わたなべ りやうじらう のメイル・マガジン
頂門の一針 6768号
━━━━━━━━━━━━━━━━━
台湾・頼清徳政権にあらゆる支援を
━━━━━━━━━━━━━━━━━
櫻井よしこ
日本の果たす役割がこれまでにない程大事になる。そう感じた台湾総統選挙の結果だった。
新たに総統に選ばれた民主進歩党の頼清徳副総統の得票数は約559万票、全体の40%だった。4年前に蔡英文総統の下で同党が獲得した817万票より約260万票少ない。国民党の侯友宜氏は467万票で、前回の国民党の票から85万票減らした。両党から369万票を奪って善戦したのが第三勢力として台頭した台湾民衆党の柯文哲氏だ。
一方、立法院(国会に相当)を見ると、国民党が全113議席中52議席を確保して最大勢力となった。民進党は4年前の61議席から10減らして51議席に後退、民衆党が8議席を獲得して、キャスティングボートを握った。民進党は総統府と立法府のねじれ構造下で難しい政権運営となる。頼政権が安定するよう、出来得る限り多くの分野で手助けすることが日本にとっての国益にもつながる。
中国共産党が早速、頼氏に牽制球を投げたのも、中国共産党政治局員で外相を兼ねる王毅氏が訪問先のエジプトで、「選挙の結果如何に拘わらず、台湾が中国の一部という基本的事実は変わらない。中国は完全統一を実現する」と語ったのも、想定の範囲内だ。中国はあくまでも台湾併合を追求し、平和的、軍事的のどちらの手段も取る構えを崩さない。
中国共産党は頼氏の得票が全体の4割にとどまり、立法院の議席でも過半数の57議席に届かなかったことについて、台湾人の信頼を得たわけではないとの見方を示した。だが、大事なことは、1996年に李登輝氏を総統に選んだ民主的な選挙以来、民進党が3期連続で政権を取ったのは今回が初めてだということだ。台湾国民は、台湾が中国の影響下に組み込まれ、やがて香港のように自由のない国に変質させられることを嫌ったのだ。自分たちの意思で自由な社会体制を選び、そのような国づくりが可能なのは国民党よりも民進党だと判断したということだ。
大きな懸念材料
中国共産党首脳は自由の意味を知らないために自らの弾圧政策がどれほど台湾人の心を中国から遠ざけているかを理解できないのか。台湾人は世代を超えて香港の事例から多くを学んでいる。香港で民主化運動の先頭に立ち、拘束された後、カナダに亡命したアグネス・チョウ(周庭)氏が「二度と香港には戻らない」と宣言した。そのアグネス氏を香港の公安は一生追い続けて逮捕すると発表したが、眼前で横行するこの種の脅しが台湾人に与える影響を彼らは知らなければならない。
中国は選挙前、アメと鞭で台湾を支配しようと考え、台湾の地方自治体の有力者らを中国に招待し、国民党に投票するよう仕向けた。さらに、国民党への支持を明確にした者だけに台湾産の農水産物の禁輸を解除した。
台湾の有権者、とりわけ20代の若者たちが住宅や物価の高騰で民進党に不満を持ったのは事実だ。しかしそれ以上に、中国の専制的支配体制に従い、多少の経済的利益を手にしようとする国民党をもっと嫌ったのだ。結局、20代の有権者の5割以上が柯文哲氏を支持した。けれど、柯氏の政策は正直に言ってどこまで実現可能なのか、よく分からない。その分、柯氏の政治的スタンスには一抹の不安がつきまとう。
一方、台湾を支えるアメリカではバイデン大統領が頼氏の勝利を受けて祝福の言葉より先に「台湾の独立を支持しない」と語った。これには昨年11月、サンフランシスコで米中首脳会談を行ったあと、「習氏は独裁者(ディクテーター)だ」と口走ったのと同じ意図があるだろう。
「独裁者」発言は米大統領選が近づく中、中国に弱腰だと見られたくないと考えての米国民向けの発言だったと見てよいだろう。今回の「独立を支持しない」発言は、ウクライナ戦争、中東での戦争に加えて、台湾を巡る摩擦は何としてでも起こしたくないと考えるバイデン氏が、米中関係の緊張を避けようと中国共産党に向けて発言したと見るべきだ。
台湾総統選の前日、ワシントンでブリンケン国務長官と中国の次期外相と目される劉建超・共産党中央対外連絡部長が会談したと読売新聞が1月15日付で報じた。劉氏は民進党が3期連続で政権をとっても、「米側が台湾カードを切らない限り、北京は台湾に過度な行動は取らない」と語ったという。頼氏当選直後にバイデン氏が「台湾独立を支持しない」と語ったのは、中国側の求めに応じたからだと、読売は分析した。
バイデン氏の言葉よりも米国の台湾政策の実態を見ることが重要である。バイデン氏はこれまで、台湾有事に米国は軍事介入するかと三度問われ、三度とも「イエス」と答えている。前述の米中首脳会談でも台湾を巡る一方的な現状変更に反対すると習氏に告げている。議会は超党派で台湾支持を打ち出し、武器装備の売却についても承認済みだ。米国の方針は堅実なのだ。しかし、米国の軍事産業の生産能力には翳りがあり、約束した武器装備の納期を守れないでいる。この事実こそ、大きな懸念材料だ。
萩生田前政調会長が語った
