夢と現実のおとぼけバラエティー

実際に夢で見た内容を載せています。それと落語や漫才・コント・川柳・コラムなどで世相を風刺したりしています。

創作落語『いろは』

2019-10-12 13:55:54 | 夢と現実のおとぼけバラエティー
        


    テン・テン・ツク・テン・テケ・テン・テン・テケ・ツク・テン・シャン



               『いろは』


           え〜、昔ア、手習いといいますと、
        いろはにほへと・・から教えられたものでして、
             これで字を覚えます。
          仮名が一通り覚えられますので、
           こんな便利なものはありません。
         しかも、単なる文字の羅列じゃなくて、
       ちゃんとした意味の有る詩(うた)になっていて、
     しかもですよ、仮名が一回ずつ全部折り込まれてるってんですから、
          これを作った人は、天才的でございます。
             えェ、作った人は誰?
        弘法大師じゃあないか?って言われてますが、
          確かな証拠は無いそうでございます。



八  「和尚さん、あっしゃァ、この歳になって、
    やっと『いろは』が全部書けるようになりやした」


和尚 「ああ、それはよかったなあ」


八  「だけどねえ・・、これなんか呪文みたいでやんすね」


和尚 「ははは・・、これは呪文ではない」


八  「じゃあ、お経かなんかで・・?」


和尚 「お経ではない・・」


八  「じゃあ、何なんです・・?」


和尚 「何でもない・・、いや、これは詩だな」


八  「何んで、こんなわけのわからないのが詩なんです・・?」


和尚 「わけは、ちゃんとあるんだ・・よいかな、
    いろはにほへと ちりぬるを
    わかよたれそ  つねならむ
    うゐのおくやま けふこえて
    あさきゆめみし ゑひもせす
    ・・・となっておるな」


八  「へえ・・?」


和尚 「まず、いろはにほへとちりぬるを・・だが、
    ・・どんな意味だと思うかな?」


八  「へえ、『いろは』てえ花魁(おいらん)が、やな客に屁(へ)をこいて、
    顔に塵(ちり)をぬりたくった・・?」


和尚 「いや、そうではない。これは、『色は匂へど 散りぬるを』といってな、
    香りよく色美しく咲き誇っている花も、やがては散ってしまう・・
    という意味だな。
    つまり、諸行無常(しょぎょうむじょう)を言っている」


八  「へえ〜、なるほど・・お坊さんの詩とは知らなかった」


和尚 「では、わかよたれそつねならむ・・だが、・・どんな意味だと思うかな?」


八  「へえ、我がよだれをたらしても、つねるな・・ってんでしょ?」


和尚 「いや、そうではない。これは、『我が世誰そ 常ならむ』といってな、
    この世に生きる誰もが、いつまでも生き続けられるものではない・・
    という意味でな、
    つまり、是生滅法(ぜしょうめっぽう)を言っている」


八  「へえ〜、なんだか、寂しい詩でやすね・・」


和尚 「では、うゐのおくやま けふこえて・・だが、・・どんな意味だと思うかな?」


八  「へえ〜、だんだん難しくなってきやがったな・・
    上の階に住んでる奥山さんて人が、きょう手すりを超えて逃げた・・」


和尚 「どうも、おまえさんの答えは頓珍漢だな。
    これは、『有為の奥山 今日越えて』といってな、
    この無常の、有為転変の迷いの奥山を今乗り越えて・・という意味でな、
    つまり、生滅滅己(しょうめつめつい)を言っている」


八  「へえ〜、すごい山があるんでやすね・・」


和尚 「では、あさきゆめみしゑひもせす・・だが、・・どんな意味だと思うかな?」


八  「へえ〜、難問でやすねえ!?
    朝、酒が運ばれてきた夢を見たけど、
    夢だから酔っぱらわなかった・・」


和尚 「まったくもって、おまえさんの答えは珍答のオンパレードだな。
    これは、『浅き夢見じ 酔ひもせず』といってな、
    悟りの世界に至れば、もはや儚い夢を見ることなく、
    現象の仮相の世界に酔いしれることもない安らかな心境である・・
    という意味でな、
    つまり、寂滅為楽(じゃくめついらく)を言っているんじゃ」


八  「へえ〜、悟りの詩でやすね・・。 では、『ん』てのは何です?」


和尚 「そ、それか・・それはだな・・、ちょっと厠(かわや)へ行ってくる」


八  「ん・・は便所のことか・・・」




            ・・・いろはでございました・・・