だまし絵2 進化するだまし絵
2014年8月9日~10月5日
Bunkamuraザ・ミュージアム
想像以上の楽しさ。また、心に深く残る作品に出会う想定外の喜び。
プロローグ
10点の作品により、古典的だまし絵を概観する。このプロローグだけでも満足度は高い。
◇トロンプ・ルイユの王道的な作品、デン・ハーグの画家ピアーソンの≪鷹狩の道具のある壁龕≫は、ワシントン・ナショナル・ギャラリーからの出品。
◇画面の聖母の衣装の辺りに、あたかも本物の虫が止まっているかのように描く、デューラーの16世紀後半の複製作品≪アイリスの聖母≫。
◇アナモルフォーズ作品としては、円筒に映すタイプと斜めの角度から見るタイプの作品が各1点。
◇アルチンボルド作品が2点。
◇スウェーデンから来日の≪司書≫は、書籍と関係品(はたき、栞、鍵の輪など)の寄せ集めでできた肖像画。
◇大阪新美術館建設準備室所蔵の≪ソムリエ(ウェイター)≫は、樽や壺などの寄せ集め。「首は編んだ麦藁を着せたガラス瓶で、その注ぎ口が彼の右目、ふたは眉になっている」のが秀逸。
1章「トロンプルイユ」
2章「シャドウ、シルエット & ミラー・イメージ」
3章「オプ・イリュージョン」
4章「アナモルフォーズ・メタモルフォーズ」
1~4章は、現代美術のだまし絵作品が並ぶ。
心に深く残る作品3点。
◇ゲルハルト・リヒター
≪影の絵≫(No.29)
≪影6≫(No.30)
ドイツ最高峰の画家と言われるリヒター。「影」シリーズは初めて見るのかな。
「影の描写は、奥行きのある空間を示すが、その影のもととなる白い帯は、絵自体の平面性や物質性を見る者に意識させる」
その白い帯に、一目ぼれ。
◇ヴィック・ムニーズ
≪「裏面」シリーズ、星月夜≫
(No.17)
MOMA所蔵のゴッホ代表作≪星月夜≫の裏面(!)を、忠実に複製・再現した作品。
書き込み(MOMA作品番号「472.41」)、貼付されたシール(8枚)。
一番右上のシールは、黄色のクロネコマークが目を惹く「YAMATO Transport Co.Ltd」。
そう、1993年の上野の森美術館「ニューヨーク近代美術館展」にて来日時のもの。 (※続きは最後に)
その他楽しい作品。次の5点を選ぶ。
1)シール・フロイアー
≪ライト・スイッチ(日本)≫
(No.41)
スライドから壁に投影される照明スイッチ。大きさも色も立体感も本物そっくり。
ワイド型スイッチ(蛍式)ではなく、小型の片切りスイッチであることが制作年代を感じさせる。
思わずスライドを出品リストで遮り、確かに照明スイッチが姿を消すことを確認する。
2)ダニエル・ローズィン
≪木の鏡≫(No.40)
鑑賞者の動きに応じて「木の鏡」が鑑賞者の影を映す。
中央に組み込まれたカメラが鑑賞者の動きをとらえ、多数の木片が上下を向いて、鑑賞者の影をリアルタイムで作る。
カメラを手で覆い隠すと、木片全てが一斉に上を向いて、一面が光のみとなる(影のみではなく)。
3)パトリック・ヒューズ
≪広重とヒューズ≫(No.54)
揺れる画面。ある位置を超えて横に移動、または、ある位置を超えて作品に近づくと、画面の正体が現れる。
同種の作品≪生き写し≫(No.53)は、顔が浮かびあがり、鑑賞者の動きに応じて顔の向きを変える作品。
適切な位置で鑑賞することが肝要。
4)ダリ
≪海辺に出現した顔と果物鉢の幻影≫
(No.72)
マグリット3点、ダリ2点が並ぶなかでは、ワズワース・アテネウム美術館(コネチカット州、ハートフォード)のこの作品。
ダブルイメージの解読に皆さん熱心なのだろう、本展で一番混む。
画面左下のウサギとアヒルの頭は、わかるまで時間を要する。
5)エヴァン・ペニー
≪引き伸ばされた女#2≫(No.82)
高さのある作品。極限(?)まで縦に引き伸ばされた女性の顔。
どこか1点から見れば普通の顔に見える、という1点があるのだろうか。この会場では、それを確認できるほどのスペースは用意されていない。
作者の意向で展示場所が明示されない2点(No.25,26)は、苦戦するものの、自力で発見。
発見してしまえば、確かにその場の係員は不自然な動きをしている。
お勧めの展覧会だが、展示作品のボリュームや必要とされる鑑賞スペース、さらに大変な人出を考えると、Bunkamuraのキャパ不足は否めない。訪問時間帯を選びたい。(次の巡回先、兵庫県立美術館や名古屋市美術館のキャパはどうかな?)
≪「裏面」シリーズ、星月夜≫続き
一番右上のシールは、黄色のクロネコマークが目を惹く「YAMATO Transport Co.Ltd」。
そう、1993年の上野の森美術館「ニューヨーク近代美術館展」で来日時のもの。
同展は、≪星月夜≫のほか、ルソー≪眠るジプシー女≫やセザンヌ≪水浴の男≫、ホッパー≪ニューヨークの映画館≫、≪ガソリンスタンド≫、バルテュス≪居間≫など計60点が出品され、その後何度か開催されるMOMA展のなかでも最高の展覧会であった。
当該シールの記載事項
・YAMATO Transport Co.Ltd Finearts Division
・1993 ニューヨーク近代美術館展(←日本語)
・CASE NO:NY42
・CATAL NO:2
残り7点のシールが気になる。
赤いシールは、注意書き。
2点は、MOMA所蔵を示すシールらしい。
4点が、クロネコマークと同様、輸送用シールであるらしい。
1)一番古びたシールの下の、二番目に古びたシール
De David a Toulouse Lautrec - chefs-d'oeuvres Des Collections Americaines
1955年4月20日~7月6日にパリ・オランジュリー美術館で開催。
アメリカにある、ダビッドからロートレックまでのフランス美術の名品の展覧会
2)3隅が剥がれかけた白いシール
Van Gogh in Saint-Remy and Auvers
1986年11月25日~1987年3月22日にメトロポリタン美術館(←同じNY)で開催。
サン・レミ時代とオーヴェル時代の作品に焦点をあてたゴッホの展覧会
3)日付と展覧会名だけがわかる左上1隅が剥がれかけた白いシール
Masterpieces from the Museum of Modern Art, NY
1980年6月5日~9月21日に開催
4)展覧会名だけが分かる黄色いシール
Masterworks from the Museum of Modern Art, NY
≪星月夜≫は1941年にMOMAの所蔵となったが、それ以降の貸与歴は、本作制作時点(2008年)で、5回ということかな? (←HPに情報見当たらず)