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アルチンボルドの《四季》連作-《春》《夏》《秋》《冬》-アルチンボルド展(国立西洋美術館)

2017年06月27日 | アルチンボルド

アルチンボルド展
2017年6月20日~9月24日
国立西洋美術館

 

   アルチンボルドの《四季》連作-《春》《夏》《秋》《冬》-について記載する。

 

   アルチンボルドは、ウィーンに到着して間もない1563年、《四季》連作-《春》《夏》《秋》《冬》-を制作する。

   この連作は、1566年に制作された《四大元素》連作とともに、1569年に神聖ローマ帝国皇帝マクシミリアン2世に献上される。

   《四季》連作はたいへん人気があったらしく、その後、本人作、工房作を含めていくつかのバージョンが制作される。

 

   まずは、これらバージョンについて確認したい。正確性には欠けるだろうけど、私の現在の認識を記載する。

 


   1569年に皇帝に献上されたバージョン、いわゆるウィーン・バージョンであるが、現在ウィーン美術史美術館が所蔵するのは、今回来日の《冬》と非来日の《夏》の2点。

   残り2点はどこにあるのか。

   《春》は、おそらくスペイン王フェリペ2世への贈り物としてスペインに送られたと考えられている。
   そして、現在、マドリードの王立サン・フェルディナンド美術アカデミー美術館が所蔵する作品-今回の来日作品-がそれと考えられている。

   一方、《秋》はというと、消失したと考えられているようだ。 

 

 

   次に他のバージョンについて。

 

1  ルーヴル・バージョン

   他のバージョンで有名なのは、ルーヴル美術館が所蔵するバージョン。ウィーン・バージョンの10年後の1573年に皇帝の要請に応じて再制作され、1575年にザクセン選帝侯アウグストに贈られたもの。

   何と言っても、ルーヴル美術館所蔵。そして4点全てが揃って鑑賞することができる唯一のバージョン。

   ルーヴル・バージョンには、4点とも草花の縁取りが描かれている。これは制作時にはなく、17世紀頃に他の画家によって描き加えられたものとされている。

 

2  ミュンヘン・バージョン 

   図録で言及されているのが、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークが所蔵するバージョン。

   図録には、《春》《夏》《冬》の3点の図版が掲載されていて、《秋》の図版がない。《秋》も所蔵するが、作品の状態が極めて悪く、図版に能わないということらしい。

   ミュンヘン・バージョンは、従来、宮廷の工房の産物と考えられていたが、近年では、1563年のウィーン・バージョンに先行して、ミラノ時代に制作されたものと考えられるようになっているという。

   なるほど、そういう蓄積があったからこそ、ウィーンに宮廷画家として招かれ、短い期間にこれだけの連作を完成させることができたのだなあ。

 

3  1572年バージョン

   もう一つのバージョンが、1572年に制作されたバージョン。

   《夏》と《秋》は、デンヴァー美術館に所蔵され、本展に2点とも出品されている。

   《冬》は、ヒューストン、メニル・コレクションに所蔵される作品がそれにあたると推測されている。その作品も本展の最終章に、アルチンボルド帰属作品として出品されている。

   《春》の所在については、図録には言及がないようだ。

   このバージョンの特徴は、画面のサイズ。ウィーン・バージョンやそれより少し大きいルーヴル・バージョンより、さらに大きい。大きいが、描かれた肖像の大きさはあまり変わらず、余白が大きい感じとなっている。

 

 


   次に本展出品作の《春》《夏》《秋》《冬》を見ていく。

 

   まず、人物像の性別。
   ラテン語やイタリア語の名詞性に倣い、《春》《夏》が女性、《秋》《冬》が男性を描いているとされる。

   人物像の年齢。
   若い《春》から老人の《冬》まで、季節が各世代に対応するとされる。

   う〜ん、性別・年齢は、ぱっと見では、《冬》を除いて、そうだと分からなかった。

   人物像の向き。
   《春》《秋》が向かって左、《夏》《冬》が向かって右。これは、もう一つの連作《四大元素》とペアで向き合うように構成されたものである。

 

 

《春》
1563年
マドリード、王立サン・フェルディナンド美術アカデミー美術館

・ウィーン・バージョンとされる。
・80種類もの花々や草葉が描き込まれているという。
・頭部は花々、胸は草葉。左下の「アイリスは胸のお守りとなり」、右上の「白いユリは帽子に付された羽となる」。眼はパンジーから、白い襟はフランスギクとスノーボールツリーから、衣装の袖部分はレタスとタンポポの一種から構成されているとのこと。

  個人的には、頭部の花々も素敵だが、さらに首から下の緑の草葉の描写がたまらないく好みである。一つ一つ違う種類の草葉が実に丁寧に描かれている。圧巻である。

 


《夏》
1572年
デンヴァー美術館

・1572年バージョン。
・襟には画家の名前が、肩辺り日は制作年である1572という数字が描かれる。
・主に野菜と果物から構成される。「大航海時代を経てメキシコからもたらされたばかりのトウモロコシや、アフリカ、アラビア、インドが原産のナスなど、当時の人々の目には珍奇に映ったであろう野菜が数多く登場する」。アンティチョークが胸のお守りとなり、ズッキーニが鼻を構成する。

 

 

《秋》
1572年
デンヴァー美術館

・1572年バージョン。
・秋の収獲物と紅葉した木々から構成される。頭髪を構成するブドウが目立つ。右上の大きなカボチャには、何故かカタツムリが乗っかっている。秋の収獲物を描いた静物画的要素が濃い作品である。

 

 

《冬》
1563年
ウィーン美術史美術館

・ウィーン・バージョン。
・「ごつごつとしたこぶの多い切り株によって形成された頭像」、「切り株の周りに、折れた枯れ枝やコケ、ツタの葉、木の膨らみやキノコ」、「大きさの違う3つのキノコが重なり合い唇を形作る」。胸には「冬の果物であるレモンがふたつぶら下がって」いる。
・「服にあしらわれるMの文字は皇帝マクシミリアンを象徴する。つまり連作全体で、世界(ミクロコスモスとマクロコスモス)を統べる皇帝を称揚している」。


   この《冬》は、たいへんな傑作である。と思う。

 


   さて、描き込まれた花々・草葉や野菜・果物が何か、詳細な説明が図録にあるものと想像していたが、そのような箇所はほぼ見当たらないのは残念である。

 



2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
さすがアルチンボルド! (イグラ)
2018-08-21 16:52:35
こんなの見てるとお腹空きますね
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Re:さすがアルチンボルド! ()
2018-08-22 20:30:13
ミュンヘン所蔵の四季連作が観てみたいです。《秋》はさすがに展示されていないのでしょうね。
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