もうひとつの懸念材料は一体誰が米軍の作戦を統括しているのかという点だ。オースティン国防長官の入院を、バイデン氏が3日間も知らされていなかったというのだ。オースティン氏は昨年12月下旬に全身麻酔で前立腺がんの切除手術を受けた。退院後に合併症を発症し、1月1日に再入院、集中治療室に入ったが、国防総省の発表は5日で、バイデン氏にそのことが報告されたのは4日だったという。
米国メディアは米軍がバグダッドを空爆し、イランに支援された民兵組織の高官を殺害したのは、オースティン氏が入院し、バイデン氏がその入院を知らない間のことだったと報じた。
オースティン氏は入院中意識を失っておらず、麻酔もかけられていなかったとウォルター・リード米軍医療センターの医師団が9日になって発表したが、国防長官が再入院したことを大統領が3日間も知らされていなかった事実こそ衝撃的だ。
こうした隙を中国は必ず突いてくる。だからこそ、わが国がアジアの海、とりわけ東シナ海、南シナ海、台湾海峡における秩序に貢献することが欠かせない。すでに手一杯の米国を助ける形で日本が台湾を守る気概を見せることが、中国への大きな抑止力となる。
台湾をよく知る萩生田光一前自民党政調会長が語った。
「これまで日本は台湾との協力をつとめて見せないようにしてきましたが、これからはきちんと見せた方がよい。たとえば海上保安庁と台湾のコーストガードの救命訓練です。人道上の活動ですから、どこにも遠慮はいらないはずです」
日台の運命は重なる部分が多い。そのことを踏まえて具体的に行動し、民進党の台湾に力添えするのがよい。
━━━━━━━━━━━━
「日本化」が止まらない
━━━━━━━━━━━━
中国経済の「日本化」が止まらない3つの根拠。急速な景気悪化で日本と中国の“逆転現象”も=矢口新
日本経済が長期にわたって低迷していることで、経済が長期にわたって停滞したり、デフレ環境が続くことが「日本化現象」と呼ばれるようになった。そして今、世界が懸念していることの1つは、中国経済が急速に「日本化」してきていることだ。低迷初期の日本経済と、今の中国経済の共通点はいくつかある。(『 相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー 』矢口新)
プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
中国経済の「日本化」を示す3つの兆候
日本経済が長期にわたって低迷していることで、経済が長期にわたって停滞したり、デフレ環境が続くことが、「日本化現象」と呼ばれるようになった。
そして今、世界が懸念していることの1つは、中国経済が急速に「日本化」してきていることだ。低迷初期の日本経済と、今の中国経済の共通点はいくつかある。以下などだ。
1. 米国からの圧力が低迷の引き金となった
2. 株価が(2021年2月の)ピークから半減している
3. 過剰な不動産投資が破綻しつつある
<共通点その1:米国からの圧力が低迷の引き金となった>
日本の場合は、象徴的な1985年のプラザ合意に始まる一連の継続的な外圧を指す。
中国の場合は、米中の経済交流を推し進めてきたヘンリー・キッシンジャーが2011年1月に一転して、「米中両国が冷戦状態に入りつつある」と警鐘したことに始まっている。同年に中国のGDPが日本を抜いて、米国経済の当面のライバルになったことが要因だと思われる。
米国が中国との経済交流を重視した背景は、潜在的な巨大市場であったこと。安価な労働力が得られたこと。中国をソ連から引き離すこと。そして、増長気味だった日本のライバル育成だ。
米国は日本を利用して中国を育成するという一石二鳥の政策を採った。それが、ソ連が崩壊し、中国経済が日本を抜き、米国の対中赤字が拡大したことで、「事情が変わってきた」のだ。
<共通点その2:株価が(2021年2月の)ピークから半減している>
それぞれの状況は大きく違うが株価の下落だけが共通していると言える。
関連データとすれば、中国株に投資している14の米年金基金のほとんどが2020年以降に保有株を減らしている。また、2023年の中国への海外からの直接投資は前年比8.0%減の1兆1,300億元(1,571億ドル)だった。前年割れは2012年以来となる。
<共通点その3:過剰な不動産投資が破綻しつつある>
これについての一例は、中国2023年12月の不動産大手100社新築住宅販売額は前年比34.6%減の4,513億元(約8兆9,650億円)で、11月の29.6%減から悪化したようなことだ。不動産デベロッパーや、関連金融機関の破綻も出始めている。
こうした市況悪化の最も大きな原因は過剰投資だ。政府の後押しもあって、これまでの住宅購入層はすでに2、3軒所有していることさえ珍しくない。現在、市場全体では1億5,000万人分の在庫を抱えているとされるが、中国でも人口減が始まっているうえに、未購入層の収入は不安定で、若者の失業率が高止まりしている状態では、在庫がはける見込みが立たない。空き家が急増している一方で、大卒者たちの多くが1部屋で共同生活しているのが現状なのだ。
これは、不動産関連企業の収益が今後も改善せず、債務返済が困難になることを示唆している。また、購入資金を払い込みながら住宅の完成が大幅に遅延しているようなケースでは、金利と現在の住居の家賃の二重払いが生じており、購入者の個人破産も増えている。