空中楼閣―Talking Dream―

好きなものを徒然なるままに。

『月の輝く夜に』(氷室冴子・山内直実)

2012-08-22 21:46:01 | マンガ
「なんて素敵にジャパネスク」「ざ・ちぇんじ!」「雑居時代」「蕨が丘物語」と
数々の名作を生み出してきた「黄金コンビ」の新作……になります。

もちろん、「新作」と言っても、原作者の氷室冴子さんは4年前にお亡くなりになっており、
こちらでも書きました)厳密な意味での新作ではありません。
単行本未収録の短編小説のコミカライズ。

「ジャパネスク 人妻編」が無事に完結を迎え
(この連載が実現したこと自体が奇跡的だと思っているのですが、無事に完結して本当に嬉しかった!)
嬉しいと同時に、もう山内さんのマンガを新しく読めることはないのだろうか…と思っていたので、
これが出たのは本当に嬉しかったのです。

「ジャパネスク」や「ちぇんじ」と同じく平安時代を舞台にしたお話ですが、
コメディタッチだったその2作とは全く雰囲気の異なる、シリアスな作品。
てか、救いが無いです……(笑)
誰も幸せじゃなく、誰も幸せにならないあたりが、すごい。


でも、さすがのストーリーテリングで最後までぐいぐい引き付けられたし、
何より、萌えました……(爆)


主人公・貴志子は、親子ほど年の離れた男、大納言・源有実(ありざね)の恋人になっている。
(貴志子17歳、有実は40近いと言及がある)
両親を早くに亡くしたけれども裕福な貴志子は、美しい従姉・葛野(かずの)と同居している。
葛野には密かに通う男がおり、貴志子もその相手を知っている。
そんな中、入内を控えた有実の長女・晃子(あきらこ)を屋敷に預かることになり……


大きな事件は起こらず、登場人物の心理の動きが中心。
それも、あくまでも貴志子の視点で、貴志子を通したものしか描かれず、
しかも貴志子が「ぼんやりした性質」なもので、最初は何もわからない。
貴志子の視点をたどることで、登場人物たちの思いが明らかになってゆく。


萌えてしまったのは、有実です。
切れ者でクールで有能で、それでいて大人の男でヒロインに甘々なんですよ!
パーフェクトじゃないですか!!てか、都合良すぎ!(落ち着け)

(えーっと、この物語は、あくまでも、男たちの世界に翻弄される女たちの哀しみを
描き出した作品だと思います。なんだけど、萌えちゃったものは仕方がない)

有実がどういう男で、何を考えているのか、貴志子視点でしか描かれていないので、
いろいろ想像(妄想?)の余地があって楽しいです。

彼の翳りが、何に由来するものなのか。
「源」ってことは、皇統に繋がっているわけだけれども、それがどれくらい近いものなのか。
もしかすると、弾正の宮同様に、何らかの政争に巻き込まれた過去でもあるのか。
六条という、都の中心でないところに住んでいるのはなぜなのか。
左大臣と、どういう因縁があったのか。(北の方は左大臣ゆかり?)

まあ、一番の謎は、なぜ有実が貴志子に惚れたか、ですけどね(笑)
貴志子が有実を受け入れた理由はわかる。
有実が、「安全な男」に見えたからだ。(だからこそ、最後にわかるギャップが面白いんだけど)
だけど、有実がなぜ貴志子を選び、あそこまで(粘着質に見えるほど)彼女に執着するのかが謎。
謎だからこそ、萌える(笑)

有実の真意を知ってなお、貴志子が有実を正面から愛さないのもいいですね、残酷で。
だって、
「あなたは (中略) わたしの目の色を見ようともしなかったね
 一度でも本気で見れば わかったはずだ」
とまで言われて、その直後、同じ場面で、
彼の表情を「見なくてもわかる」ってモノローグが入るんですよ!!
恐いわー。

さまざまな解釈ができるでしょうが、貴志子も葛野も晃子も、
男たちの政争、男たちの用意した「幸福」を拒絶して、
自分の人生の不幸せを穏やかに受け止め、受け入れる物語だ、と感じました。

弾正の宮は、もろに、在原業平ですね。(作中でも「伊勢物語のよう」と言及されてますけど)
これで彼が一の姫をうっかり(「本意にはあらで@伊勢物語」)愛してしまったら
完全に業平になるんでしょうが、そうならずに、業平よりはるかに不幸なのがまた凄い。

小説を読んだらまた感想も変わるでしょうから、原作も読んでみたい。


っていうか、今更言っても詮無きことですが、
瑠璃視点の「ジャパネスク」の後に高彬視点や守弥視点の「ジャパネスク・アンコール!」があったように、
有実視点で同じ物語を読んでみたかったです。
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