概要
以前、スリンキーコイル(トイボーイ)を使ってフラフープを骨格にした3.5MHzから50MHzまで送信できるアンテナを製作したことがありました。(2) また、最近James Bennett, KA5DVSが2003年4月に 発表したものをウェッブで発見して興味をそそられました。アドレスは: http://www.njqrp.club/qhbextra/10/10d.html
又はhttps://www.qsl.net/ash_ares/PAC-12%20Antenna.pdf
ここでは簡単な外観図だけがあっただけでした。またこのアンテナはこの上にテレスコピックのロッドアンテナを付けて調整するシステムの一部として提案されています。
このスケッチは魅力的なアイデアをわかせてくれたようだ。前回私はフラフープを使ったループ形状のスリンキーコイルアンテナを作った。ブログ(1)でも紹介したが、記事のままでは各バンドでの同調が十分には取ることができずに高いSWRになってしまうことで、外付けのATUが必要になっていたことでした。ATUなしでも使えるように記事では給電点にコンデンサを付けて同調をとれるようにしたが今回も同じような構造にしました。さらに、前回も同給電点だけでなくグランド側にも延長ケーブルでコイル途中にタップして使うとで同調がうまくできることを経験している。今回も同様の電気的構造を考えて製作してみました。
さらに、その後調べていたら国内の文献でも道下尚文、山田吉英氏らが2013年に発表した減り欠くアンテナの設計に関する記述があり(3)、内容の計算にまでは理解できなかったが図表が多き示唆に富むものでした。
文献中では、このような図を用いてアンテナのインピーダンス整合がうまくいくことが解説されておりました。難しい計算は私には理解できませんでしたが、ともかく、アンテナの調整で起こる様々な変化が同じように実感できたことで、調整法として間違ってはいなかったことを感じました。
出典(3)山田吉英、道下尚文著:“小形ノーマルモードヘリカルアンテナの設計法と性能” 電子情報通信学会論文誌B Vol. J96–B No. 9 pp. 894–906
つまり、一本のコイルの一部をそれぞれ用いて、給電側と送信側にはタップを付け、接続位置を変えて調整することでより、完全なマッチングが可能になるという事でした。
使用したスリンキーコイルは、前回使用した32ターン分を切り取った残り部分で数えたら46ターンありましたので、そのまま使ってみることにしました。中心部に使う塩化ビニール製パイプはVP20(外径26mm、3mmt)程度を考えていたが電気工事に使われているVE-22がちょうど同じ外径で26mmであり、しかも壁厚が2mmとVP管より軽いのが特徴です。しかもパイプの両端にはVP20用のキャップが使用できそうできました。したがってアンテナ本体部分は50mm長さのVE-22管(VP-20も同じにできます)とVP20のキャップ2個です。
庭先に立てたスリンキー・バーチカル・アンテナ
カメラ用の三脚に立つようにアルミのステー板にW1/4”のタップを立てて、三脚のカメラの取付けネジがそのまま使えるようにしました。
ウェブの記事では、フラフープで作るスリンキーアンテナの時と同様に、給電部だけがタップで位置取りしていたが、これだけでは十分にSWRを下げきることができずにいました。
私の工夫した点はこれまでの給電点をタップで調整するだけでなく、さらに接地(GRD)点もタップで持ち上げることで非常に整合の取れた同調が可能になることでした。
さらに今回見つけた文献に似たようなアンテナの解析と実験をされているのがあり。(3)
考え方が同じ方法であり、心を強くしたのでした。
使用した材料
使用した材料の一覧をあげておきます。
もちろんその他にはハンダが必要です。また、タマゴラグ1個、揺れを少し減少させるためにテグス線少々などありますがほかの代用品を用いても用いなくても大差なくできますので工夫してみてください。
上部に用いた蝶ネジは、見栄えをよくするためと、移動運用時などに分解組み立てのしやすさを考えたものです。もちろん下部のM5ネジも蝶ネジに変更してもかまいません。
スリンキーコイルはアマゾンで購入できます。
今日現在でこのスリンキーコイルは\2,480でした。
全体の回路図はこのようになります。
上部の配線はVE22チューブの内部を通してVP-20キャップの底に穴をあけて電線を通しました
基台の加工
まず、写真にあるコイルを取り付ける基台を加工します。基台は20mm幅 x 200mm長さ のアルミステーを図の位置でコの字型になるように2か所曲げますが、カメラの三脚で使われているW1/4”ネジのためのタップは長孔の中間に、折り曲げる前にあけます。その後、下の図の位置で直角に折り曲げてコの字型にします。写真の形状を参考にしてください。
さらに現物合わせで2個のバリコンを取り付けるために3mmのねじ止め用の穴を開けますが、バリコンを少し斜めにかしいで取り付けてスペースを確保しました。一番下のスペースに2極のトグルスイッチを付けて220pF(1kV耐圧)を3.5MHz帯に使うために用意しました。
25mm□の角座MJコネクタを取り付けるために断面がL型の不等辺平板を用いました。この平板はアングル材として1m長さのものがホームセンターで購入できます。サイズは30x10mmで厚さ 2tのものから30mm長さ切り取って使用します。私は自宅にあった以前アンテナ製作に使った素材で残っていたものから適当に使用しました。取り付けは基台のアルミステーに3mmのビス2本で取り付けるようにM3でタップを基台側に立てました。
アンテナの同調に使うバリコンは以前メルカリやヤフオクなどで入手していたものでタイト製バリコンを使用しました。20pF同調点近くでは少しの動きで変化が大きく動きすぎるので、10pF程度があればその方がよかったかもしれません。2本の3mmネジで固定します。
スリンキーコイルの取り付け
スリンキーコイルは50cmに切断したVE-22(VP-20と同じ外径、ただし肉厚が薄くて軽い)にVP-20用のキャップを両端につけて全長は54cmになりました。
