お父さん。彼は意思の強い男だった。
彼の名前はジフ。
彼がこの島に生まれてすぐ、両親が離婚した。父親は島を出て行き、母とともにこの島に暮らした。
女手一つで育ててくれる母を支えようと、家事の手伝い、アルバイト、なんでもやった。
ちょうどその頃近所の漁師に習って漁業も習得した。
彼には生きるという事に対する信念があった。島を守る、子供や未来を担う若者を守る事で、人間の営みを継続させる、という一種の宗教じみた観念を持っていた。
そしてその反面、老いたるものに対して厳しく、必要があれば切り捨てるような冷酷な感覚を持っていた。
彼は家の外に出て、足音の方に向かっていつた。民家のある小道を抜けて大きな通りに出る。周りは汚い蔦まみれのホテルの看板、それに旧時代の趣をもったホテルの廃墟、またはそれを取り崩したのだろうか、瓦礫の残りが堆積している区画が、いくつかあった。
ジフは足音を追って、まるで狩をするヒョウのように足を運んだ。
路地を曲がると、2人の男女が立っていた。
2人の男女は辺りを見回して、何かを探している様子だった。
トランの情報と一致する、2人の男女。
男は身長150㎝くらいだろうか、小柄な体格で、黒のハットにジャケットを羽織っていた。
女の方はシルクのドレスを着た、長身の女だった。2人とも、人を殺しにきた、というよりもパーティに行くときのような、田舎に不似合いな格好をしていた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます