「日本画」の前衛 1938-1949
2011年1月8日~2月13日
東京国立近代美術館
何か面白そうな展覧会はないかと調べていると、目についたのがこの展覧会。
「日本画」の世界まで興味の範囲を広げないことを基本にしているため、「王道」をよく知らない私。
でも、「前衛」という言葉が気になり、会期最後から2番目の土曜日、竹橋へ向かいました。
あまり期待しておらず、軽く切り上げて次を回ろうと予定していましたが、物珍しさもあってか面白い。
結局、2時間いて、次を回るのは中止しました。
出品されている作家で名前を聞いたことがあるのは、丸木位里と靉光だけ。
山岡良文、山崎隆、田口壮、船田玉樹、岩橋英遠、吉岡堅二、三上誠等、初めて聞く名前ばかり。
【概要】
社会的にも激動の時期である1930年代後半期、「日本画」の世界において、伝統的美意識による創造に決別し、新たな表現を目指す活動が起こりました。舞台となったのは1938年4月に結成された歴程美術協会です。彼ら「日本画家」たちは、抽象やシュルレアリスムは言うまでもなく、バウハウスの造形理論をも取り込みつつ「日本画」を制作し、その展覧会場にはフォトグラムや工芸、盛花までもが並びました。
本展覧会は、この歴程美術協会を起点とした「日本画」における果敢な挑戦を、日本で初めて具体化された「前衛」意識と位置づけ、多角的に検証するものです。
本展では、これらの「日本画家」たちが交流を深めた洋画家たちとの影響関係も探ります。
また、戦争の拡大とともに未完の前衛と化した様相にも触れながら、歴程美術協会の戦後における再興とも言うべきパンリアルの誕生までを扱います。
【構成】
第1章 「日本画」前衛の登場
第2章 前衛集団「歴程美術協会」の軌跡
第3章 「洋画」との交錯、「日本画と洋画」のはざまに
第4章 戦禍の記憶
第5章 戦後の再生、「パンリアル」結成への道
メインは、「歴程美術協会」出品作を追う第1章と第2章。
本展チラシ掲載作品6点中、5点がこの章からのもの。
山岡良文「シュパンヌンク」や山崎隆「象」の抽象的作品、田口壮「季節の停止」のシュルレアリスム的作品がウリのようです。
これら額装作品もいいですが、丸木位里「馬(部分)」、山岡良文「矢叫び」、船田玉樹「暁のレモン園」といった屏風絵も印象に残ります。
第3章は洋画作品も登場します。
靉光の「馬」と「眼のある風景」はさすがの迫力。見入ってしまいます。
日本画では、総じて丸木位里にひかれました。「ラクダ」、「池」、「雨乞」「牛」など。次に巡回する広島県立美術館所蔵作が多いですね。
「雨乞」は鷺を描いた作品なのですが、どうしても画面左側に人間(女性)が浮かんできてしまって仕方がない。確かに鷺なのですが、女性の右腕に見えてしまう。黒い雨に襲われ天を仰ぎ嘆く女性といったイメージを勝手に想像してしまいます。1939年作です。
他に、岩橋英遠の「土」2作品、山岡良文「消費都市」、田口壮「喫茶室」、吉岡堅二「馬」など。
第4章が私としては一番見ごたえのあった章。
山崎隆「戦地の印象」、「続戦地の印象(其四)」、「続戦地の印象(其五)」。
四曲一双屏風に寒散と広がる大地の風景が描かれています。1940~42年の作。彼は1937年に召集され、翌年負傷で召集解除となったそうです。
対面には、いわゆる戦争記録画2作品が並びます。吉岡堅二「ブラカンマティ要塞の爆撃」、福田豊四郎「英領ボルネオを衝く」。
他に、山崎隆「歴史」は堅固さ、「神仙」は幻想的、吉岡堅二「氷原」は躍動的等、大画面の屏風画に感心しました。
京都国立近代美術館所蔵作品が中心の章です。
第5章は戦後。「パンリアル」展出品作品を追います。
山崎隆や三上誠、下村良之介作品が並びます。「戦災風物誌」といった時代を感じさせる作品など。
総じて、描かれた題材もあって「日本画」だということを意識することなく、また「前衛」うんぬんも気にすることなく、大画面一杯に描かれた、装飾的でかつ、躍動感のある、あるいは堅固な、あるいは感傷的な、あるいは幻想的な世界を楽しんだという感じです。企画者の意図とは違うのでしょうけど。