その際、上下につけるコイルの吊り下げ治具を2個、次の図のように製作してキャップに固定することにしました。使ったアルミの平板は10mm幅の2mm厚のものを使いました。
参考までに組み立ての構造についても書いておきます。
この両端のキャップ構造は;
このキャップ2個を500mm長さのVE-22管につけて組み立てです。上部キャップの内側に装着する圧着端子から外部に取り出すケーブルを通すために下部キャップには取り出し穴が必要になります。
VE管方飛び出した50mm長さの吊り下げ治具にスリンキーコイルを下げます。このためにスルンキーコイルの両端にはあら可締め圧着端子をカシメ、はんだ付けしておきます。
このアンテナの上部はこのようになりました。
このコイルのインダクタンスはLCRメーターDE-500での測定で、でした。前回フラフープを使ったスリンキーループに使用した時のスリンキーコイルのインダクタンスは32ターン分でその時のデータと比較してみました。この時は円形にコイルを広げて巻いたので、こんかいのVE22に吊り下げたものと比べ、インダクタンスは少し少な目でした。
ここで測定周波数によるインダクタンスの変化をターン数によってどれくらい変化するのかを見てみました。
この計算結果から今回はバリコンを50pFと20pFを用いて組み合わせることにしました。さらに3.5MHzにも対応したいのでトグルスイッチで220pFをバリコンに並列に追加できるように工夫した。
当初測定したらバリコンの端子間抵抗は20Ωほどあったのでアルミ部分の接触部分をすべてやすり掛けして表面のアルマイト部分を剥離し、導電ペーストを塗り、内歯ワッシャを各所に入れて全体の接触抵抗を1Ω以下にすることができました。コイル部分の抵抗だけで1Ω程度あるので全体では1.2Ω程度でした。
基台内の配線
作られる際は回路図を参考にして組み立ててください。
配線状態がわかるように、M―コネクタの取り付け部を異なる角度から示しました。
ここで見えているM-コネクタから出ている赤色のケーブルは給電タップにつながるケーブルであり、スリンキーコイルの終点部から出ている青色のケーブルはGRDタップにつながるケーブルです。長さはそれぞれ50cmくらいで先端まで届くように作りました。
バンドごとでの特性確認
80mから6mまでの各バンドについてSWRが最低点に行きつくまで調整した時のFP(給電点)とGND点についてまとめました。
いずれのバンドでもMINでSWRは1.1以下まで調整可能であることがわかりました。
上端からのタップを取り付ける位置をグラフにしました。
全ての計測は接触部分の抵抗をできる限り下げて行った値です。
また、各バンドでのSWR1.5以下となる範囲をプロットしています。
7MHz(40m)バンド以下ではさすがに150kHzの範囲になっていますが、周波数が上がるにしたがってバンド幅の広がり、6mバンドでは400-500kHzの範囲をカバーしているのがわかりました。
また、同時に測定されたリターンロスはこのようになりました。
ここで見るリターンロスはいずれも-30dB以下であり、満足できるものでした。
例えばSWRとインピーダンスのグラフを見ると各バンドともこのように調整が可能でした。
このようになっており、50.2MHzをセンターとして調整した時のグラフです。
全てのデータはSARK-110を使用して計測した。もちろん計測前にはSOL(short, Open, Load)での校正を行って計測にかかりました。
コイルが揺れるとそのインダクタンスの変化に伴いSWR値も変化するので少しでも揺れを抑えるために、さらにナイロン製のテグスを使って15ターン目、30ターン目で上方吊り下げました。これ井より、コイルの余分な偏りのかなり抑えることができました。
また、3.705MHzに調整した時の状況をnanoVNAで計測してみました。もちろん検定後です。
nanoVNAのデータ部分を拡大しました。
ただしこのままでは10WCWで調整しているときに追加で接続した220pFかだんだんと高温になってしまい、静電容量が少なくなってきたようで、バリコンで時々調整しなおす必要がありました。この変化を抑えるためにとりあえず6mmODのアルミパイプを1cmほど切り取り、放熱グリースを詰めてコンデンサの放熱器にしたらだいぶん落ち着いたようでした。調べてみたらU2J(EIA)規格は-750±120ppm/℃らしく相当変化しそうな勢いでした。
アンテナアナライザーではきっちりと調整できていても送信機から5W.10Wと入力を上げるといろんな部品が悲鳴を上げそうで、あらためて、部品選択の難しさを感じました。
さらにコンデンサの昇温を防ぐ目的で少し低容量の高耐圧コンデンサを探していたら27pF、1kVのセラミックコンデンサがヤフオクであったので購入しました。これを8個並列にできるように両面基板を切って端子バントしました。8個での静電容量は計算では216pFですが実際には217pFでした。
これでSWRが1.5位間あるバンド幅はそれぞれ82kHzと86kHzでした。この時のSWRとリターンロスのグラフがこれでした。
10W CWでの送信ではやはり熱くなりましたがSWRが変化することはなくなりました。方向としては正しいようでした。
後は運用実績を積んでみようと思います。
Reference:
- スリンキーアンテナについては
https://www.nonstopsystems.com/radio/pdf-ant/article-antenna-slinky-RDCM-11-2010.pdf および私のブログhttps://blog.goo.ne.jp/iau9229/e/32f124d8eb048ee581fb5178a4bbb837
- http://www.njqrp.club/qhbextra/10/10d.html 又はhttps://www.qsl.net/ash_ares/PAC-12%20Antenna.pdf
- 山田吉英、道下尚文著:“小形ノーマルモードヘリカルアンテナの設計法と性能” 電子情報通信学会論文誌B Vol. J96–B No. 9 pp. 894–906
以上 2020_06_21
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます