リアルのゆくえ
高橋由一、岸田劉生、そして現代につなぐもの
2017年4月15日~6月11日
平塚市美術館
移入されて150年を経た写実が、どのように変化し、また変化しなかったのか、日本独自の写実とは何かを作品により検証し、明治から現代までの絵画における写実のゆくえを追います。
会場冒頭の高橋由一作と磯江毅作の「鮭」共演に魅入る。
平塚市美術館、足利市立美術館、碧南市藤井達吉現代美術館、姫路市立美術館と巡回する本展。
最初の会場となる平塚市美術館を会期最終週に滑り込み訪問。
日本の洋画が、写実絵画限定で並ぶ。
外光派風写実やそれに反発する印象派以後の美術(モダニズム)の流れにはない、写実の迫真性に取り組んだ、「異端の画家」たちである。
会場内解説は、画家の説明および画家の言葉による絵画論の紹介となり、個別作品の説明は一切見当たらない。
第1章 写実の導入〈明治黎明〉
日本の洋画は、高橋由一から始まる。全6点の出品。
目を引くのは会場冒頭の《鮭》。由一といえば《鮭》。本展出品作は、東京芸大美所蔵の重文ではなく、山形美術館寄託の作品である。2012年の東京芸大美「高橋由一展」では、3点の《鮭》が出品されたが、そのうちの1点、山形の旅館に飾られ「伊勢屋の鮭」と呼ばれた明治20年以降の制作と考えられている塩鮭。
その横には、磯江毅(1954-2007)の《鮭-高橋由一へのオマージュ-》。板に描かれた鮭。縄も描かれたものだが、板との境には少し実物を混ぜることで、トロンプ・ルイユ効果を格段に高めている。
五姓田芳柳のちょっと異様な肖像画。横山松三郎《丁髷の男と外国人》。検事・判事兼画家で、面識のあった西郷隆盛の肖像画を制作したことでも知られる床次正精の《三田製紙場全景》。堀和平のテネブリスム(暗闇主義)作品《ランプを持つ女性像》。田村宗立の青白い顔色が印象的な《加代の像》。五姓田義松の《五姓田一家之図》《老母図》など。他、川村清雄など。
第2章 写実の導入〈明治中期以降〉
原田直次郎の《神父》。観るのは、2016年の埼玉県立近代美「原田直次郎展」以来2回目だが、今回その高い技術に感心する。22歳頃の作品。
嬉しいのが、満谷国四郎《戦の話》との再会。2015年の山梨県立美「夜の画家たち-蝋燭の光とテネブリスム」展以来。まさしく、カラヴァッジョの出世作《聖マタイの召命》の世界を想起させる。
室内。戦争帰りの(?)男から、日露戦争の話を聞く老若男女5人。
・右上方から部屋に斜めに差し込む強い光。
・逆光となった語り手の男の顔。
・戦の話にのけぞる聴衆の様子。
画家はカラヴァッジョ作品を知っていたのか、気になるところである。
画家は、この絵(1906年作)を描く前にヨーロッパ(イタリアを含む)に行っているらしい。ただ、時代的にはカラヴァッジョが再評価される前で、カラヴァッジョが完全に埋もれていたわけではないにしても、見どころ満載のローマで、わざわざサン・ルイジ・ディ・フランチェージ聖堂まで行くかどうか。カラヴァッジェスキ作品に影響を受けたのかもしれない。
第3章 写実の展開〈大正-劉生と草土社、その地方への伝播〉
岸田劉生は6点の出品。東近美の《麗子肖像(麗子五歳之像)》、神奈川県立近代美の《野童図》、新潟県立近代美の《冬枯れの道路(原宿附近写生)》など。
大澤鉦一郎作のシャツ姿で帽子をかぶって椅子に腰掛けた少年像《小さい椅子》や、宮脇晴作の煉瓦造りの塀の前に立つ少女像《人形を持って立つ少女》、いずれもカメラの前で不動のポーズしている感が良い。
他、河野通勢、椿貞雄など。
第4章 昭和〈戦前・戦後〉
長谷川りん二郎は、2010年の回顧展以来の作品鑑賞かな。猫が有名のよう。回顧展鑑賞時にはピンと来なかったが、今回は2点の静物画に惹かれる。瓶や花瓶などを描いた《静物》。色んな紙袋を描いた《紙袋》。特に《紙袋》が素晴らしい。また回顧展を開催して欲しい。
他、靉光、高島野十郎、中原實、牧島如鳩、牧野邦夫など。
第5章 現代の写実
磯江毅ほか、12作家の18作品。
日本洋画史の一側面を味わえる魅力的な企画である。