命きらめいて☆馬、犬、猫など動物に関する理不尽な事件や心温まる出来事の記録

円山動物園マレーグマ虐待死亡事件/脱走シマウマ水死事件/動物虐殺事件/宮古馬放置死事件/上げ馬神事

動物商へ売られたバロン

2016年06月04日 23時23分11秒 | 事件
メディアの中でもこの事件に関して熱心に取材してバロンの出自を明かし、その後も真相を負って、天王寺動物園と動物商との取引をスッパ抜いた新聞社が朝日新聞だ。何かと色眼鏡で見られがちな新聞社だが、皆が見て見ぬふりを決め込んだバロンの真実をしっかり追求し、記事にしてくれたことが頼もしい。

2016年6月1日朝日新聞紙面掲載記事
責任あいまいな動物取引、シマウマに悲劇
死んだシマウマ、どこから来たの?


 3月、愛知県瀬戸市の乗馬クラブを脱走したシマウマが近くのゴルフ場でおぼれ死んだ。まだ1歳。悲劇の背景を探ると、管理責任があいまいな動物取引の実態が見えてきた。
 「残念な結果だ。我々にも反省すべきところがある」
 約200キロ離れた大阪市天王寺動物園の職員はそう話す。死んだのは、前日まで同園で飼育されていたオスのグラントシマウマだった。名前は「バロン」。親子で飼育されてきたが、1歳を超え、「次の行き先」を探していた。
 「オスは大きくなると父親と争うようになる。でもずっと別々に育てていくスペースは確保できない」と高見一利・動物園担当課長代理は話す。半年かかっても行き先が見つからなかったという。
 ■交換、さらに転売
 最終的に運命が決まったのは今年2月1日。名古屋市の動物商、坪井源幸(げんこう)氏と同園が「動物交換契約書」を締結、バロンはメガネフクロウなどと交換されることになった。坪井氏は、シマウマを求めていた愛知県尾張旭市の移動動物園にバロンを転売した。
 なぜ死に至ったのか。
 3月22日、バロンは天王寺動物園から搬出された。人馴(な)れさせる訓練のため、その日のうちに瀬戸市の乗馬クラブへ。動物園の外に出たのも、見知らぬ人が近づいてくる経験も初めてだった。パニックに陥ったのか、岐阜県に逃走。翌23日、麻酔薬入りの吹き矢を受けて池に倒れて死んだ。
 乗馬クラブの柵は大型哺乳類なら容易に逃げられるようなつくりだったという。天王寺動物園は「信頼するしかなかった」。坪井氏は「受け入れ先の施設が聞いていたものと全く違った」と悔やむ。
 ■「余剰動物」問題
 不幸な死を除けば、バロンの身の上は、日本の動物園で生まれる動物にとって珍しいことではない。業界内では、次の行き先を探さなければいけない動物を「余剰動物」と言う。受け入れ先探しに悩みながら新たな動物も迎え入れたい動物園。国内では簡単には手に入らない動物を仕入れ、売買したい動物商。もちつもたれつの関係が続いている。高見課長代理は「定期的に繁殖を行って動物を維持し、新しい動物も導入しないといけない。ほかの動物園や動物商との交換は常時行っている」。
 ただ、動物園同士の交換と異なり、動物商が介在する取引の場合は、動物の行き先を把握できないことも多い。今年4月に鹿児島市平川動物公園が動物商に渡したコツメカワウソ2頭も、静岡市内のペット店で販売されていた。坪井氏も「ペット店やブリーダーが買ってくれるので、売り先を見つけるのには困らない」と明かす。
 ■「行き先、責任を」
 日大生物資源科学部の村田浩一教授(動物園学)によると、動物商は日本には明治時代からおり、動物園の発展を担ってきた存在という。だが欧米の動物園は40年以上前から動物商の利用を自粛。動物園同士の交換によって種の保存、維持に努めている。
 日本は手狭な園が多く、特に大型動物の場合は、種の保存のために繁殖しても群れで飼育していくのは容易ではない。余剰動物問題の解決には動物商に頼らざるをえない側面がある。村田教授は言う。「シマウマの事件は、特定の動物園の問題ではない。他園に渡すにしろ、仕方なく動物商に渡すにしろ、余剰動物の行き先に責任を持つべきだろう」
 (太田匡彦)
 
