一歩先の経済展望

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実質賃金プラス化に黄信号、5月CPIから読み解く消費の先行き

2024-06-21 13:29:28 | 経済

 総務省が21日に発表した5月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比2.5%上昇となった。国内メディアの多くは、再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き上げなどの影響による電気代の上昇で、前月の2.2%から上昇幅が大きくなったことに注目したが、実は多くの国民にとってもっと切実な問題がある。それは実質賃金を算出する際に使用する「持ち家の帰属家賃を除く総合」が、4月の2.9%から3.3%に上がったことだ。

 

 <5%台の賃上げ、毎月勤労統計に反映されないのはなぜか>

 実質賃金は今年4月まで25カ月連続でマイナスを続け、それが消費の低迷につながっている。5月に実質賃金がプラスになるには、毎月勤労統計ベースでの現金給与総額の伸び率が3.3%を上回る必要がある。しかし、4月は前年比2.1%だった。5月から急に上がることになるのか──。カギを握るのは、今年の春闘で5%台となった賃上げの実績が、本当に小規模事業者にまで浸透しいているのかという点だろう。

 連合によると、2024年春闘での賃上げ率は5.08%と1991年の5.66%以来、33年ぶりに5%台に乗せた。そのうち中小企業の賃上げ率は4.45%と事前のエコノミスト予想を上回った。そこで4月からの毎勤ベースでの現金給与総額の動向に注目が集まったが、5.08%とは大きく乖離する2.1%にとどまった。

 このギャップの要因として考えられるのは、1)毎勤統計では事業所規模5人以上が調査対象で、組合が組織されていない小規模企業が多く含まれ、そこの賃上げ率が低く全体の水準を押し下げた、2)企業によっては賃上げがフルに実行される時期が5月から7月までとばらつきがあり、4月では賃上げの実態が反映されていない──という点だ。

 ただ、5月、6月とデータが更新されても現金給与総額の伸び率が3%台に達しない場合は、政府・日銀の想定を超えて組合の組織されていない企業での賃上げ率が低く、今年の春闘は5%台の大企業と組合のない小規模企業との格差が、かつてないほど広がった可能性があることを考慮するべきだろう。

 

 <猛暑の電気代が押し上げるCPI>

 そこに実質賃金を算出する際に使用するCPIの「持ち家の帰属家賃を除く総合」が3.3%に上昇しているという事実が加わる。このハードルは、6月、7月とさらに上がる可能性がある。

 というのも、政府が実施してきた電気・ガス価格激変緩和対策が5月使用分で終了したからだ。総合指数を0.48%押し下げてきたが、6月のCPIでは効果が半分になり、7月にゼロになると総務省はみており、7月のCPIは押し上げ効果が出てくることになる。

 そのうえ、今年の夏は猛暑が予想されており、電気料金の支払額は相当に上がりそうだ。CPI総合と「持ち家の帰属家賃を除く総合」が7、8月にかけて上昇率が加速する公算が大きく、実質賃金がプラスに転化しないまま秋を迎えてしまう展開の可能性もかなり出てきたと指摘したい。

 夏場のレジャーシーズンを機に、大幅な賃上げと4万円の定額減税の効果で所得環境が好転し、消費が本格的な増加基調に入ることを期待していた政府・日銀にとって、これから予想される消費低迷のシナリオはどうしても回避したい事態だろう。 

 今や岸田文雄首相の「一枚看板」となってしまった感のある大幅賃上げによる景気拡大という展開は、富山湾の蜃気楼のようになってしまう危険性もはらむ。5月以降の現金給与総額の伸び率、実質賃金の動向は、各方面に大きな影響を与えそうだ。

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