ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション
2011年6月8日~9月5日
国立新美術館
マネ「鉄道」を目玉とするワシントン・ナショナル・ギャラリー展。
「鉄道」に再会できる、と非常に楽しみにしていました。
超早割ペアチケットも買いました。が、その後の情勢の変化により、再会は厳しいかなあと、少し覚悟してました。
無事に予定どおり開催されたことをたいへんうれしく思います。
マネ「鉄道」を以前見たのは、前回の来日時。
1999年の「ワシントンナショナル・ギャラリー展」と思い込んでいたのですが、改めて確認すると、1994年の国立西洋美術館の「1874年─パリ 「第一回印象派展」とその時代」展でした。
その頃は、印象派といえばまずはゴッホ、次にモネやある時代のルノワール辺りが好み。
マネにそれほどの関心はなく、本作もそんなに熱心に見たわけではないのですが、なぜかしら印象が長く残っていました。
昨年の三菱一号館美術館のマネ展やその頃読んだ吉川節子著「印象派の誕生」(中公新書)で、この絵を思い出し、もし再会することがあれば今度はじっくり見ようと思ってました。こんなにも早く機会がやってくるとは。
早速、金曜日の夜間開館時に行ってきました。
全83点の展示。うち油彩作品は56点。
品数は決して多い部類ではないですが、粒ぞろい。平均してレベルが高い。見ごたえがあります。
第1章・2章および4章の油彩作品を見るだけで時間を要し、第3章の素描・版画・水彩作品には時間を割けないまま、閉館時間がやってくるという状況でした。
作品の掛けられる位置が、一般的な本美術館での展覧会と比べ、高め。また、作品についてのキャプションの数が少なめで、内容もずいぶんあっさり。今後予想される混雑への対策なのでしょう。
◇展示構成
第1章 印象派登場まで
マネ5点、バジール3点、クールベ1点、他 全15点
第2章 印象派
モネ6点、ドガ3点、ルノワール6点、ピサロ3点、シスレー1点、カイユボット1点、モリゾ3点、カサット3点、ゴンザレス1点の計27点
第3章 紙の上の印象派
素描・版画・水彩など27点
第4章 ポスト印象派以降
ロートレック2点、セザンヌ6点、スーラ2点、ゴーギャン1点、ゴッホ3点の計14点
第1章 印象派登場まで
マネ「鉄道」
母と子は睦ましく描かれるのが伝統的。
ところが本作は、母親は読書に夢中(膝で子犬が寝入るほど)、少女は手持ち無沙汰の極み。
このような愛情が通わない登場人物達に、当時の人々は違和感を覚えたらしい。風刺漫画家が「二人の心を病んだ女性が通り過ぎる列車を監禁室の鉄柵越しに眺めている」と喩えたほど。
しかし、母と子の間に流れるこうした冷たい関係こそ、マネが周到に準備して描こうとしたものではなかったか。
以上、吉川節子著「印象派の誕生」より、超抜粋。
そのような意味での違和感など別に感じない、現代人たる私ですが。
「鉄道」と題しつつ、前面に描かれているのは母と娘(娘は後ろ姿)。なぜか娘の右横には一房のぶどうが置かれている。
背景には白い煙が広がっており、駅(サン・ラザール駅とのこと)があることが示されている。
白い煙の後ろに見え隠れする建物、遠くにあるのでしょう、小さく見えている作業小屋とその横に立つ人物。
それらはどのような位置関係にあるのだろうか、ちょっとわからない。
マネらしい筆触。つい長居してしまう魅力的な作品です。
バジール「若い女性と牡丹」
普仏戦争に従軍し、1870年に29歳で亡くなったバジール。
第一回印象派展の開催が1874年。
もっと生きていれば、印象派の誕生期の画家として、今より名の知れた画家となっていたでしょう。
吉川節子著「印象派の誕生」第1章は、バジールに焦点をあて、多数の作品を紹介しています。
そのなかの一つファーブル美術館所蔵の「芍薬と黒人の女性」は、同章の話の展開の中で、重要な役割を担う作品です。
その作品と今回展示の作品は、モデルの黒人女性が同じです。頭の被り物も同じ。花に囲まれているのも同じ。
かたや南仏のモンペリエにある美術館に、かたや米国の首都にある美術館に。不思議なものです。
今回の展示作品の若い(キャプションより)黒人モデルは、鑑賞者をじっと見つめています。花を買ってほしいのでしょうか。立ち位置を変えても、相変わらず見つめています。
印象的なモデルさんで、これまたつい長居してしまいます。
他には、クールベ「ルー川の洞窟」(迫力ある洞窟の描写)やマネ「キング・チャールズ・スパニエル犬」(犬の肖像画、かわいいですね)など。
最近関心を持ち始めたファンタン=ラツゥールは、桃の小品1点だけで、ちょっと残念。