メディアの中でもこの事件に関して熱心に取材してバロンの出自を明かし、その後も真相を負って、天王寺動物園と動物商との取引をスッパ抜いた新聞社が朝日新聞だ。何かと色眼鏡で見られがちな新聞社だが、皆が見て見ぬふりを決め込んだバロンの真実をしっかり追求し、記事にしてくれたことが頼もしい。
2016年6月1日朝日新聞紙面掲載記事
責任あいまいな動物取引、シマウマに悲劇
死んだシマウマ、どこから来たの?
3月、愛知県瀬戸市の乗馬クラブを脱走したシマウマが近くのゴルフ場でおぼれ死んだ。まだ1歳。悲劇の背景を探ると、管理責任があいまいな動物取引の実態が見えてきた。
「残念な結果だ。我々にも反省すべきところがある」
約200キロ離れた大阪市天王寺動物園の職員はそう話す。死んだのは、前日まで同園で飼育されていたオスのグラントシマウマだった。名前は「バロン」。親子で飼育されてきたが、1歳を超え、「次の行き先」を探していた。
「オスは大きくなると父親と争うようになる。でもずっと別々に育てていくスペースは確保できない」と高見一利・動物園担当課長代理は話す。半年かかっても行き先が見つからなかったという。
■交換、さらに転売
最終的に運命が決まったのは今年2月1日。名古屋市の動物商、坪井源幸(げんこう)氏と同園が「動物交換契約書」を締結、バロンはメガネフクロウなどと交換されることになった。坪井氏は、シマウマを求めていた愛知県尾張旭市の移動動物園にバロンを転売した。
なぜ死に至ったのか。
3月22日、バロンは天王寺動物園から搬出された。人馴(な)れさせる訓練のため、その日のうちに瀬戸市の乗馬クラブへ。動物園の外に出たのも、見知らぬ人が近づいてくる経験も初めてだった。パニックに陥ったのか、岐阜県に逃走。翌23日、麻酔薬入りの吹き矢を受けて池に倒れて死んだ。
乗馬クラブの柵は大型哺乳類なら容易に逃げられるようなつくりだったという。天王寺動物園は「信頼するしかなかった」。坪井氏は「受け入れ先の施設が聞いていたものと全く違った」と悔やむ。
■「余剰動物」問題
不幸な死を除けば、バロンの身の上は、日本の動物園で生まれる動物にとって珍しいことではない。業界内では、次の行き先を探さなければいけない動物を「余剰動物」と言う。受け入れ先探しに悩みながら新たな動物も迎え入れたい動物園。国内では簡単には手に入らない動物を仕入れ、売買したい動物商。もちつもたれつの関係が続いている。高見課長代理は「定期的に繁殖を行って動物を維持し、新しい動物も導入しないといけない。ほかの動物園や動物商との交換は常時行っている」。
ただ、動物園同士の交換と異なり、動物商が介在する取引の場合は、動物の行き先を把握できないことも多い。今年4月に鹿児島市平川動物公園が動物商に渡したコツメカワウソ2頭も、静岡市内のペット店で販売されていた。坪井氏も「ペット店やブリーダーが買ってくれるので、売り先を見つけるのには困らない」と明かす。
■「行き先、責任を」
日大生物資源科学部の村田浩一教授(動物園学)によると、動物商は日本には明治時代からおり、動物園の発展を担ってきた存在という。だが欧米の動物園は40年以上前から動物商の利用を自粛。動物園同士の交換によって種の保存、維持に努めている。
日本は手狭な園が多く、特に大型動物の場合は、種の保存のために繁殖しても群れで飼育していくのは容易ではない。余剰動物問題の解決には動物商に頼らざるをえない側面がある。村田教授は言う。「シマウマの事件は、特定の動物園の問題ではない。他園に渡すにしろ、仕方なく動物商に渡すにしろ、余剰動物の行き先に責任を持つべきだろう」
(太田匡彦)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12386496.html
(刺さった吹き矢は向こう側の棒状のものではなくて、左側の首の小さく赤く見える部分なのだが、些細な間違いにも詫びを入れる姿勢に好感が持てた。)
朝日新聞デジタルにも同じような記事が掲載された
溺死のシマウマ、悲劇の背景は…動物取引の管理責任は
http://www.asahi.com/articles/ASJ5W5GC2J5WUTFL00D.html?iref=comtop_8_01
動物交換契約書の拡大写真↓
http://www.asahi.com/articles/photo/AS20160531004059.html
この記事でバロンは天王寺動物園→動物商T→動物プロダクションG(移動動物園長S)と所有者が移ってきたことがわかった。動物商Tがシマウマの性質や飼育環境についてしっかり説明を行ったかどうかが問われるが、「受け入れ先の施設が聞いていたものと全く違った。判断が甘かった」と悔やんでいると言う。
これが真実で、新しい飼い主が「知り合いの乗馬クラブに預けるから設備的には大丈夫だ」と言っていたのならば、動物プロダクションGの考えの甘さが招いた悲劇だと言えよう。
Gが表に出てこないので真相はわからないが、譲渡時、動物商Tが動物取扱業者として動物愛護法通りしっかりと責任を持って飼育方法や注意点について説明していれば、事故は妨げられたと思う。突き詰めれば、天王寺動物園が動物商Tにしっかり説明していたのかという問題にも触れなければならなくなるだろう。
2016年6月1日朝日新聞紙面掲載記事
責任あいまいな動物取引、シマウマに悲劇
死んだシマウマ、どこから来たの?
