空中楼閣―Talking Dream―

好きなものを徒然なるままに。

浅田次郎『蒼穹の昴』(講談社文庫)

2011-01-05 23:24:39 | 読書
中国近代史が好き。

高校で習った世界史の授業の中で、ひときわ心引かれた。
大学時代には上海や台湾で孫文の旧宅や中正紀念館で、一人興奮していた。

多分に、森川久美作品の影響はあると思うんだけど、
もともと好きだから森川作品に魅かれたのか、と思うぐらい、好きである。

ちなみに授業で習って一番好きだったのは康有為。
元来、「敗者」が好きなのもあって、惚れこんだ。
学生時代、「有為」をペンネームに使うぐらいに。

一方、ずっと悪女だと思ってきた西太后も、白井恵理子のマンガ『黒の李氷』シリーズで
イメージが変わった。

さて、『蒼穹の昴』。
好きにならないわけはなかったんだけれど、なまじ、好きな要素が多すぎて、
自分の中のハードルが上がりまくっていた。
読む決断(大袈裟だが)ができたのは、NHKでドラマ化されたから。
なかなか毎週は見られていないけどね。

読み始めて、まあ、当然ですが、のめり込みました。
何これ面白い!!
予想も期待も上回る面白さ。

主人公は一応ふたり。
地方の郷紳から科挙を首席で通過し、光諸帝の側近となる官僚・文秀と、
底辺の貧しい家庭から、自らの手で宦官となり、西太后に仕える春児。

…という説明を最初に見たときには、春児はさぞやドロドロの道を歩むんだろうなと
予想していたのに、彼は最後までぶれない、凄いキャラでした。

西太后、光緒帝、李鴻章、康有為、袁世凱。
動いていく歴史の中で、さまざまな視点が絡み合う。

さらに、そこから更に遡った時代の、乾隆帝とカスティリオーネ、
そのままヨーロッパに移動して同時代の偉大な芸術家たち、ティエポロとヴィヴァルディまで
交えて、壮大な物語が展開していく。

結末は、知っている。
だが、康有為に同情はしなかった(笑)
誰がどう見ても、かわいそうなのは西太后だからなあ……

康有為や文秀たちに何が足りなかったのか、それは最初からわかっていた気がする。
それは春児や玲玲の視点があったから。
彼らの目から見ればわかる。文秀たちが世界を救えない理由は。
まだ西太后のほうが、その辺ちゃんと理解できてる。

白太太という予言者を置いて、登場人物たちの宿命をすべて予言させながら、
ニヒリズムに陥らないのがすごいと思った。
読み終わった後、前を向くことができる。
人を愛して、世界を愛して、何があっても諦めずに生きようと思える。
さすが、浅田次郎。


ドラマはだいぶ脚色しているようですね。
ミセス・チャンが原作以上の大活躍で、楽しい。

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