自燈明・法燈明の考察

立正安国論について⑤

 立正安国論では、主人が日本で仏教が廃れてしまった事から諸天善神が国を捨て去り、結果として国には様々な災難が降りかかってきていると述べています。しかし客人は国内の仏教の興隆する姿を述べ、どこが廃れているのかと質問します。
 その質問に対して主人は「但し法師は諂曲にして人倫を迷惑し王臣は不覚にして邪正を弁ずること無し」と、形式的に興隆していた様に見えたとしても、法師(出家者)が仏教を理解せず増上慢で人々を惑わし、権力者が仏教を理解せず、その出家者が資質として問題がある事を弁えていない事が問題だと述べています。

 これは日蓮が当時の鎌倉仏教界にいる僧侶や、それを重用していた鎌倉幕府に対して抱いていた問題点でもあったのではないでしょうか。

 前の記事でも書きましたが、鎌倉幕府としては鎌倉を京の都に負けない文化都市とする事を政策の柱として、鎌倉の地に多くの寺院を建立し、そこに京の都から著名な僧侶を招聘し、幕府の役人たちもこぞってそれら僧侶の下で仏教を学んでいました。

 日蓮が考えていた仏教とは「鎮護国家の仏教」であり、この仏教により国家を安寧にして、人々が安寧に暮らせる社会を実現するものと考えていました。しかし鎌倉幕府が仏教に求めていたのは「文化都市」の姿としての仏教興隆であり、要は「文化の形」としての仏教を求めていました。

 そのどこに「鎮護国家の仏教」があるのか。社会には災害が度々襲い掛かり、合戦も度々起こる状況にも関わらず、仏教僧は幕府に諫言もしなければ、幕府もそんな僧侶たちを利用していたのです。



◆法然の選択集
 日蓮はこの仏教界の諸悪の根源として、この立正安国論では法然の選択集と、そこで述べられている念仏宗を徹底して責め立てています。

「後鳥羽院の御宇に法然と云うもの有り選択集を作る即ち一代の聖教を破し悉く十方の衆生を迷わす」

 この事から日蓮正宗や創価学会では「念仏無間」と呼んでいます。
 しかしこの念仏について言えば、天台宗では最澄が摩訶止観で阿弥陀仏と自己の一体を観想する念仏修法を導入したり、源信が「往生要集」で「観想」と「称名」の2つの念仏を立てる中で「観想念仏」を重視しているのですが、その念仏について日蓮は否定をしている訳ではないのです。

 日蓮が徹底して責め立てたのは、選択集に基づく「称名念仏」について責め立てているのですが、その事について理解している人は、立正安国論を読んでいる人の中には、実はとても少ないのです。

 何故、日蓮は法然の選択集にある「称名念仏」を責めたのか。それはそこで法華経について「捨てよ・閉じよ・閣おけ・放うて」とした事、また法華経と念仏を比較して、法華経は確かに尊い教えであるが、それを行じて成仏する事は難しいので、今世では念仏を称え、極楽浄土で法華経を学べば良いという事を述べていた事を責めたてているのです。

 つまり日蓮の考え方では、法華経こそ仏教の中心経典であり、他の経典はこの法華経の説明的な役割である。鎮護国家の仏教としても、法華経を中心としてこそ可能と考えていたので、その中心の法華経を徹底的に選択集では否定していた事から、選択集の教えを否定し、法然を「悪僧だ」と徹底して責め立てたのかと思います。

 創価学会では「西方極楽浄土への往生という、現実逃避を説く教えだから念仏無間と日蓮大聖人は破折した」と教えていますが、そんな事では無いのです。

◆法然房源空は悪僧か
 立正安国論の中で、日蓮は法然とその選択集について以下の様に述べています。

「而るを法然の選択に依つて則ち教主を忘れて西土の仏駄を貴び付属を抛つて東方の如来を閣き唯四巻三部の教典を専にして空しく一代五時の妙典を抛つ是を以て弥陀の堂に非ざれば皆供仏の志を止め念仏の者に非ざれば早く施僧の懐いを忘る、故に仏閣零落して瓦松の煙老い僧房荒廃して庭草の露深し」

 ここでは法然が選択集により弘めた念仏宗に為に、阿弥陀堂で無ければ仏ではないという事で供養を止め、念仏僧以外には供養する事すら人々はしなくなった。その結果、伝教大師など先人が伝えてきた仏教が荒廃してしまったと言うのです。

 実は私はこの日蓮の解釈については、少し違う観点を持っています。それは法然房源空の生い立ちや、当時の時代背景、そしてそんな社会に仏教はどの様な立ち位置で臨んでいたのか。そこを考えてみると、仏教が荒廃したのは別に原因があった様に思えるのです。

 次回はその観点で少し記事を書いてみます。


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