3月、愛知県瀬戸市の乗馬クラブを脱走したシマウマが近くのゴルフ場でおぼれ死んだ。まだ1歳。悲劇の背景を探ると、管理責任があいまいな動物取引の実態が見えてきた。
「残念な結果だ。我々にも反省すべきところがある」
約200キロ離れた大阪市天王寺動物園の職員はそう話す。死んだのは、前日まで同園で飼育されていたオスのグラントシマウマだった。名前は「バロン」。親子で飼育されてきたが、1歳を超え、「次の行き先」を探していた。
「オスは大きくなると父親と争うようになる。でもずっと別々に育てていくスペースは確保できない」と高見一利・動物園担当課長代理は話す。半年かかっても行き先が見つからなかったという。
■交換、さらに転売
最終的に運命が決まったのは今年2月1日。名古屋市の動物商、坪井源幸(げんこう)氏と同園が「動物交換契約書」を締結、バロンはメガネフクロウなどと交換されることになった。坪井氏は、シマウマを求めていた愛知県尾張旭市の移動動物園にバロンを転売した。
なぜ死に至ったのか。
3月22日、バロンは天王寺動物園から搬出された。人馴(な)れさせる訓練のため、その日のうちに瀬戸市の乗馬クラブへ。動物園の外に出たのも、見知らぬ人が近づいてくる経験も初めてだった。パニックに陥ったのか、岐阜県に逃走。翌23日、麻酔薬入りの吹き矢を受けて池に倒れて死んだ。
乗馬クラブの柵は大型哺乳類なら容易に逃げられるようなつくりだったという。天王寺動物園は「信頼するしかなかった」。坪井氏は「受け入れ先の施設が聞いていたものと全く違った」と悔やむ。
■「余剰動物」問題
不幸な死を除けば、バロンの身の上は、日本の動物園で生まれる動物にとって珍しいことではない。業界内では、次の行き先を探さなければいけない動物を「余剰動物」と言う。受け入れ先探しに悩みながら新たな動物も迎え入れたい動物園。国内では簡単には手に入らない動物を仕入れ、売買したい動物商。もちつもたれつの関係が続いている。高見課長代理は「定期的に繁殖を行って動物を維持し、新しい動物も導入しないといけない。ほかの動物園や動物商との交換は常時行っている」。
ただ、動物園同士の交換と異なり、動物商が介在する取引の場合は、動物の行き先を把握できないことも多い。今年4月に鹿児島市平川動物公園が動物商に渡したコツメカワウソ2頭も、静岡市内のペット店で販売されていた。坪井氏も「ペット店やブリーダーが買ってくれるので、売り先を見つけるのには困らない」と明かす。
■「行き先、責任を」
日大生物資源科学部の村田浩一教授(動物園学)によると、動物商は日本には明治時代からおり、動物園の発展を担ってきた存在という。だが欧米の動物園は40年以上前から動物商の利用を自粛。動物園同士の交換によって種の保存、維持に努めている。
日本は手狭な園が多く、特に大型動物の場合は、種の保存のために繁殖しても群れで飼育していくのは容易ではない。余剰動物問題の解決には動物商に頼らざるをえない側面がある。村田教授は言う。「シマウマの事件は、特定の動物園の問題ではない。他園に渡すにしろ、仕方なく動物商に渡すにしろ、余剰動物の行き先に責任を持つべきだろう」
(太田匡彦)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12386496.html
(刺さった吹き矢は向こう側の棒状のものではなくて、左側の首の小さく赤く見える部分なのだが、些細な間違いにも詫びを入れる姿勢に好感が持てた。)
朝日新聞デジタルにも同じような記事が掲載された
溺死のシマウマ、悲劇の背景は…動物取引の管理責任は
http://www.asahi.com/articles/ASJ5W5GC2J5WUTFL00D.html?iref=comtop_8_01
動物交換契約書の拡大写真↓
http://www.asahi.com/articles/photo/AS20160531004059.html
この記事でバロンは天王寺動物園→動物商T→動物プロダクションG(移動動物園長S)と所有者が移ってきたことがわかった。動物商Tがシマウマの性質や飼育環境についてしっかり説明を行ったかどうかが問われるが、「受け入れ先の施設が聞いていたものと全く違った。判断が甘かった」と悔やんでいると言う。
これが真実で、新しい飼い主が「知り合いの乗馬クラブに預けるから設備的には大丈夫だ」と言っていたのならば、動物プロダクションGの考えの甘さが招いた悲劇だと言えよう。
Gが表に出てこないので真相はわからないが、譲渡時、動物商Tが動物取扱業者として動物愛護法通りしっかりと責任を持って飼育方法や注意点について説明していれば、事故は妨げられたと思う。突き詰めれば、天王寺動物園が動物商Tにしっかり説明していたのかという問題にも触れなければならなくなるだろう。