あとはスタンドを複数使って、必要なところを明るくしてもらえばいいと思っています。
光=照明=明るさの濃淡=空間の広がり=豊かさ
と考えています。
明治から電気が普及し、住宅に電気の照明がつけられていきます。
それが ペンダントライト。
「電気」「照明」と言えば、ペンダントライトの事です。
構造はいたって簡単。白熱灯とそれを覆う笠。
行燈など床に置く照明から、天井から吊るすものになったわけですが、それでも現代の「シーリングライト」のように天井面に付けて「上から全てを照らす」というものではありません。
天井にくっつかず、ある程度の高さでぶら下がっている点が、実は結構優秀なのです。
床面ももちろん照らすけれど、天井面も照らし、それが間接光となり部屋全体を柔らかく照らします。
床置きの「行燈」の効果が保たれています。
( 田園調布の家 )
( 田園調布の家 )
ペンダントの「笠」は装飾として発展し、様々な形が生れました。
上の写真2枚は「田園調布の家」の中のペンダントライト。これでもシンプルだと思いますが、素敵な笠です。
笠のデザインによって「部屋のランク(重要性)」を表したり「その部屋の質の演出」がされています。
( 常盤台写真場 )
この写真は、「常盤台写真場」という写真館の応接室。 ペンダントの笠はさりげないデザインですが、室内のデザインと合わせ、存在を控え目にしています。
天井は白く、ペンダントライトからの光が天井に反射し部屋全体を柔らかい光で覆います。
( 万徳旅館 )
これは「旅館」の建物の1階。メインの道路側から幾つもの部屋がつながっています。
光の連なりは象徴的な演出です。「迎え入れる」みたいな効果もあるのかもしれません。
天井は、黒というかこい茶色です。天井に光を反射させる効果は薄れ、ペンダントライトの下面の明るさを強調します。床に意識を向かわせるので、「行燈」の効果に近く、落ち着き を演出できます。
( 大和屋本店 : 乾物屋 )
お店とはいえ、照明器具はペンダントライトしかありませんでした。
多数の商品を照らすために必然的に複数のライトを使う事になります。
当時は、「光(明るさ)」というのは高価なものだったでしょうから、多灯になると華やかになります。
お客さんの気持ちも必然的に高揚し、勢いで物を買ってしまったのか・・・?
( 前川國男邸 )
日本の現代建築の巨匠のお宅です。照明はとてもシンプルですが、ペンダントライトの高さを変える事で、空間の広がりや流れをつくっています。そしてソファーのところにはスタンド。暮し方がどんなに変わっても、「必要な所に必要な照明があればいい」というのは、不変です。
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ペンダントライト・・・天井からぶらさがる物ですから、「邪魔もの」のように考えられるかもしれませんが、部屋の質を左右することができる物なのです。昔のように「それしかない」わけではないので、使わなくてもいいかもしれません。でもうまく使うと、部屋がとても魅力的に変わります。
住宅の照明は、もっともっとご自分のアイディアで工夫して欲しいです。天井に大きなシーリングライトというのは、味も素っけもありません。「光」は、調理するのと同じです。自分らしい「光」を作りだしてください。