開館20周年記念展
初期浮世絵展-版の力・筆の力-
2016年1月9日~2月28日
千葉市美術館
会期最後の週末、再訪する。
初期の浮世絵版画は、今までほぼスルーしていた私であるが、全195点からなる「日本初の総合的な初期浮世絵の展覧会」を、このままピンとこなかった、で終わるのは惜しい気がしての再訪。
再訪は大当たり。実に見応えのある展覧会だと認識する。
会期末にもかかわらず、観客は控えめ。会期始まってまもなくの頃に訪問した前回 -時間帯はほぼ同じ- の方が多かった気がする。一般的な浮世絵展と異なり、展示替えが限定的なので、リピーター需要が少ないのかもしれない。
プロローグ:浮世の楽しみ-近世初期風俗画
寛永年間(1624-44)やその後に描かれた、寛永風俗画、寛永美人画など。
1:菱川師宣と浮世絵の誕生-江戸自慢の時代
浮世絵の創始者とされる菱川師宣(?-1694)。1672年から活動が活発となる。肉筆画、風俗絵本が中心。大判墨摺絵も並ぶ。《よしはらの躰》など。
杉村治兵衛。生没年不明だが、作画期は1681年~1697年と、菱川師宣と同時代に活躍する。シカゴ美術館蔵《遊歩美人図》、《遊女と客》など。
この章の版画は、「墨摺絵」(墨一色のみ)で、色彩は手彩色されたもの(「墨摺筆彩」)。杉村治兵衛は、丹絵も1点出品。
2:荒事の躍動と継承-初期鳥居派の活躍
初代鳥居清信(1664-1729)と初代鳥居清倍(1692 ?-1718 ?)。荒々しさを強調する役者絵・武者絵。立美人図。
この章の版画は、オレンジ色が印象的な「丹絵」。オレンジを主調色とする手彩色版画。
初代鳥居清倍の《二代目市川団十郎の虎退治》1713年、《金太郎と熊》1711-16年頃、《初代市川団蔵と初代大谷広次の草摺曳》など。メインビジュアルを担う《金太郎と熊》のオレンジの発色は特筆もの。ホノルル美術館蔵。
3:床の間のヴィーナス-懐月堂派と立美人図
懐月堂安度、宮川長春など。立美人図の肉筆画が多い。
懐月堂派は、版画に対抗しての「肉筆量産」。「豪快な筆致、精製度の低いくすんだ色合いの絵具、バターン化された図柄」。
4:浮世絵界のトリックスター-奥村政信の発信力
奥村政信(1686-1764)。
「丹絵」。
「紅絵」。オレンジではなく、紅色で手彩色。丹絵より手間がかかるらしい。その紅は今では概ね退色。
「漆絵」。紅絵の黒色の部分にさらに膠を使用して光沢を出したもの。
「浮絵」。西洋の遠近法を取り入れた透視図法を用いて、空間の奥行きを強調。数十年に一度の朝鮮通信使を描く浮絵など。
5:紅色のロマンス-紅摺絵から錦絵へ
「紅摺絵」。手彩色から版彩色へ。紅と緑の二色摺がメイン。たまに黄色など三色摺。紅と緑の二色の色彩で描き分けられた作品が並ぶのはなかなかの壮観。
「あぶな絵」。若い女性の脚が露わになっている。石川豊信《清水の舞台から飛び降りる娘》、鳥居清広《風に悩む美人》の2点。
そして最後の最後に七・八色摺の「錦絵」の誕生。鈴木春信(1725 ?-1770)の1765-67年の作品で本展は終わる。
「浮世絵版画のはじまり」約100年を実物多数で楽しむ。