じゅにあ★Schutzstaffel II

キン肉マンの2次創作。小説載せてます。(以後更新予定無し)

幕切れ、もしくは分岐(2)

2019-06-13 22:04:00 | 小説/幕切れ、もしくは分岐
 
 
 
その光の方に、何とか首と視線を動かした。
 
するとそこにあったのは、俺より先にこの谷に落ちた男の体だった。
 
 
 
すぐに手が届くーーよりは、もう少し離れた場所に仰向けに倒れていた。
 
動いているようには見えない。だが、頭の部分が薄っすら光っていて、しかもまるで呼吸しているかのようにその光が強くなったり弱くなったりしていた。
 
 
ーー生きて・・・いる?
 
 
俺はその真偽を確かめるべく、残り全ての力と気力を使ってその光に近づいていった。
 
 
 
まるで虫が灯りに引き寄せられるように。
ほふく前進の要領で、体を引きずり少しずつ距離を縮めていった。
 
無駄に頑丈な肉体で本当に良かった。
さっきと言っている事が矛盾しているような気もするが、そんなのはもうどうでもいい。
 
 
必死に腕を上げ、地面の凹凸(おうとつ)に爪を立て。何とか目当ての体に辿り着いた。
 
 
 
「お・・・い、お前・・・」
 
 
肘をつきJr.の頭の下に左腕を差し込む。
そして空いた右腕で頰に手を添え、軽く揺すりながら声を掛けた。
 
 
まるでこいつの鼓動のように強弱を繰り返す光は、軍帽の徽章から放たれていた。
それに照らされた冷たく血の気のない肌は、だがまだ柔らかい。白く、血で汚れた胸が小さく上下しているように見える。確かに生きている!
 
 
「ブロッ、ケン・・・おい、ブロッケン・・・」
 
 
 
すると、俺の声に反応して軍帽の下の長い睫毛が震えた。
瞼がゆっくり開く。蒼い大きな瞳が力なく、だがはっきりと自分の方に向いた。
 
 
「ああ・・・お前、まだ・・・生きて・・・」
 
 
すると何か言おうとしたのか、Jr.は震えながら口を開いた。
しかしそこから出てきたのは言葉ではなく真っ赤な血。それが喉に詰まってしまったのか、水が泡立つような音しか出せないでいた。
 
 
俺は微塵の躊躇いもなく唇を重ねた。必死に吸うと、逆に自分の胸の奥から何かがせり上がってきそうになったが、どうにか耐え、入ってきたものを飲み込んだ。
自分のとは違う味。ネジの飛んだ頭は、それを”甘い”と認識した。
 
 
二度ほど飲み込み、唇を離す。
程なく、念願の声が聞こえた。
 
 
「・・・バ・・・ファ。な・・・ん、で」
「悪ぃな・・・。俺も、落ちてきちま、った・・・」
 
 
 
遂に、そして思いもしなかった、無二の仲間との再会。
俺は死神ーー髑髏ーーに感謝した。
 
 
 
 
 
 
今も二人の間で穏やかに光り続ける髑髏の徽章。
 
この奇跡は、正にこの髑髏の、俺達への恩賞だと思った。
 
 
 
詳しい経緯(いきさつ)は分からないが、キン肉族の、そして超人界全体の何かを守るべく立ち上がった我らのキャプテンーーキン肉アタル。
その決意と信念を、俺とJr.は身を盾にして守った。
 
これはその功績への報い。僅かながらも、お互いの健闘を称えあう時間を、この徽章が与えてくれたのだと思った。
 
 
それに、既に死んだ経験のある俺と違い、この青二才は初めてのはずだ。
谷底は静かだが、最初の死に場所としては少々寂しい。
 
だから俺が来るまで、徽章がこいつを生かしておいたーーそう、思った。
 
 
 
「ソ・・・ル、ジャ・・・」
 
 
体を張って守り通したキャプテンを俺に託し、なのにその俺が今、目の前に居る。
 
 
そもそも何処まで理解出来ているのか意識があるのか、確かめようもなかったが、それでもJr.は、自分の命を掛けた大切な相手の事が気になったのだろう。
切れ切れになりながらも、何とかその相手の名を口にした。
 
