ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
2020年6月18日〜10月18日
国立西洋美術館
エル・グレコ(1541〜1614)
《神殿から商人を追い払うキリスト》
1600年頃、106.3×129.7cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
鞭を振りかざすキリスト、その左側には追い払われる商人たち、右側にはキリストの行いについて議論する老人たち(使徒たち)。
いかにもエル・グレコらしい人物の姿態を味わえる魅力作。
図録解説によると、1895年に本作をLNGに寄贈したロビンソン(1824-1913)は、V&A博物館の学芸員で、ルネサンス美術の研究家・スペイン美術のコレクターであったが、エル・グレコについては、当時の典型的な理解どおり、「風変わりな画家」と見做していたという。
「この画家は世捨て人のように狂っており、彼の作品は無数にある欠点を承知のうえで判断されなければならない。」
「神殿から商人を追い払うキリスト」というテーマについて、画家は、画業初期のイタリア時代と、トレドの晩年時代に、それぞれ複数バージョンを制作している。
【イタリア時代】
エル・グレコ
《神殿から商人を追い払うキリスト》
おそらく1570年以前、65.4×83.2cm
ワシントン・ナショナル・ギャラリー
*ヴェネツィア時代に制作した最初のバージョン。トレド時代と比べ、舞台が特に右側に広く、より多くの人物が描かれている。LNG版と同じくロビンソンが所蔵していたが、本作については売却。その後、所有者の変遷を経て、1957年にワシントンNGAの所蔵となる。
エル・グレコ
《神殿から商人を追い払うキリスト》
1570年頃、116.84 x 149.86 cm
ミネアポリス美術研究所
*ローマ時代の制作とされる。右下隅には、4人の芸術家 ー ティツィアーノ、ミケランジェロ、ジュリオ・クローヴィオ、ラファエロ ー の肖像が描かれる。
【トレド時代】
エル・グレコ
《神殿から商人を追い払うキリスト》
1600年頃、106.3×129.7cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
*約30年ぶりの新バージョンは、完全なる「エル・グレコ」スタイル。背後のアーチにある浮彫、左は「楽園追放」、右は「イサクの犠牲」。
エル・グレコ
《神殿から商人を追い払うキリスト》
1600年頃、41.9×52.4cm
フリック・コレクション
*LNG版の縮小レプリカなのだろうか
エル・グレコ
《神殿から商人を追い払うキリスト》
1610年頃、107×124cm
バレス・フィサ・コレクション、マドリード
*2012-13年「エル・グレコ展」で来日
エル・グレコ
《神殿から商人を追い払うキリスト》
1610年頃、106×104cm
サン・ヒネス教区聖堂、マドリード
*スペインに渡って以降の画家は、祭壇画のみならず、それをしつらえる祭壇衝立の設計・制作も手がける。本作品の背景に描かれる建築物は、画家が1603-05年に制作したイリェスカス(トレドとマドリードの間にある町)のカリダード施療院聖堂主祭壇画の祭壇衝立の構造によく似ているらしい(「エル・グレコ展」図録参照)。縦横比が変わり、正方形に近い。
今回のロンドン・ナショナル・ギャラリー展のスペイン絵画セクションは、出品作は7人8点であるが、7人8点だとは思えない深い鑑賞体験。私的には本展1番の充実セクションである。