一歩先の経済展望

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トランプ相互関税、日本を待ち受ける自動車と円高誘導の落とし穴

2025-02-14 12:45:05 | 経済

 トランプ米大統領が13日、米国の輸入品に関税を課している全ての国に「相互関税」を課すと発表し、貿易相手国による米国製品への関税について調査開始を指示した。問題なのは、相手国の非関税障壁も考慮される点だ。不公正な補助金や規制、付加価値税(VAT)、為替レート、知的財産保護の不備なども調査対象となり、不公正と認定すれば、その相手国の輸出品に関税が賦課されることになる。

 米国は従来から、日本から輸出された自動車に連邦レベルの消費税が課税されていないのに対し、米国からの自動車輸出に対して日本が消費税(10%)をかけていることに不満を述べていた。また、米為替報告書で「監視リスト」に入っていることから「通貨安を誘導している」と指摘される可能性も浮上。この2つが非関税障壁と指摘され、新たな関税の賦課やドル/円の円高誘導などを迫られる可能性がある、と筆者は予想する。

 

 <EUのVATをやり玉>

 トランプ大統領の「相互関税」に対し、日本サイドからは工業製品の日本の関税はほぼゼロ%であることから大きな影響はなく、農業保護の観点で主要な農産品の輸入にかけている関税が問題になる可能性がある、と予想する声が多かった。

 だが、トランプ大統領は13日、自動車、半導体、医薬品に対しても輸入税を課す方針を示すとともに、米国が対応する対象の1つとして、欧州連合(EU)の付加価値税(VAT)を挙げた。

 EUのVATは、標準税率が15%以上と規定され、税率は加盟国が決める仕組みとなっており、最も効率なのはデンマーク、スウェーデン、クロアチアの25%となっている。

 

 <消費税で日米不均衡と米主張、自動車が相互関税の対象になる可能性も>

 日米間の自動車をめぐる交渉に詳しい関係者によると、米側は以前から日本の消費税の課税のあり方に批判的だったという。日米間で米国は日本から輸出した自動車に2.5%の関税を課しているが、米国から日本の輸出された自動車に対する日本の関税はゼロ%となっている。

 これだけ見ると、日本のマーケットはオープンになっていると言えるが、米側の主張によると、米国は日本車に連邦レベルで消費税をかけていないものの、日本では米国車に10%の消費税がかかるため、日本側の税率が7.5%高いと主張しているという。

 また、日本国内で生産された自動車が米国に輸出される際、最終商品になるまでの段階でかかってきた日本国内での消費税(メーカーが負担)分を日本政府がメーカーに還付しているのが「補助金」に当たると批判してきた。

 どうやら今回、トランプ政権はこうした点を持ち出して、日本から輸出される自動車に関税を賦課する構えではないか、との観測が浮上している。

 最終的にトランプ大統領がどのような「ディール」を対日政策で構想し、日本側からどんな利益を獲得し、どの要求を取り下げるのか全く不明だが、相互関税の主戦場は「農産品」という想定は、トランプ大統領が自動車産業を重視しているという現実を見れば、ピントが外れていると筆者は指摘したい。

 

 <非関税障壁の1つに為替問題、円高誘導求められる可能性>

 もう1つ、重要なのが為替問題だ。日本経済新聞の記事によると、今回の相互関税をめぐるトランプ大統領の命令書の中には、相互的でない関係があるのか調査する対象として「為替レートを市場価値からかい離させ、米国民に不利益をもたらすような政策および慣行」を含めているという。

 また、日経はホワイトハウス高官が12日、記者団に対し、通貨安を誘導している国があると懸念していると発言し、米財務省が非常に重要な役割を担うと述べたと伝えている。

 すでに米財務省は2024年6月に公表した為替報告書で、中国、ドイツ、マレーシア、シンガポール、台湾、ベトナムの国・地域名が明記されていた「為替慣行に関する監視リスト」に日本を追加していた。

 トランプ大統領の周辺には、10%や25%の関税をかけても、当該国が対ドルで自国通貨を同程度切り下げれば経済的な効果がなくなるため、通貨安の誘導は関税の「抜け道」として厳しく対応していくべきだ、との声が根強いという。

 トランプ大統領自身も貿易赤字を生み出す相手国の通貨安は容認しない、との確固とした信念を持っているとみられ、相互関税の問題は日本にとって、円高誘導への道に変化する可能性が高いと筆者は予想する。

 

 <米は介入に批判的、残る手段はトランプ氏の口先介入と日銀の利上げ>

 ここで、考慮しなくてはならないのは、昨年の為替報告書の中で「自由に取引される大規模な為替市場で、介入は適切な事前協議を伴う形で、極めて例外的な状況に限定されるべきだ」と明記したことだ。

 足元のドル/円が円安に行き過ぎていると米側が認識しても、日本のドル売り・円買い介入でドル安・円高方向にシフトさせるという手法は「忌避」されているということだ。

 こうなると、円高方向に為替水準を向かせるのは、トランプ大統領による「ドル/円はドル高・円安に行き過ぎている」という強力な口先介入か、日銀による利上げということになると思われる。

 だが、金融政策は政府から独立した日銀が、経済・物価状況を勘案して決めることになっており、日米関係が直接的に波及する政策的な立てつけにはなっていない。

 ただ、日銀のマイナス金利解除からこれまでの利上げの過程で、政府が日銀の利上げに慎重な検討を求めてきたのも事実だろう。

 日米政府間のやり取りの結果、日本政府が日銀の利上げに対して従来よりも「慎重な検討」に関するプレッシャーを弱めた場合、結果として日銀の利上げパスが従来よりも「スティープ(急峻)」化する可能性についても、市場は目を配るべきではないか、と筆者は指摘したい。

 

 <高まるトランプ関税の不透明感と市場の懸念>

 多方面の政策を連発し、相手国やマスコミなどの予測可能性を下げることでトランプ政権の存在感を際立たせる「洪水戦略」は、関税面でも遺憾なく発揮され、今回の「相互関税」と従来は「一律関税」とされてきた国内の税収減を補うための関税賦課と、重なりあう部分があるのかどうかも識者によって見解が異なる状況となっている。

 したがって上記で指摘した日本の自動車への関税賦課や、円高誘導が現実に実施されるのかどうかは不透明な部分が多いものの「何があってもおかしくない」と、すでに一部の市場関係者は身構えている。その意味ではトランプ大統領の狙いの一部はすでに達成されているのかもしれない。

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