 
 
こいつを失ってから、人が変わったように凄まじいファイトを見せたソルジャー。
俺に見せた厳しくも優しい態度。
そして、そんな我らがキャプテンの意外な正体・・・。
 
 
 
話してやりたい事は山程あった。
だが、それを全部語るには、時間も、そして俺の体力も全然足りなかった。
 
 
ーーそれに俺と同じ。こいつも、ソルジャーが何者かなんて、どうでも良かった・・・。
 
 
だから、真っ直ぐ奴を見つめ、なるべく聴き取れるようゆっくりと、俺は言った。
 
 
 
「も・・・う、喋るな。大丈夫・・・」
「・・・」
「ソルジャー、は、だい・・・じょ、うぶ・・・。大丈夫、だ・・・」
「・・・」
「俺達は・・・よく、やった。そして・・・お前、は・・・本当に、よくやった」
 
 
 
するとJr.は、確かに俺に向かって笑顔を見せた。
 
 
気のせいかもしれない。だが、確かに俺にはそう見えていた。
 
 

幕切れ、もしくは分岐(1)

2019-06-13 22:04:00 | 小説/幕切れ、もしくは分岐
 
 
 
崖から突き出た岩やら木の枝やらに何度も体を打ち付けながら、俺は谷底まで落ちていった。
 
 
 
まばらに生えた雑草程度では落下の衝撃は受け止められず、だが途中そうやって色んな物に引っ掛かったせいか、自分が想定していたよりは大人しい着地。
 
但し、当たり前だが流石に無傷とはいかず、身体の前面が地面に触れた瞬間、何本かの骨が見事に砕けた。
 
 
そんな骨が内臓に刺さる痛みに、俺は暫し息の仕方を忘れてしまう。
体が見る間に麻痺していく。思考が止まりかける。
 
 
だが血の混じる咳が口から飛び出すのを合図に、慌てて体が、死から必死に逃げようと走り出した。
 
呼吸の度胸が痛む。
が、要求されるがまま俺は、さっきまで忘れていた事が嘘のように、空気を吸っては吐くを繰り返した。
 
 
 
ーー痛ぇ・・・畜生、さっさと死にてぇ・・・。
 
 
無駄に頑丈でタフな肉体は、戦いの場では重宝するが、こういう時が厄介だ。
どうせ死ぬのだから楽に即死させて欲しいのに、嫌がらせのように崖っぷちでなお足掻いては、俺の苦痛をただただ長引かせようとする。
 
 
ーー崖っぷち・・・いや、ここはもう底か・・・って、何、馬鹿な事考えてやがるんだ俺は・・・。
 
 
冷たく固い地面。遠くで水が流れる音が聞こえるような気がするが、確かめようもない。日没から大分経っているせいで、光も殆ど無い。
 
 
ーー暗い・・・だが、前に死んだ場所よりはかなりいい・・・か。
 
 
 
綺麗な死など、世の中滅多に無い。
 
だが、ずっと殺るか殺られるかの野蛮な世界で生きて来た超人に与えられたにしては、ここは、勿体ない程静かな死に場所だった。
 
 
 
 
 
 
動力を失ったリングを再び空中に打ち上げ、そしてそれに残り全ての力を使い果たした俺は、戦いの行方をキャプテンに託し、そのまま谷に落ちていった。
 
 
 
俺達のキャプテン、キン肉マンソルジャー。
 
謎だらけで、だが出会った時から、その背中には大木のような揺るぎない威厳と風格が見え隠れしていた。
 
 
奴にチーム入りを打診された、ニンジャ、アシュラ、そしてJr.に俺。
正体の分からない奴に、始めは訝しがるも、やがて魅了され共に戦う事を快諾した。
 
 
一人、また一人倒れていった。
そして残った俺は、偶然にもソルジャーの正体を知り、その秘密を守る為この身を盾とした。
 
 
ーーまさかあの、おちゃらけ野郎の兄・・・なんてな・・・。似てない兄弟も居たもんだ。
 
 
何かある、とは、メンバー四人皆が思っていた。
しかしまさか、そんな”曰く付き”だとは、ゆめゆめ思っても見なかった。
 
 
 
