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27日に行われた自民党の総裁選では、決選投票の末に石破茂・元幹事長が高市早苗・経済安全保障相を破り、新総裁に選出された。1回目の投票では高市氏の後塵を拝して2位だった石破氏の逆転勝利で新首相の地位を確かなものにしたものの「薄氷の勝利」とも言える。
総裁選勝利の直後から始まった円高・株安は、金融所得課税の強化に言及して「マーケットに冷たい」とのイメージが付きまとう石破新総裁への手荒い洗礼だったのではないか。この動きは短期的に収束するにしても、潜在成長率が0.5%前後まで落ち込んでいる日本経済を立て直す具体的な成長戦略を打ち出すことが石破氏の着手すべき優先的な課題であると考える。海外勢が注目する具体的な成長戦略を提示できれば、日本株は中長期的に上昇するだろう。だが、成長戦略なき政権運営が続けば、今よりも数段深刻なマーケットからの「挑戦」を受けることになるだろう。
<高市トレード、石破総裁誕生で急激な巻き戻し>
26日の当欄で予想したとおり、自民党総裁選の結果をみたマーケットは上下に大きく振れた。まず、1回目の投票で、高市氏が181票を獲得して1位となり、2位の石破氏の154票を大きく引き離した結果が伝わると、ドル/円は大幅にドル高・円安が進行して一時、146円40銭付近まで円が売り込まれた。その結果を受けて日経平均株価も大幅に上昇し、前日比903円93銭(2.32%)高の3万9829円56銭で取引を終えた。
市場では、党員・党友票で高市氏が109票と石破氏の108票を上回り、議員票も72票対46票で差がついていることを材料に「決選投票でも高市氏が勝つ」との見方が台頭。これ以上の日銀の利上げに否定的な高市氏が新首相になれば、円安と株高が続くとみた「高市トレード」が加速する展開になった。
だが、決選投票では石破氏が215票を獲得し、高市氏の194票を上回って逆転勝利し、高市トレードは瞬時に巻き戻しを強いられた。ドル/円は一時、142円後半までドル安・円高が進行。その後は143円台に戻したものの、日経平均先物はいったん3万8000円を割り込む水準での取引となった。
<市場に冷たいイメージ、成長戦略の提示で修正必須>
石破新総裁にとって、この日の円高・株安は市場からの強烈なパンチと映ったに違いない。だが、その種をまいたのは石破氏本人だった。自民党総裁選の告示前の今月2日に株式売却益などの金融所得に対する課税強化の可能性に言及。21日には法人税引き上げの余地にも言及した。
マーケットから見ると、金融・資本市場に「冷たい人」とのイメージが鮮明になり、新総裁の就任後に株価が下がりやす候補とみなされていた。
ただ、決選投票前の5分間の演説では、岸田文雄政権の経済政策を継承するとの見解を強調しており、岸田首相が強調してきた「資産運用立国」の実現を無視することはないだろう。今回の総裁選では、体系だったマクロ経済政策をめぐる議論は全くかみ合わないままで、石破新総裁の打ち出すマクロ経済政策について、マーケットは金融資産課税の強化などの断片的な情報しか提供されていない。
石破氏はなるべく早く、経済政策に関する具体的でまとまったパッケージを示す必要があるだろう。日本株を左右する欧米などの海外勢は、低い潜在成長率と進行する少子高齢化の中で日本経済をどのようにピックアップさせるのか、効果的で具体的な成長戦略の提示を求めている。
足元の「高市トレード」の巻き戻しは、短期的に収束することが予想されている。だが、近く想定される衆院解散・総選挙を前に打ち出されるとみられる経済対策の中に、日本経済の成長性を高める政策が全くなく、災害復旧や従来型の公共投資だけのメニューでは、強い失望感を抱くだろう。成長戦略の不在を放置したままでは、日本株の先行きに光明は見いだせない。
一方、多くの市場関係者が関心を持っている日銀の金融政策と石破氏の発足させる新内閣との関連では、日銀の独立性を重視する石破氏のスタンスから推定すれば、日銀の利上げに反対する姿勢を示すことはなく、経済・物価の情勢をにらみつつ日銀が利上げの判断を固めることがあれば、その判断を容認すると予想する。
<注目される財務相・官房長官などの人事>
ここで注目される政治日程を整理すると、10月1日に臨時国会が召集され、その日のうちに組閣が断行される見通しだ。今回の逆転勝利に大きく貢献したのは、岸田首相や林芳正官房長官らが影響力を保持している旧宏池会(岸田派)の決選投票での石破氏支持だったとみられている。このため、組閣や自民党内閣人事で林氏が重要ポストに就く可能性が高いと筆者は予想する。
また、決選投票では小泉進次郎・元環境相やその後ろ盾となった菅義偉元首相の石破氏支持も大きなパワーと持った可能性があり、決選投票での逆転勝利の「論功行賞」を人事でどのように行うのか、早速、石破新総裁の手腕が問われることになる。
その意味でマーケットが注目するのは、財務相、経済財政担当相、外相などの布陣だろう。また、内閣のスポークスマンである官房長官の人選によって、内閣全体の印象が大きく変わりそうだ。
ただ、政治的な意味合いでは誰が幹事長ポストを射止めるのかが重要だ。新しい石破内閣の重心がどこにあるのかを見抜くことは、市場動向を予測する上でも極めて重要だと考える。
<衆院選は11月3日ないし10日の可能性>
次に多くの注目が集まるのは衆院解散の時期だろう。石破新総裁は総裁選中に臨時国会では新政権の方針をめぐって野党と議論する必要性に言及しており、予算委員会の開催も視野に入れていることを示唆していた。このため衆院解散の時期は、10月15日ないし17日、衆院選の投開票日は11月3日か11月10日の可能性があるとみられている。
総裁選の熱気が冷めないうちに衆院選を実施し、自民・公明の連立与党で衆院の過半数を確保という思惑が自民党内にあるようだが、政治とカネの問題に再び世論の注目が集まるようなら、立憲民主党の新代表に就任した野田佳彦元首相ら野党からの厳しい追及を受け、あっという間に劣勢になるリスクもある。
これまで衆院解散・総選挙を目前に控えた時期に株価が上昇する展開が見られてきたが、今回も同様に株価が追い風を受けるかどうかは、石破氏の発足させる新内閣の支持率や衆院選での情勢次第となるのではないか。
マーケットに広がった「市場に冷たい石破氏」というイメージの払しょくが最初の課題になると予想している。
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