http://www.asahi.com/articles/DA3S12386496.html

(刺さった吹き矢は向こう側の棒状のものではなくて、左側の首の小さく赤く見える部分なのだが、些細な間違いにも詫びを入れる姿勢に好感が持てた。)

朝日新聞デジタルにも同じような記事が掲載された

溺死のシマウマ、悲劇の背景は…動物取引の管理責任は
http://www.asahi.com/articles/ASJ5W5GC2J5WUTFL00D.html?iref=comtop_8_01

動物交換契約書の拡大写真↓
http://www.asahi.com/articles/photo/AS20160531004059.html

この記事でバロンは天王寺動物園→動物商T→動物プロダクションG(移動動物園長S)と所有者が移ってきたことがわかった。動物商Tがシマウマの性質や飼育環境についてしっかり説明を行ったかどうかが問われるが、「受け入れ先の施設が聞いていたものと全く違った。判断が甘かった」と悔やんでいると言う。

これが真実で、新しい飼い主が「知り合いの乗馬クラブに預けるから設備的には大丈夫だ」と言っていたのならば、動物プロダクションGの考えの甘さが招いた悲劇だと言えよう。

Gが表に出てこないので真相はわからないが、譲渡時、動物商Tが動物取扱業者として動物愛護法通りしっかりと責任を持って飼育方法や注意点について説明していれば、事故は妨げられたと思う。突き詰めれば、天王寺動物園が動物商Tにしっかり説明していたのかという問題にも触れなければならなくなるだろう。


マスコミの功罪

2016年06月04日 09時40分32秒 | 事件
いろいろなニュース記事を調べて行くうちに
○新しい飼い主は移動動物園での展示を目指していたこと
○国道での目撃情報からバロンを見つけ出した警察がバロンを人家から遠ざけるために、ゴルフ場へと追い込んだらしいことが新たに分かった。

こういう場事件というのは人命第一が大前提だ。動物が二の次だと言うことも理解できる。人里に現れた熊や猪なら銃で仕留めるという作戦になるはずだ。しかし、捕獲チームは所有者の意向もあったのだろう、シマウマにしては比較的おとなしいバロンの生け捕り作戦を展開することにしたようだ。

一見手っ取り速そうな「一気に網をかぶせて生け捕る」という方法は避けられた。衝撃やストレスに弱いシマウマなのでショック死の可能性もある。人馬ともに負傷するかもしれないというような危険性も高いので避けられたのだろうか。それらの理由から、「ゴルフ場という安全地帯から逃げないように取り囲んだりして誘導しながら、吹き矢の麻酔で眠らせて捕獲する」という作戦を選択したということならば最善の作戦だったと思う。

しかし、映像を見て驚いた。乗馬クラブ関係者、飼い主、獣医、警官たちが誘導だけではなく、上着、吹き矢、ロープ、小枝などで何度もむやみにさわったり、叩いているではないか。余計に興奮させていたのはどういう意味があったのだろうか。疲れさせて早く麻酔が効くようにとでも思ったのだろうが、反対に興奮して危ないし、そのために麻酔が効きにくくなるというのに…。

麻酔で眠らせる作戦ならば、麻酔が効きやすいようにじっと見守る方向で取り組んでほしかった。誘導するには上野動物園のシマウマ捕獲訓練のように声を出しながら人でバリヤを張れば、そちらの方向には行かず、空いている方向に行くはずである。盾があれば安全に誘導できたのにと思う。なければバスタオルなどを広げて阻止するでも良かったのではないだろうか。何もないよりもましだ。