もしも最初に奴が話してくれていれば、俺達はもっと簡単に協力しただろうか。
その問いの答えは、即答でノーだ。それどころか、逆に誰一人、チームに入らなかったとさえ思う。
 
 
他の奴らが心底どう思っていたのか、あれこれ話もしなかったし、想像したところで最早真実は藪の中だ。
だが、一つだけ確かだったのは、皆、とても居心地が良かったという事だ。
 
共通点が見当たらないどころか、下手をすれば敵味方。
そんな俺達がソルジャーを中心に、誰が譲(ゆず)るでもなく心を一つにした。
 
あの不思議な一体感が、堪らなく心地良かった。
 
 
ーーあんな感覚・・・もう、一生味わえねぇんだろうな・・・。
 
 
 
「楽しかっ・・・た、な・・・ぁ」
 
 
 
一生味わえないも何も、こんな場所で一人、棺桶に片足を突っ込んだ身では、もう回想以外に出来る事など何一つ無い。
 
それでも、叶うなら死ぬまでにもう一度、皆に会いたいと思った。
後悔ではない。ごくごく素直な願いだった。
 
 
ーーあ・・・だが、どうせ墓場でまた再会出来る・・・か。
 
 
そう気付くと一転、こんな状況ながらサンタを待つガキのような気持ちになってきた。
 
 
 
人生、より単細胞な方が幸福だ。
 
 
 
 
 
 
痛みが徐々に軽くなってきた気がした。
そして、少しずつ息が楽になってきた気もした。
 
 
もちろん回復する訳もなく、単に死が近づいてきているだけだ。
今も一応、体は必死に死から逃げ回っている。が、流石に医者はおろか薬も包帯も無い状態では、いくらタフな俺の体でも、追いつかれるのは時間の問題だった。
 
 
ーー鬼さんこちら・・・。いや、この場合死神さん・・・か?手の鳴る方へ・・・。
 
 
こんな俺だが、及ばずながら精一杯、命と誇りを掛けて戦った直後だ。どうせならもっと真面目で殊勝な事を考えたいとは思う。
が、一旦箍が外れた奔放な思考は、能天気な内容ばかりを垂れ流し始め、止められない。
 
そして今俺の頭の中では、絵本で見るような死神様が鎌を持ち、ケタケタ笑いながら手招きしていた。
 
 
ーー死神・・・、骸骨・・・髑髏・・・。
 
ーー髑髏堕ちる時・・・渦中の人現る・・・・・・か。
 
 
 
 
 
 
まさかこの時、俺は本当に髑髏に手招きされたのだろうか。
 
 
視界の端。そこにふと、か細く明滅する光のようなものがあるのに気付いた。
 
 

幕切れ、もしくは分岐(3)

2019-06-13 22:03:00 | 小説/幕切れ、もしくは分岐
 
 
 
まるで、安心したJr.の心に呼応するかのように。
 
徽章の光が、徐々に小さく弱くなってきた。
 
 
 
どうせすぐに墓場で会えるのだが、ひとまずこの世では最期(さいご)の時間。
だから俺は、年長者らしく、この子供を穏やかに見送ってやろうと思った。
 
 
間もなく腕の中の体が小さく跳ねた。
薄い唇の端から一筋、また赤いものが流れる。
いよいよその時が訪れようとしていた。
 
 
「・・・」
「だいじょ・・・うぶ。俺も・・・すぐ、追いつくから・・・」
「・・・」
「あっち、で・・・すぐ、また・・・会おう」
 
 
 
痺れて殆ど感覚の無い右手。
それでJr.の頰をなるべく優しく触れてやりながら、俺は笑ってそう告げた。
 
 
すると、今度はさっきよりもはっきりと。
 
一瞬目を泳がせて。だがすぐに、これまで何度も見てきた実に奴らしい、少しはにかんだような笑顔を浮かべーーーー
 
 
 
「・・・お、い。ブロッケン・・・?」
 
「逝った・・・か」
 
 
 
