百三十三節
北宮錡は孟子に尋ねた。
「周の王室の爵位と俸禄の制度はどのようなものでございますか。」
孟子は答えた。
「その詳しいことは私もわからない。諸侯たちが自分に都合が悪いので、其の記したものを捨て去ったからだ。しかし私はその大まかな事は以前に聞いたことがある。爵位については、天子・公・侯・伯はそれぞれ一階級で、子と男は併せて一階級で、全部で五階級である。国における階級は、君・卿・大夫・上士・中士・下士の六階級である。俸禄の制度は、天子の領地は千里四方、公・侯の領地は百里四方、伯の領地は七十里四方、子と男の領地は五十里四方の四階級である。五十里未満の国で、直接天子に姓名を通じて挨拶できず、大国の伝手により取り次いでもらう国を附庸と言う。天子に仕える卿は、侯に準じ、大夫は伯に準じ、上士は子・男に準じる。百里四方の領地をもつ大国での俸禄は、君は卿の十倍、卿は大夫の三倍、大夫は上士の二倍、上士は中士の二倍、中士は下士の二倍、下士は庶民で役人になっている者と同じ俸禄であり、その禄は、在職中は耕すことが出来ないので、農夫一人が耕して得られる額を支給する。七十里四方の領地をもつ中堅の国での俸禄は、君は卿の十倍、卿は大夫の三倍、大夫は上士の二倍、上士は中士の二倍、中士は下士の二倍、下士は庶民で役人になっている者の俸禄と同じで、農夫一人の耕して得られる額である。五十里四方の領地をもつ小国での俸禄は、君は卿の十倍、卿は大夫の二倍、大夫は上士の二倍、上士は中士の二倍、中士は下士の二倍、下士は庶民で役人になっている者と同じで、農夫一人の耕して得られる額である。農民一人に与えられる土地は百畝であるが、地味による収入の差により区別されており、上農夫は一家九人を養うことができ、上の次の農夫は八人を、中農夫は七人を、中の次は六人を、下農夫は五人を養うことができる。庶民で役人になっている者の俸禄は、その職務に応じて農夫の五等級に応じて支給されるのだ。」
北宮錡問曰、周室班爵祿也、如之何。孟子曰、其詳不可得聞也。諸侯惡其害己也、而皆去其籍。然而軻也、嘗聞其略也。天子一位、公一位、侯一位、伯一位、子男同一位、凡五等也。君一位、卿一位、大夫一位、上士一位、中士一位、下士一位、凡六等。天子之制、地方千里、公侯皆方百里、伯七十里、子男五十里、凡四等。不能五十里、不達於天子、附於諸侯、曰附庸。天子之卿受地視侯、大夫受地視伯、元士受地視子男。大國地方百里、君十卿祿、卿祿四大夫、大夫倍上士、上士倍中士、中士倍下士、下士與庶人在官者同祿、祿足以代其耕也。次國地方七十里、君十卿祿、卿祿三大夫、大夫倍上士、上士倍中士、中士倍下士、下士與庶人在官者同祿、祿足以代其耕也。小國地方五十里、君十卿祿、卿祿二大夫、大夫倍上士、上士倍中士、中士倍下士、下士與庶人在官者同祿、祿足以代其耕也。耕者之所獲、一夫百畝。百畝之糞、上農夫食九人、上次食八人、中食七人、中次食六人、下食五人。庶人在官者、其祿以是為差。
北宮錡問いて曰く、「周室の爵祿を班するや、之を如何。」孟子曰く、「其の詳は聞くを得可らざるなり。諸侯、其の己を害するを惡みて、皆其の籍を去れり。然り而して軻や、嘗て其の略を聞けり。天子一位、公一位、侯一位、伯一位、子・男同じく一位、凡そ五等なり。君一位、卿一位、大夫一位、上士一位、中士一位、下士一位、凡そ六等なり。天子の制は、地は方千里、公侯は皆方百里、伯は七十里、子・男は五十里、凡そ四等なり。五十里なること能わずして、天子に達せず、諸侯に附くを、附庸と曰う。天子の卿は、地を受くること侯に視(なぞらえる)え、大夫は地を受くること伯に視え、元士は地を受くること子・男に視う。大國は地、方百里。君は卿の祿を十にし、卿の祿は大夫を四にし、大夫は上士に倍し、上士は中士に倍し、中士は下士に倍し、下士は庶人の官に在る者と祿を同じくす。祿は以て其の耕に代うるに足るなり。次國は地、方七十里、君は卿の祿を十にし、卿の祿は大夫を三にし、大夫は上士に倍し、上士は中士に倍し、中士は下士に倍し、下士は庶人の官に在る者と祿を同じくし、祿は以て其の耕に代うるに足るなり。小國は地、方五十里、君は卿の祿を十にし、卿の祿は大夫を二にし、大夫は上士に倍し、上士は中士に倍し、中士は下士に倍し、下士は庶人の官に在る者と祿を同じくし、祿は以て其の耕に代うるに足るなり。耕す者の獲る所は、一夫に百畝なり。百畝の糞、上農夫は九人を食い、上の次は八人を食い、中は七人を食い、中の次は六人を食い、下は五人を食う。庶人の官に在る者は、其の祿、是を以て差と為す。」
<語釈>
○「班」、趙注:班は列なり。序列のことで、等差階級の制度。○「元士」、朱注:元士は上士なり。○「百畝之糞」、服部宇之吉氏云う、百畝の田に糞して能く其の地味を肥沃ならしむるものは上農夫にして、一家九人を養うことを得べし。○「其祿以是為差」、趙注:庶人の官に在る者の食禄の等差は、農夫の上中下の次に由り、亦た此の五等有り。
<解説>
特に解説することはない。だがこの節の内容は、周の制度を知るうえでの一助になる。それが正しいかどうかは定かではないが。