東京大学経済学図書館所蔵
ウィリアム・ホガース版画(大河内コレクション)のすべて
近代ロンドンの繁栄と混沌(カオス)
2023年5月13日~6月25日
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部
駒場博物館
ウィリアム・ホガース(1694-1764)。
「イギリス絵画の父」と称され、18世紀イギリスを代表する国民的画家とされる。
イギリスの当時の社会・日常生活に焦点を当て、そこから道徳的・教訓的主題を見出した社会風刺版画によって知られる。
私的には、その名前は知っているが、作品については、油彩作品はおそらく実見したことはないし、版画作品も各種展覧会や国立西洋美術館常設展などで数点ずつ見たことがある程度と、縁遠い存在であったところ。
本展は、まとまった数のホガースの版画作品を観る絶好の機会となる。
大河内一男(1905-84)・暁男(1932-2017)の親子が二代にわたって収集し、2017年に東京大学経済学図書館が寄贈を受けたホガース銅版画のコレクション全71点の一挙公開である。
二人とも東京大学経済学部教授で、父は東京大学総長(1968年の東大紛争により辞任)、息子も経済学部長を務めている。
大河内一男は、自分の専門(社会政策・労働問題)とホガースの関連について、(おそらく1979年のNHK日曜美術館にて。会場内でビデオ上映あり★ 著『社会政策四十年 追憶と意見』1970年、東京大学出版会)にて次のように述回しているという。
「ドロシー・マーシァルが取扱ったような下層階級、そしてホガースのエッチングに出てくるような頽廃的な生活の中におち込んだ下層の男女、その意味での十八世紀における『貧民』問題、その中からどうやって近代的な賃労働がつくり上げられるのだろうか...」
以下、主に楽しんだ作品。
《誤った遠近法の風刺》
対作品《ビール街》《ジン横丁》、1751年
《盲信、迷信、狂信、烏合の会衆》、1762年
4枚組《1日のうちの四つの時》1738年
《納屋で衣装をつける女旅役者》、1738年
4枚組《残酷の4段階》、1751年
8枚組《放蕩息子一代記》、1735年
12枚組《勤勉と怠惰》、1747年
対作品《ことの前》《ことの後》、1729年
6枚組《遊女一代記》、1732年
6枚組《当世風結婚》、1745年
4枚組《選挙》、1758年
入場無料。
約15年ぶりの訪問。土曜日の午後。
ほとんど来場者がいない静かな環境を想像していたが、その日は会期中ただ一度のワークショップ「ウィリアム・ホガースの版画を使って人文学研究の発想や手法を体験する」の開催日。
展示室の真ん中にテーブルを置いて、講師と参加者たちが熱心に意見を出し合っていて、展示室らしからぬ盛り上がりのなかで鑑賞することとなる。
それ自体は決して嫌ではないのだけれど、参加者が集うテーブルに背を向けて作品を眺めることにちょっと疎外感。そしてNHK日曜美術館の上映の音が全く聞こえない。
主要作品には解説キャプションがあるほか、いくつかのテーマでの解説プリントも用意されている。
面白いのは、作品を囲んで壁に貼られた黄色の付箋。
作品を見て感じたことや質問・疑問を記載して貼ってください、本展監修の先生から後日回答があるかも、とのこと。
ホガース作品は、メインのみならず、サブや背景にも人・物を細かく描き込み、それぞれ意味を持たせているようであり、18世紀のイギリス社会を知らない私には理解が及ばない。
付箋をいくつか読む限り、そのような細かい人・物の謎が気になる方が多いようだ。
先週始まった東大駒場博物館のホガース展、出足は思いのほか良いようです。手作り感満載の解説チラシの受けは分かりませんが、皆さん思い思いに付箋を貼ってくださってます。考えたこともない質問や視点があり、謎の多いホガースの難しさと深さを感じます。回答も考えなくては。こんな感じです。 pic.twitter.com/W4yGMFU1nO
— 大石和欣(Kaz Oishi) (@Kazlitt1) May 21, 2023
久々にマルセル・デュシャン《花嫁は彼女の独身者たちによって裸にされて、さえも》東京ヴァージョンも見る。ホガース以外の唯一の展示作品。常設展示のようだ。
ここでご覧いただくウィリアム・ホガースの銅版画は、本学経済学部で長く教鞭をとられた大河内一男・暁男両教授が、親子二代にわたって収集されたものです。私ども経済学図書館・経済学部資料室の貴重なコレクションの一つとなっております。 ホガースの銅版画は、同時期のイギリスの世相を反映したもので、江戸時代における浮世絵のように、当時の人々が争って購入したものでした。美術作品として評価されるとともに、18世紀前半のイギリスの社会や文化を知る貴重な資料となっております。というのも、ホガースの作品には、総合文化研究科の大石和欣教授を中心に作成していただいた解説でおわかりになるように、細部にわたって同時代の人々に向けられた様々なメッセージが込められているのです。見れば見るほど新たな発見があるかもしれませんので、一枚一枚味わっていただければ幸いです。
コメントありがとうございます。
私的には、まとまった数のホガースの版画を観る初めての機会となりました。
40年ほど昔になりますが、大河内先生を囲む10人足らずの小さな研究会(小生事務局)の合間に、数点の作品を見せていただき、お話をうかがったことがありました(関連記事ブログ『時空を超えて』「17世紀のアウトサイダーたち:2011年2月14日)。この会のメンバーも、存命者2人になってしまいました。
コメントありがとうございます。
また、素敵な思い出をご紹介くださり、ありがとうございます。
本展の会期もまだ半分残っているので、是非。
なお、火曜日が休館とのとこですので、ご留意ください。