拙著の『個の時代のむらと農』を意識しての質問だった
私たち団塊は、小さい頃から「個の確立」とか、自立と言ったことをいやというほど聞かされて育った。戦後民主主義教育は、「市民社会の前提は、個の自立から」。しかし未だに自立感はない。流浪の民になるか、群れるか、
だが、そんなことをいわなくても既に「個の時代」に突入している。
マスが希薄になってしまったのである。
そのいい例は選挙での組織票の崩壊だ。労働組合の組織率の低さにすでに現れていたのだが、人々は変な理性で囲い込まれたり、参加を求められるのをいやがっている。
今や動機は全て一人一人の価値観、もっと言えば好き嫌い。
本には、団体購読があるが、視聴率には団体がまとめて見たから高まったなどというのは聞いたことがない。
人々が、好き嫌いで見て結果がマクロの数値ででるだけ。良かったかどうかは、供給者が事後的に知るという世界。供給サイドが、消費者を囲い込める時代は終わった。本でも、まとめ買いよりも、やはり市場での宣伝に一人一人反応する方が販売が伸びる。生協などもきわどいところにある。
2,マーケテイングの世界ではこれはもはや常識だ。
ロイヤリティマーケテイングは、囲い込めない消費者のせめてもの囲い込みをはかるMKT戦略。嚆矢は、アメリカン航空のマイレージ。今や常識。ポイント付与で、囲い込まれる側にインセンティブを与える戦略。FSP(フリークエントショッパーズプログラム)はせめてもの供給対応だろう。近年はカードを作れ作れとうるさい。
レジをすると必ず「カードはお持ちですか?」と聞かれる。それだけならまだしも、ショッピング中に寄ってきて、「カードをお作りになりませんか」といわれる。先日は、グリーンマートでどういう訳か「日専連」のカードが、また「やまや」で勧誘にあった。データを集めてというのもいいが、こう頻繁に顧客情報が漏れるのでは、漏れて困る情報もないのだが、何となくいやになる。
人々は囲い込まれるのを確かにいやがっているのだ。
囲い込まれるのはステータスにも何にもならない社会になっている。
3,人々は自分に合うものを選ぼうとしている。それが相互にネットワークで結びつき強大な力を得始めている。
供給者側は、番組作成者と同様だ。自分のフィロソフィーで商品を提供し、この指とまれしかなくなってくる。だから自分のフィロソフィーと社会の流れがあうかどうか、常にトライアンドエラーの必要がある。
「あれもこれもできる大企業」がいい気業とされた。しかし、「あれもこれも」といったフィロソフィーを持つものは、大企業に限らずこれからの市場にあわなくなる。農協の生き残りが厳しいのはそうした事による。
供給側は、常に顧客が「これだ」という仕組みを提供しなければならない。
ビジネスシーズは、市場調査して、データ分析して、みんなで会議して、そして出てくるようなものではない。
不便を感じたとき、思いつきで出てくるようなものだ。
だから、大泉ゼミは、「生活と隣人を大切にするビジネス」を主張している。日常の中から問題発見し、それがビジネスに結びつけばというパターンだ。北欧型の経済だ。知識が重要になる、教育が大切になる。市場はニッチになる。
ただし、北欧型にするには、膨大な比率の在世支出となる。だからこそ、官の役割を限定する必要がある。徹底した小さな政府を作っておかなければならない。
4,私たちが受けた教育や、論壇で主張されてきた様な、「朝日・岩波」的価値観の、「戦後民主主義→労働組合→市民社会の確立→個の確立」といった個の自立はなかった。
ところが、大衆消費社会では、既に個が自己主張しはじめている。ただ、その個は、「関係性を持った個」(拙著『個の時代のむらと農』194頁参照)ではなく、関係性は希薄でバーチャルな個でしかない。流浪する個の大量生産でしかないのかもしれない。
これも「過度の私の露出」182頁として指摘してきたものだ(『個の時代のむらと農』6章「自由になると共同が欲しくなる」参照)。
「個」が中心となる社会を、私は「あらたに復活する共同」188頁といってきた。それは人と人とが好き嫌いで顔を合わせる「好縁社会」(堺屋太一)であり、「社交社会」(山崎正和)であるが、他方で、個々人が網の目のようなネットワークでその目的に応じてつながる社会である。
ベースはどちらも「好き嫌い」である。それだけ理性ではなく、感性が支配する社会に入ったのである。
一方は、時々好き嫌いで顔をあわせる「感性社会」であり、また他方は、自分の趣味や考えと特定時点だけで一致するバーチャルで顔を知らない「感性社会」である。
私が好きなのは、アナログなリアリティのある感性社会である。自然を自らの精神性の中心に据える生き方がいい。
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