半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫) | |
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「半島を出でよ」
今回は11月に読んで一番印象に残った小説、『半島を出でよ(上下)』(著:村上龍)の感想(みたいなもの)を書きたいと思います。
この本がハードカバーで出版されたのが確か2006年だったかなと思います。ワールドカップで中田英寿が飛行機から降りてきたときに手に持っていたのが印象的だったなと思ったのですが、分厚い上ハードカバー持ち歩きにくそうというイメージから、今の今まで読んでなかった作品です。
読むきっかけになったのは、フランスのテロがあった時に、そういえば、日本に北朝鮮の特殊部隊がきて福岡を占拠するという小説あったなと思い出したときです。
読みたくなった時が読み頃というわけで、上下巻約1000ページにも及ぶ超大作を手に取り、読み切った上、読後は凄く考えられた小説だなと思ったので、感想を書いてみたくなりました。
以下感想です。
①ストーリー
北朝鮮の工作員(特殊部隊?)が福岡の占拠を企て、計画通りに実行してしまう。計画通りに占拠した北朝鮮の特殊部隊や軍は、日本の対応の遅さも相まってたやすく博多の自治を行うようになる。
それに対する、日本政府の対応は?あるいは博多の市民は博多を取り戻せるのか?占拠された博多の運命はいかに!❓
②感想みたいなもの
・本当にありそうな日本政府の対応
北朝鮮の少人数部隊が福岡ドームを占拠し、日本人を人質にとり、政府へ交渉するやり取りなどなど、福岡を封鎖し自治をするとこまでが、「ここまで考えるか?」というくらい、しっかり考えこまれていて、上巻の部分は凄いなと思いました。
日本政府の対応の遅さももちろんですが、政治家が政治で食っているだけのことはあり、政治家心理というか日本の民主主義の弱点をうまくついているなと思います。
おそらく、日本でフランスのような立てこもりのテロ事件が起きた時は、フランスみたいに武力行使をしてでも鎮圧に全力を尽くすようなことはできないのではないかと思わされるほど、この作品に描かれている日本政府像は妙な説得力がありました。
・上巻は妙なリアリティ、下巻はエンターテイメント色がやや強すぎるか?
北朝鮮が博多を占拠し、福岡で自治をするところは前述したように、「日本で本当に起きそうだな?」と思えるほどのリアリティですが、福岡を奪還するところは北朝鮮軍の弱点はついているものの、現実味がどうしてもなくなっています。
ただ、作者も当然、そういう作品として書いているものだと思いますので、私はこれでありだなと思います。
上巻で北朝鮮にやられっぱなしな上、情けないものを読まされている気分になるのと、長すぎて読むのを諦めそうになるところもありました。
そういう中で読んでいたので、下巻を読み切れるかどうか正直不安だったというのもあるのですが、下巻は福岡では圧倒的な北朝鮮軍を少人数で作戦を立てて叩き潰すというものだったので、続きが気になるなという感じで読み続けることができました。
そういう意味では上巻はリアリティがあるものの、やや退屈な前座だなという印象ですが、後半はありえないものの、立ち上がったホームレス達の作戦が成功するかどうかハラハラしながら読めたので面白いというのが本作品の印象です。
③まとめみたいなもの
上記のように、リアリティとエンターテイメント部分を上下巻で分けたような小説で、著者の村上龍の作品は初めて読みましたが、総じて面白かったなと思いました。
『半島を出でよ』は、冒頭でも書いたようにワールドカップの時に中田英寿が飛行機から降りてきたときに手に持っていた本だという印象が残っており、あの時読んでみようと思ったことは思ったのですが、確か上下巻に分かれていて分厚ので読むのを断念した記憶がある作品です。
私にとっては10年間読まずに忘れていた作品でしたが、読めて良かったと思える作品でした。