空中楼閣―Talking Dream―

好きなものを徒然なるままに。

『南京路に花吹雪』(森川久美)

2009-08-26 22:49:27 | マンガ
何回目か、何十回目か、もしかしたら何百回目か。

読み返してボロボロと泣きました。

文学・マンガ・映画・ドラマ・舞台…今まで出会ったありとあらゆる「物語」の中で、
何よりも何よりも好きな作品。
何よりも何よりも大切な作品。

出会ってから、もう10年になる。(初出は…1981年か。生まれてないわ…)
この10年の間に、感じ方は何度も変化した。

最初読んだときになぜあそこまで惹きつけられ、泣いたのかは、未だにわからない(笑)

2001年、同時多発テロからアフガン戦争に向かう世界情勢の中で読み返したときは、
本郷さんたちの絶望感と自分の絶望感が見事にシンクロして涙が止まらなくなった。
「勝ち目の無い戦い」と言いながら、なぜ彼らが戦い続けることを選んだのか。
どこかで、戦争を止められることを、自分の大切な世界を守れることを、
(「国」でもなく「人」でもなく、「世界」。)
彼らが信じていた、信じようとしていたからなんだと、そう気付いたとき、
初めて彼らの「痛み」が実感として胸を刺した。

元ネタである「夢なきものの掟」(生島治郎)を読んだ後は、
「南京路」に流れる湿っぽさが少し辛かったときもあった。
全編通して、登場人物がよく泣くんだもん(汗)

そして、テロを止めるために始めたはずの「54号」の活動が、
終盤、どう見てもただのテロリストになっていたことにも、
軽く衝撃を受けると同時に哀れさを感じた。

宝塚の「凍てついた明日」を見た後、また印象が変わった。
この芝居で一番好きなシーンは、一幕のラスト、
「ボニー&クライド、旅はまだ始まったばかり」
なんだけど、
この場面と、「南京路」の
「おっぱじめようか この街相手の大戦争……!」
「そうですね それしかないようだ…」

の場面(文庫版1巻ラスト)が、私の中で重なった。
死出の旅立ち。
そこにしか、行けない。
他に、行き場を持たない。
破滅へのレールは、ずっと前から敷かれていたのだ。
「わかっていたことだ この仕事を引き受けた時から… 俺たちは地獄に堕ちている…」
「戦争を止められるかもしれない」なんて「希望」は、最初からなかった。
いや、もしも止められたとしても、それはイコール「幸せ」ではなかったのかもしれない。
…少なくとも、黄にとって。
「54号」で働くことを選んだときには、恐らく無自覚だっただろうけど。
その時点できっと、死に場所を求めていたんだろう。
「生きる場所」を渇望しながら、そんなものが存在しないことを十分に理解して。
…自覚したのは、ジョーを撃った瞬間だと思うけれども。
「ごめんよ ジョー 僕は自由になれるほど強くないんだ――」

で、改めて一気読みして、文庫版3巻の黄のモノローグ、
「なんのために生まれてきた なんのために 生きて 死ぬんだろう…」
で号泣しました……

何も信じず 何も愛さず 憎む心だけは限りなく……
こんなちっぽけな身一つの哀しさなのに……
誰か……この魂のために祈ってくれないか……


どうやったら救えるんでしょうね、彼の渇きは。
「何かを信じたい」と渇望しながら、信じるべき対象を持てず、
「誰かを愛したい」と渇望しながら、人を愛してもいながら、その愛を保てない。

その前に、同じ作者の『信長』と『花の都に捧げる』を読み返していたんですが、
(どっちの主人公も黄と同じ思考回路の持ち主)
『信長』の主人公・三郎の救い方は、わかる。
『花の都…』の主人公・ロレンツォの救い方も、わかる。
(実際に物語中で救われたかどうかは別の話ね)
二人とも、求めているものははっきりしてるからね。
三郎の場合は、信長と白雪。
ロレンツォの場合は、サヴォナローラとルクレツィアだ。
…それでいくと、黄の場合は、本郷さんと紅雪美になるはずなんだけどなあ。
で、その二人から許されて愛されてるのになあ。(しかも意思表明されてるのになあ)
それでも、彼を救うことはできない。


「少女漫画に学ぶ ヲトメ心とレンアイ学」というコラムで、
少女マンガのアンニュイな男キャラに、読者は「私が救ってあげる!」とときめく、
と分析されていたんだけど、(そして私はアンニュイキャラにはもれなくときめくが)
黄だけは、救い方がわからない。


黄の絶望に胸を締め付けられて、彼を救えない本郷さんの苦悩にシンクロして、
読み終わってぐったり疲れながらも、
やっぱり別格の作品だな、と思い知ったのでした……
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