じゅにあ★Schutzstaffel II

キン肉マンの2次創作。小説載せてます。(以後更新予定無し)

幕切れ、もしくは分岐(1)

2019-06-13 22:04:00 | 小説/幕切れ、もしくは分岐
 
 
 
崖から突き出た岩やら木の枝やらに何度も体を打ち付けながら、俺は谷底まで落ちていった。
 
 
 
まばらに生えた雑草程度では落下の衝撃は受け止められず、だが途中そうやって色んな物に引っ掛かったせいか、自分が想定していたよりは大人しい着地。
 
但し、当たり前だが流石に無傷とはいかず、身体の前面が地面に触れた瞬間、何本かの骨が見事に砕けた。
 
 
そんな骨が内臓に刺さる痛みに、俺は暫し息の仕方を忘れてしまう。
体が見る間に麻痺していく。思考が止まりかける。
 
 
だが血の混じる咳が口から飛び出すのを合図に、慌てて体が、死から必死に逃げようと走り出した。
 
呼吸の度胸が痛む。
が、要求されるがまま俺は、さっきまで忘れていた事が嘘のように、空気を吸っては吐くを繰り返した。
 
 
 
ーー痛ぇ・・・畜生、さっさと死にてぇ・・・。
 
 
無駄に頑丈でタフな肉体は、戦いの場では重宝するが、こういう時が厄介だ。
どうせ死ぬのだから楽に即死させて欲しいのに、嫌がらせのように崖っぷちでなお足掻いては、俺の苦痛をただただ長引かせようとする。
 
 
ーー崖っぷち・・・いや、ここはもう底か・・・って、何、馬鹿な事考えてやがるんだ俺は・・・。
 
 
冷たく固い地面。遠くで水が流れる音が聞こえるような気がするが、確かめようもない。日没から大分経っているせいで、光も殆ど無い。
 
 
ーー暗い・・・だが、前に死んだ場所よりはかなりいい・・・か。
 
 
 
綺麗な死など、世の中滅多に無い。
 
だが、ずっと殺るか殺られるかの野蛮な世界で生きて来た超人に与えられたにしては、ここは、勿体ない程静かな死に場所だった。
 
 
 
 
 
 
動力を失ったリングを再び空中に打ち上げ、そしてそれに残り全ての力を使い果たした俺は、戦いの行方をキャプテンに託し、そのまま谷に落ちていった。
 
 
 
俺達のキャプテン、キン肉マンソルジャー。
 
謎だらけで、だが出会った時から、その背中には大木のような揺るぎない威厳と風格が見え隠れしていた。
 
 
奴にチーム入りを打診された、ニンジャ、アシュラ、そしてJr.に俺。
正体の分からない奴に、始めは訝しがるも、やがて魅了され共に戦う事を快諾した。
 
 
一人、また一人倒れていった。
そして残った俺は、偶然にもソルジャーの正体を知り、その秘密を守る為この身を盾とした。
 
 
ーーまさかあの、おちゃらけ野郎の兄・・・なんてな・・・。似てない兄弟も居たもんだ。
 
 
何かある、とは、メンバー四人皆が思っていた。
しかしまさか、そんな”曰く付き”だとは、ゆめゆめ思っても見なかった。
 
 
 
もしも最初に奴が話してくれていれば、俺達はもっと簡単に協力しただろうか。
その問いの答えは、即答でノーだ。それどころか、逆に誰一人、チームに入らなかったとさえ思う。
 
 
他の奴らが心底どう思っていたのか、あれこれ話もしなかったし、想像したところで最早真実は藪の中だ。
だが、一つだけ確かだったのは、皆、とても居心地が良かったという事だ。
 
共通点が見当たらないどころか、下手をすれば敵味方。
そんな俺達がソルジャーを中心に、誰が譲(ゆず)るでもなく心を一つにした。
 
あの不思議な一体感が、堪らなく心地良かった。
 
 
ーーあんな感覚・・・もう、一生味わえねぇんだろうな・・・。
 
 
 
「楽しかっ・・・た、な・・・ぁ」
 
 
 
一生味わえないも何も、こんな場所で一人、棺桶に片足を突っ込んだ身では、もう回想以外に出来る事など何一つ無い。
 
それでも、叶うなら死ぬまでにもう一度、皆に会いたいと思った。
後悔ではない。ごくごく素直な願いだった。
 
 
ーーあ・・・だが、どうせ墓場でまた再会出来る・・・か。
 
 
そう気付くと一転、こんな状況ながらサンタを待つガキのような気持ちになってきた。
 
 
 
人生、より単細胞な方が幸福だ。
 
 
 
 
 
 
痛みが徐々に軽くなってきた気がした。
そして、少しずつ息が楽になってきた気もした。
 
 
もちろん回復する訳もなく、単に死が近づいてきているだけだ。
今も一応、体は必死に死から逃げ回っている。が、流石に医者はおろか薬も包帯も無い状態では、いくらタフな俺の体でも、追いつかれるのは時間の問題だった。
 
 
ーー鬼さんこちら・・・。いや、この場合死神さん・・・か?手の鳴る方へ・・・。
 
 
こんな俺だが、及ばずながら精一杯、命と誇りを掛けて戦った直後だ。どうせならもっと真面目で殊勝な事を考えたいとは思う。
が、一旦箍が外れた奔放な思考は、能天気な内容ばかりを垂れ流し始め、止められない。
 
そして今俺の頭の中では、絵本で見るような死神様が鎌を持ち、ケタケタ笑いながら手招きしていた。
 
 
ーー死神・・・、骸骨・・・髑髏・・・。
 
ーー髑髏堕ちる時・・・渦中の人現る・・・・・・か。
 
 
 
 
 
 
まさかこの時、俺は本当に髑髏に手招きされたのだろうか。
 
 
視界の端。そこにふと、か細く明滅する光のようなものがあるのに気付いた。