自燈明・法燈明の考察

三惑已断という事について

 拙い文書でしたが三惑について、私なりに少し振り返りをしてみましたが、やはり改めて読み込んでみると、仏教とは単なる「おすがり信仰」というものではなく、この世界に対する理解を深め、そこから自身の心を如何に律しながら生きていくのか、そこを説いた教えてある事が理解できます。

 仏教ではこの現実世界(娑婆世界)とは、苦の世界であり、その苦とは心の迷いや、この世界の認識の間違いにより受けてしまう。これはこの世界は無常であり、その無常の世界に執着を起こすことから、人々が苦しみを感受する。だからこの世界を理解して、自分の心を律しなければならない。

 だから執着を断じる事が大事であり、その事について、天台大師や日蓮は、「三惑已断(三惑を既に断ち切った)」といい、それを為した存在の事を、釈尊であり仏であると述べていました。

 小乗教や原始仏教では「灰身滅智」といい、人間の持つ執着や欲望を消し去ることを説いていて、この天台大師や日蓮のいう「三惑已断」というのも同じ事だと語らう人もいたりします。要は三惑已断も執着や欲望といった「煩悩」を断じる事だから、同じ「灰身滅智」の事なんだ。という理解なんですね。しかし天台大師や日蓮は、大乗仏教の僧侶であり、この大乗仏教には「煩悩即菩提」という言葉もあります。これは「煩悩(悩みや苦しみの原因)」は「菩提(悟り)」に通じると言う事です。
 だから三惑已断と言っても、それを単純に小乗仏教と同列な考え方だと捉えるのは、拙速な解釈ではないでしょうか。

 ではこの三惑已断を、今の時代に解釈し直すと、どの様な事になるのか、少し考えてみたいと思います。

 まず言葉の意味から。
 「断ずる」という言葉には、断ち切るという意味と、判断して決めるという意味などがあります。先程のべた三惑已断を灰身滅智の様に考えるたいうのは「断ち切る」という意味合いからの解釈だと考えます。
 しかし、物事への見方や捉え方で悩み、人に寄り添い救うことで悩み苦しむというのは、人間として生きるからには常に付き纏う事では無いでしょうか。もしこれら悩みを断ち切り、もう悩み苦しむ事が無いとしたら、恐らくそれを成し遂げた人間は、既に人間あらざる者に変化したモンスターなのかもしれませんし、その様な人が、果たして人々に受け入れられるのか、考えてみれば解かります。

 人が向上心を持ち得るのは、ある意味で「煩悩」があるからだと私は考えています。ここでいう煩悩(執着)とは、何も肉体的、即物的なものばかりではありません。人は健康になりたい、お金持ちになりたい、と言う様な執着以外にも、地位や名誉が欲しい、もっと心な安らぎが欲しいという、精神的な執着や欲求をも持つ生き物です。ある意味で人とは煩悩と言われる執着をバネにして生きるという存在でもあるのです。

 「煩悩即菩提」という、煩悩が悟りに通じる。という言葉は様々な意義を含んでいる言葉です。悩みや苦しみがあるから、人は向上心を起こすことが出来るという意義と共に、悩みや苦しみがあるから、人々はそれをバネにして、それらを乗り越える行動を起こす事も出来るという意義もあります。

 ちなみに創価学会や宗門でもこの「煩悩即菩提」とい言葉をよく多用しますが、この場合の煩悩とは「欲求(渇仰)」を前面に出し、「○○を成し遂げたい」「○○を手に入れたい」と言う様な欲求をテコにして、かれらの組織に人々を縛り付け、思考をも縛り付けています。言葉は同じであっても、その意義付けが異なる事から、彼らの言う言葉は誤用だと私は考えています。

 少し話が逸れました。

 思うに「三惑已断」とは、三惑という迷う心を滅尽する様な事ではなく、それら自身の心の中にある迷いの動きをしっかりと理解して、もし迷いの動きが顕在化したとしても、それは迷いの心の働きだと判断でき、けしてそれらに翻弄されないという、心に対する内自律的な対応ができるという事を言うのでは無いでしょうか。

 釈迦であろうと、天台大師や日蓮であろうと。彼らの日常に三惑は常にあった。しかし彼らはそんな自身の心に対処する内自律的な能力を身に着けていた。そしてそれの事を「三惑已断」と言うのでは無いでしょうか。何も灰身滅智の様に、それらを無くし尽くした「超人」なんかではないと、私なんかは考えていたりするんですけど、皆さんはこの事について、どの様に考えますか?




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