徽章の光が消え、本来の闇が広がる。
そして腕の中の体から、何かが抜けていく感覚。
 
 
一足先に、静かに旅立っていった。
 
 
 
滅多に見られない。
本当にそれは、綺麗な死だった。
 
 
 
 
 
 
完全に一人になった俺は、もう何も映していない蒼い目を右手で閉じてやると、そのままJr.の胸の上に倒れ込んだ。
 
まだ柔らかいが、命を失った肌は早くも冷たくなり始めていた。
だが俺の胸は、安堵と満足感でこの上なく暖かかった。
 
 
ーー死神・・・髑髏も、たまには粋な事をするもんだ・・・。
 
 
Jr.の頭をまだ抱えているせいで、自分の左腕から脈音を感じる。
弱々しいそれも、じき止まるだろう。
 
 
ーーどんな顔で、再会しようか・・・。
 
 
 
無限に広がる岩だらけの世界。死んだ超人がもれなく行き着く場所。その入り口で俺を待っているのは、今、腕の中にいる男。振り返り白い歯を見せて、笑いながらこちらに駆け寄って来る。その背後には、一足先に死んだ忍(しのび)の姿も見える。
 
嬉しく、ゆえに少し照れ臭い再会。お前、どさくさに紛れて何やってくれてんだよ。そんな文句を言われるのも一興だ。それを聞いた俺は、これ見よがしに唇を舐めながら、ご馳走様、と鼻で笑ってやるーー
 
 
 
そんな甘やかな未来が、すぐ先で俺を待っているのだ。
そう思うと、ますます早くそこに行きたくーー逝きたくーーなった。
 
 
ーーもう、何一つ未練はねぇ・・・。
 
 
こんなにも穏やかな終幕を与えてくれた死神に心から感謝しながら目を閉じる。次にこの目を開けたら墓場だ。そうすればーーーー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
と、自分の都合のいい想像に浸っていた俺だったが、ふと過(よ)ぎった疑問に、二度と開けるつもりのなかった目を見開いた。
 
 
 
「・・・」
 
 
 
確かにJr.は俺の目の前で死んだ。
 
だが、果たして奴は、一体”どちら”で死んだのだろうか。
 
 
 
散々流れて、もう体の中にはさほど残ってはいないだろうに、それでもはっきりと血の気が引くのを感じた。
 
 
「・・・なぁ」
「なぁ・・・おい、なあ!」
 
 
奴の抜け殻に乗せていた上体を起こし声を掛けた。だが反応などある筈もない。
それでも諦められず、まだこれほど残っていたのかと自分でも驚くほどの力で、白い体を揺すり、頰を叩いた。
 
 
 
Jr.が死に、そして徽章の光が消えた。
そのはずだ。逆では駄目だ。
 
俺が想像した死後の世界は、Jr.が超人である事が前提だった。だが死んだその瞬間まで髑髏が寄り添っていなければ、こいつは人間になってしまう。
 
人間では駄目だ。人間では、違うところに行ってしまうじゃないか!
 
 
「おい・・・起き、ろ」
 
「なあ・・・起きろ。起きてくれ!」
 
 
 
目を開ける代わりに、Jr.の軍帽が地面に落ちた。あんなに激しい戦いの最中でさえ脱げなかった軍帽がだ。
 
 
こんな別れ方は嫌だった。
すぐにまた会えると信じて疑わなかった。
 
それに、もしあらかじめ奴が違うところに行くと分かっていたら、俺はもっと違う言葉を掛けていた筈だ。
 
 
「なあ・・・なぁ・・・」
 
「なぁ・・・頼、む・・・・・・」
 
 
 
完全に力を使い果たし、俺は再び奴の体に倒れ込んだ。
 
咳き込んだ口から苦いものが溢れた。
視界が霞むのは、いよいよお迎えが来たのか違う理由なのか、自分でも分からなかった。
 
 
 
 
 
 
遂に自分の目の前までやって来た死神。
 
あれ程優しかったのだから、どうかもう一度、俺に情けをかけてほしい。
 
 
ーーあの未来を、叶えてほしい・・・。
 
 
そんな、縋るような思いと共に目を閉じた。