20日に就任したトランプ米大統領の発言に一喜一憂する21日の東京市場の動向を見ていると、トランプ関税の波及力の大きさを測りかねている実態が浮かび上がるとともに、マザーマーケットである米国市場でのトランプ政策の消化状況を確認したいという東京市場の脆弱さをあらためて確認することになった。
当面の焦点は、21日のNY市場で米長期金利をはじめとした米金利の動向だ。トランプ政策が直ちにインフレに直結しないとみれば、米長期金利は低下してドルも弱くなり対円でもドル安・円高方向に動く可能性がある。同時にトランプ大統領のドル安志向が次第に明らかになれば、ドル売り・円買いの圧力が誘発されやすくなる。トランプ氏が20日に米政府機関に命じた行為の中には、他国・地域による「為替操作への対処」も入っており、インフレ加速からドル高という想定からトランプ政策の本音を見据えたドル安の進行という新たな展開も視野に入れる必要が出てきたと指摘したい。
<トランプ関税の行方で日本株が上下に振幅>
21日の東京市場は、トランプ大統領の関税をめぐる発言で株と為替が大きく上下に振れた。就任演説で具体的な関税引き上げに言及しなかったことで日経平均株価は午前の取引で一時、前日比300円超まで買い上げられた。だが、2月1日からメキシコとカナダに25%の関税を賦課することを検討しているとの発言が伝わると、前日比で250円超の下落を記録。結局、前日比125円48銭(0.32%)高の3万9027円987銭で取引を終えた。
<市場に浸透してきた対メキシコ関税と日経自動車メーカーの打撃>
筆者は当欄で何回も対メキシコと対カナダへの関税賦課で日本の自動車メーカーへの打撃が大きくなると指摘してきたが、この日の東京市場における日経平均株価の動揺を見ると、市場もようやく事態の重大性について認識を深めてきたと感じた。
トヨタ、日産、ホンダ、マツダの2023年のメキシコ生産者の対米輸出は合計で約77万台。カナダで生産されたホンダの対米輸出車は約29万台(トヨタの対米輸出台数は非公表)で、25%の関税がかかれば大半の輸出はストップすることが予想される。
特に全世界で9000人規模の合理化を発表している日産は、メキシコ工場での稼働率が低下すれば経営再建への道が一段と厳しくなることが予想される。
20日の当欄で指摘したように、自動車メーカーの経営へのマイナスの影響は日本経済全体に波及する構造となっており、株式市場がトランプ関税の内容で動揺するのは合理的な反応と言える。
<トランプ政策、インフレに直結しないとの見方が急浮上>
一方、トランプ大統領の打ち出す政策全般が短期的に米国のインフレを刺激するのかどうかが、当面の大きな焦点になる。米長期金利は17日のNY市場で4.613%の水準で取引を終了したが、21日のアジア市場の取引時間帯では4.5%台での取引となり、やや低下して推移している。
このまま低下傾向が続くのであれば、これを材料にドルが全般的に売られ、対円でも155円台を割り込んでドル安・円高が進み可能性が高まる。
背景には、対中関税の引き上げに関し、中国政府がトランプ政権1期目で合意した第1段階の貿易合意を順守したかどうか調査するようトランプ大統領が命じ、実施の先送りが明らかになったことがある。
少なくとも対中政策においては、関税引き上げが交渉のカードの1つとして利用され、米中間の経済関係が直ちに混乱することはないとの見通しが米長期金利の低下につながっていると複数の市場関係者は指摘する。
<為替操作への対処明言するトランプ政権、監視対象リストに入っている日本>
また、ブルームバーグの報道によると、「グローバリストの破壊的な影響、米国のこれまでの通商政策を反転すること」を目標として、世界における不公正貿易慣行に対処するとの文言が未公表のファクトシートに詳述されているという。
その中には、主要な米連邦政府機関に対し、他国・地域による為替操作に対処することも求めている、と盛り込まれているという。
複数の市場関係者はこの点に注目し、トランプ政権はドル安志向を鮮明にする可能性があり、日本は中国、台湾、シンガポール、ドイツ、韓国とともに米為替報告書で「為替操作監視対象」のリストに入っているため、ドル安・円高の圧力を強める可能性があると予想している。
実際、足元のドル/円は155円台と1期目のトランプ政権スタート時の110円台と比べて40%程度のドル高・円安となっており、バイデン政権時に静観されていた為替問題での対日要求が顕在化する可能性を秘めていると筆者は考える。
<トランプ政権が日銀利上げの背中押すシナリオはあるのか>
21日の東京市場では、1月の日銀利上げ予想は92%まで上昇し、市場はほぼ1月利上げを織り込んだ状況だ。対カナダとメキシコの関税賦課が2月1日からスタートしそうだとわかっても、日経平均株高が大崩れしなかったことがその大きな理由となっている。
問題は、この先の日銀の利上げがどこまで継続するのか、言い換えればターミナルレート(利上げの最終到達点)がどうなるのかという点と、トランプ政権のドル安志向に基づく円高圧力が微妙に絡み合うところがあることだ。
多くの市場参加者は、日本国内の消費が弱いことなどを材料に利上げは、せいぜい0.75%で終了との見方が圧倒的に多い。
だが、従来の経済合理性にこだわらないトランプ政権がドル安・円高を強く志向し、日本政府に対して「日銀の利上げに圧力をかけないように」という圧力をかけてきたらどうなるのか。結果的に日銀のフリーハンドの範囲が大幅に拡大し、マーケットの想定を大幅に超えてターミナルレートが切り上がることがシナリオの1つとして想定できるのではないか、と筆者は指摘したい。
これから何が起きるのか。従来の固定観念を捨てざるを得ない展開が到来するかもしれないと「予感」するトランプ政権のスタートだった。
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