しかし、彼らは一般的な1-3回ではなく7回も麻酔を打ち込んでより恐怖とパニックを誘発し、なぜかロープでも捕まえようとしていた。網よりも高いその危険性については前にも書いた通りである。

とにかく、あの現場の状況は本当に理解に苦しむことばかりだった。

報道するマスコミも民間が起こした事件だからなのかもしれないが、カメラマンがわんさか取り囲み、新聞社とテレビ局総動員でお祭り状態だったのだ。恐怖のあまり奇声をあげるレポーターもいたし、大勢の人間たちと上空のヘリの音でさらにバロンを興奮させたことは否めない。

それらが無ければ興奮して逃げ回ることもなく、もっと早くに麻酔が効いてきて、7本目を打たれることは無かったのかもしれないことを関係者は考えてみてほしい。とは言っても、お陰で詳細がわかるし証拠動画もたくさん残ったのだが、陸から空からと、多くの人間や機材に追い回されるバロンが本当に気の毒だった。



そのように多くのメディアが現地にいたにもかかわらず、報道の内容は統一されてはいず、以下ような間違いや偏りが見られる報道となっていた。

●動物園からバロンを乗せてきた輸送車から、預け先の放牧場に入れられたとたんの脱走なのに、「農場に飼われていたシマウマ」と報道するところが多かった。

●バロンが生まれた場所も確かめず、「アフリカから来た」と思わせるようなコメントなどをして、みんなに天王寺動物園でかわいがられていたバロンだという報道するメディアは一切なかった。

●池から引き揚げられたとき、目を見開いたままの心肺停止状態で事実上死亡していて、警察もそう発表しているのに「捕獲されたがその後に死亡した」と報道していた。(捕獲とは生きた状態での言葉)

●飼い主については第一報では企業名はなく本名で、乗馬クラブについては企業名で報道された。その後はずっと「所有者の男性」のような表現で書かれ、一方、「瀬戸市の乗馬クラブ」ではなく、乗馬クラブの企業名はさらされ続けていた。

●ある番組ははしゃぎ過ぎて、運動能力の高いタレント武井壮にシマウマ捕獲オファーをしたらしい。

「陸上選手でタレントの武井壮(42)が、死んだ脱走シマウマを捕獲する企画のオファーが来ていたことを明かした。」
http://konomi.me/I0002708
さまざまな動物の倒し方をシミュレーションするネタで知られ「百獣の王」の異名を持つ武井は、23日にツイッターで、「番組からシマウマ捕まえに行ってくれってオファーが来てた」と明かす。どうやらオファーは断ったようだが、「こんなことになるなら行って優しく捕獲できてたら良かった」とシマウマが死んだことを嘆いた。
(出典:百獣の王・武井壮、脱走シマウマ捕獲オファーあった (日刊スポーツ) - Yahoo!ニュースより)

円山動物園のマレーグマ虐待死事件からマスコミの報道は鵜呑みにできないと知り、さらに今回のことで、ジャーナリズムに真実の追及精神やその誇りを感じられなくなってしまった。

というのは、尾張旭市のイベントなどに活躍していたバロンの所有者はその社名が報道されることはなく、FBを閉じてしまえば、隠れてしまうことができた。強い後ろ盾があったのだろうか?かたや、預かった乗馬クラブは日本中に名前をさらされて、不名誉という大きな損失を被ることになった。この理不尽はいったん何なのだろう。責任の重さに違いがあったとしても、あまりに大きな差である。

コネや後ろ盾の問題で真実を報道したりしなかったりするのだろうか?マスコミは売り上げが伸びたり、視聴率が上がればいいのだろうか?すべてが終わってしまった今、捕獲チームサイドを詳しく取材して、発表するくらい骨のあるジャーナリストはいないのだろうか?

お祭り状態で報道合戦をした結果、バロンは興奮し逃げ回り、麻酔がよく効かなかった可能性は高く、それがなかったらうまく行ったかもしれないのに、と思う人は少なくないと思うのだ。