その時、浦島太郎は二十歳だった。思いも寄らず手にした玉手箱、その蓋を開けると立ち昇る白い煙の中に現れたのは七十七歳の老人の姿。箱の中には五十数年の時空の流れが閉じ込められていた。おとぎ話の如く面白おかしく暮らした歳月ではない。世を渡る術を尽くして生き延びてきた軌跡がそこにはある。
龍宮城へ向かう前に親しくしていた人たちと太郎が玉手箱を開けてから初めて顔を合せたらどういうことになるか。太郎自身も老いさらばえたが、その人たちも変貌してるに違いない。まして相手が女性だとすれば。想像もつかない。
例え話でも夢でもなく現実にこんな出会いが先般あった。或る日突然の電話。
「わかります? 先生。 TKです」
ん? TKさんなら妹の同級生で親友、年賀状は来たが全く会っていない。
「若々しい声だねえ。七十になったんでしょ」
「そうですよ。馬鹿は歳取らないって」
「うんうん」
「何ですかあそれ、先生そんなとこで肯定しないでくださいよお。
そちらの声は九十のお爺さんみたい」・・・(馬鹿でない証拠さ)
「実は同級生のYSさんがHM先生と話した際、「先生に会ってみたい」とおっしゃったそうです。私たちもお会いしたいし、よければHM先生と三人でお伺いしますがいかがでしょうか」
「そりゃあいいね。マッチ箱みたいな狭い家だが壁面いっぱいに切り絵作品掛けてるから是非来てくださいよ」
今年は昭和80年にあたるそうだけれど、昭和23年4月から24年3月までの一年間、両親の故郷の新制中学校で英語教師をした。
その時に同年齢の新人(音楽の先生)だったのがHM先生、二年生の生徒だったのがあとの二人というわけだが、一別以来今日までお互いの消息もはっきりせず、会う機会も無かった。それが今、五十数年ぶりに再会が実現したのだ。運命のいたずら?
先生とTKさんは熊本市在住だがYSさんはこの日のためだけにはるばる横浜から出て来たのだ。
新八代駅へさし向けたタクシーから我が家の前に降り立った三人の老婦人の姿を迎えての感想は? 我が使い古した脳細胞は全く予想が白紙だっただけに微妙な反応に揺れた。ここで詳細に記述しても読者には縁の無いことだが。
それからの三時間半余りは、普段一人で部屋ごもりしている腰の悪い老人とは完全に別人格だったと、今にして思う。
三脚立ててセルフタイマーかけてソファーに並んだ四人を撮影しながら「うまく撮れてなかったら自殺するよ」なんて言った。するとカメラ扱ったこと無いと言うTKさんが、HM先生と小生のツーショットを「写ってなかったら自殺」と言いながら撮った。
切り絵の話、パソコンの話、作曲の話、古いアルバムを取り出して二十歳の美人先生とかわいい少女の昔話、席を居間に移してから、貰い物のブルマンの封を切ってコーヒー入れたり、お菓子つまんだり、たまたま家内が大学病院の診察日で不在だった分も含めてしゃべりまくり、動きまわった。
列車の時間に合わせてタクシー呼んで三人が去った後は、さすがに普段の老骨に戻っていた。
話はまだ終らない。その一時間ばかり後、電話が鳴った。
「先生、今どこに居ると思います?」 TKさんの声。
「HM先生のおうちですよお」
あと二人も替わって電話に出た。女三人寄れば何とやら、さぞ話が弾んだことだろう。
龍宮城へ向かう前に親しくしていた人たちと太郎が玉手箱を開けてから初めて顔を合せたらどういうことになるか。太郎自身も老いさらばえたが、その人たちも変貌してるに違いない。まして相手が女性だとすれば。想像もつかない。
例え話でも夢でもなく現実にこんな出会いが先般あった。或る日突然の電話。
「わかります? 先生。 TKです」
ん? TKさんなら妹の同級生で親友、年賀状は来たが全く会っていない。
「若々しい声だねえ。七十になったんでしょ」
「そうですよ。馬鹿は歳取らないって」
「うんうん」
「何ですかあそれ、先生そんなとこで肯定しないでくださいよお。
そちらの声は九十のお爺さんみたい」・・・(馬鹿でない証拠さ)
「実は同級生のYSさんがHM先生と話した際、「先生に会ってみたい」とおっしゃったそうです。私たちもお会いしたいし、よければHM先生と三人でお伺いしますがいかがでしょうか」
「そりゃあいいね。マッチ箱みたいな狭い家だが壁面いっぱいに切り絵作品掛けてるから是非来てくださいよ」
今年は昭和80年にあたるそうだけれど、昭和23年4月から24年3月までの一年間、両親の故郷の新制中学校で英語教師をした。
その時に同年齢の新人(音楽の先生)だったのがHM先生、二年生の生徒だったのがあとの二人というわけだが、一別以来今日までお互いの消息もはっきりせず、会う機会も無かった。それが今、五十数年ぶりに再会が実現したのだ。運命のいたずら?
先生とTKさんは熊本市在住だがYSさんはこの日のためだけにはるばる横浜から出て来たのだ。
新八代駅へさし向けたタクシーから我が家の前に降り立った三人の老婦人の姿を迎えての感想は? 我が使い古した脳細胞は全く予想が白紙だっただけに微妙な反応に揺れた。ここで詳細に記述しても読者には縁の無いことだが。
それからの三時間半余りは、普段一人で部屋ごもりしている腰の悪い老人とは完全に別人格だったと、今にして思う。
三脚立ててセルフタイマーかけてソファーに並んだ四人を撮影しながら「うまく撮れてなかったら自殺するよ」なんて言った。するとカメラ扱ったこと無いと言うTKさんが、HM先生と小生のツーショットを「写ってなかったら自殺」と言いながら撮った。
切り絵の話、パソコンの話、作曲の話、古いアルバムを取り出して二十歳の美人先生とかわいい少女の昔話、席を居間に移してから、貰い物のブルマンの封を切ってコーヒー入れたり、お菓子つまんだり、たまたま家内が大学病院の診察日で不在だった分も含めてしゃべりまくり、動きまわった。
列車の時間に合わせてタクシー呼んで三人が去った後は、さすがに普段の老骨に戻っていた。
話はまだ終らない。その一時間ばかり後、電話が鳴った。
「先生、今どこに居ると思います?」 TKさんの声。
「HM先生のおうちですよお」
あと二人も替わって電話に出た。女三人寄れば何とやら、さぞ話が弾んだことだろう。