前回まで紹介したのは、兵庫県の「山の牧場」の話でした。あちらは怪談作家の中山市朗市が学生時代であった1980年代からの話でしたが、今回紹介するのは、同じく怪談師である竈猫氏の体験した山の牧場の話で、こちらの舞台は北海道の苫小牧近郊の話です。
こちらは北極ジロ氏(いたこ28号)のYoutube番組「怪談バカ32夜」で紹介されていました。
この話は今から22年程前の話と言われているので、1995年頃なのかと思われますが、そうなると中山氏の語る兵庫県の「山の牧場」の話とあまり時期的には違わない時期かと思われます。
この話は中山氏の「山の牧場」と被る事から、発表当時、かなりボロクソに言われたと竈猫氏も言っていますが、事の発端は、竈猫氏が怪談好きの中学二年の時の事、当時、竈猫氏の家の家庭教師がたまたま息抜きで「この問題が解けたら良い処へ連れて行ってやる」という話から始まりました。中学二年生の男子が「良い処」というと「お、そっち系かな」とワクワクしてしまい、そういう時に限って難しい問題が解けてしまうものだったそうです。「先生解けた」と竈猫氏が言うと先生は「ちっ、、しょうがねぇなあ」と「連れて行ってやるよ、お化け屋敷だ」と言われ、怪談好きであった竈猫氏は喜んだそうです。
「先生、どんな所ですか?」
竈猫氏が尋ねると、先生は「うちの学校の近くにあるお化け屋敷だ」という事で、何でも友達の自称霊感のある奴が居て、彼が言うには学校から少し離れた処に怖い処があって、そこから夜な夜な色んなものが来るので、寮にはニンニクだなんだと色んなものをぶら下げているという事でした。「ニンニクってドラキュラじゃないんですか?」と聞くと、その先生の友人が言うには、ニンニクは普通の幽霊にも効くという事だったそうです。
そして先生の車で移動したそうですが、竈猫氏の住む地域(苫小牧市)から更に山の中に入っていった、本当に何にも無い処だったそうです。竈猫氏の自宅から舗装された道路を車で20分ほど走った場所で、途中から舗装道路をはずれてジャリ道へと入っていきました。そしてほんの少し走った場所で「ここだ」と先生が車を止めた場所で、見るとそこは牧場の廃墟でした。
この場所は右手側にかなり荒れた母屋と思われる廃墟があって、道を挟んで対面に恐らく動物を入れてあったであろう牛舎がありました。この日は夜で真っ暗だったので、さすがに怖くて車から降りる事は出来ませんでした。
この話を翌日、学校で友達に話をしたところ「すっげー見に行きてぇ」という話になり、物好きな仲間が集まってきました。大体、中学生というか思春期の男子は女の子の話か、こういったわけの分からない話が大好きなもので、みんなでその場所に行く事になりました。
中学生なので、自転車で行く事になり、場所的にも自分の家が一番近かったので、自分の家にみんなが集まっていく事になりました。時期は11月の頃だったと思います。行ったのは土曜日で、当時の土曜日はまだ週休二日ではなく半ドンだったので、学校が終わり、自分の家で食事を取ってから出かけたのです。出発は何かとやっていて時間が経ってしまい、午後三時に出発しました。
結局、現場に着いたのは午後四時をまわってしまい、もう「逢魔が時」で、とても怖い時間に現場に到着してしまいました。着いた時、友達の一人がポツリと言ったのが「何か悪魔の棲む家みたいだな」という言葉でした。牛舎の佇まいが丁度そんな感じに見えたのです。夕暮れで視界が茶色い時間で、もう怖くて仕方がない雰囲気だったのですが「母屋の方から入ってみようぜ」という事になり、四人で母屋の方に入っていきました。玄関の引き戸をあけて入って見たのですが、部屋の中は生活感がそのまま残っている様な感じで、お風呂場なんかは五右衛門窯の風呂で「となりのトトロ」に出てくる様なものでした。また古めかしい冷蔵庫もあって、中を開けると食物だったらしい残骸も残っていました。居間の方を見に行くと和室となっていましたが、ところどころ畳が無い状態で、床板が見えていました。この居間には小学生の学用品なども散らかっている状況だったんですが、いい加減に怖くなり「帰ろう」という事で、みんなで外に出ました。
外に出て気付いたのですが、どうやら床下に地下室みたいなものがあるらしく、土台が少し高くなっていて窓がついていました。家の周囲を見回ってみたのですが、入り口の様なものはどこにも無く、家の中の階段の裏に小さな扉があって、そこをケリ破ってみると小さな部屋があり、そこだけ床が妙に新しいものでした。友達の一人が床を踏みつけると撓むので、この下に入口があるのではないかと思ったのですが、その日は帰る事にしました。
その翌週月曜日に学校でこの話をしたら、新たに二人が「俺も連れていけ」と加わる事になり、合計六人で再度、その牧場へ行く事になりました。「今度は暗くなったら怖いから朝早く行こう」と、その週の土曜日の朝六時に竈猫氏の家に集まり行く事にしました。
当日の朝は晴れ渡りとても寒い朝でしたが、集まったメンバーはとんでもない姿で集まりました。一人はツルハシを持ち、剣先スコップやら木刀、金属バットにガス銃。竈猫氏もガス銃にタンクを背負っていました。「よし!行くぞ!」という事で、中学生として出来る限りの武装をして皆で牧場に向かう事になりました。
(続く)