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モネの庭、睡蓮の池 - 【その3】「モネ 連作の情景」(上野の森美術館)

2023年12月11日 | 展覧会(西洋美術)
モネ 連作の情景
2023年10月20日〜2024年1月28日
上野の森美術館
 
 
 本展の5章は、「「睡蓮」とジヴェルニーの庭」。
 モネが1883年(43歳)から1926年に86歳で亡くなるまで住んだジヴェルニーを描いた作品が並ぶ。
 
 東京会場では、ジヴェルニーの風景を描いた作品が6点、睡蓮の池を含むモネの庭を描いた作品が5点出品される。
 
 モネ作品といえば、もちろんいろいろな作品があるけれども、睡蓮の池を含むモネの庭を描いた作品は欠かせないだろう。
 
 そのモネの庭を描いた作品が5点というのは、「モネ100%」を誇り「連作の情景」を謳う回顧展としては、点数的にちょっと寂しい感があるし、何よりも展示場所がよろしくない。
 2階展示室の一番最後、出口となる階段に隣接する狭いエリアに押し込まれるように展示されている。鑑賞のためのスペースもたっぷり欲しいところだが、他作品と比べても狭い。
 
 そんな東京会場であるが、個々の作品については、魅力的。
 撮影可能(1点を除く)なので、画像とともに。
 
 
《芍薬》
1887年、72.0×99.0cm
ジュネーブ美術歴史博物館
 
 1883年にジヴェルニーに住み始めたモネ。
 家や土地を買い取るのは1890年のことであるが、借家のときから庭の菜園に好みの花を植え始めていた。そのなかには日本の芍薬も含まれる。
 モネは、1887年に、芍薬をテーマとする同じ構図の作品3点を制作する。
 本作品は、その3点のうちの1点。
 別の1点を国立西洋美術館が所蔵する(本展非出品)。松方コレクション。松方幸次郎がおそらくモネ本人から購入したと考えられているもの。
 
〈参考(本展には出品されていない)〉
《しゃくやくの花園》
1887年、65.3×100cm
国立西洋美術館
 
 
《睡蓮》
1897-98年頃、66.0×104.1cm
ロサンゼルス・カウンティ美術館
 
 1890年に家と土地を購入したモネは、1893年から人工の池の造成を始める。
 1897年夏から翌年にかけて、最初の「睡蓮」作品8点を制作する。
 本作品は、その8点のうちの1点。
 別の1点を鹿児島市立美術館が所蔵する(本展非出品)。
 また、別の1点は、北出内蔵司が1926年にモネ本人から購入し、その後資生堂初代社長の福原信三に、さらに1945年に神戸の個人の手に渡り、1968年時点ではその神戸の個人蔵となっていた(「国立西洋美術館報No.2」所収「日本所在のクロード・モネの作品」参照)。今も「個人蔵」との表記だが、日本からは既に流出したのだろう。
 
 
《睡蓮の池》
1918年頃、131.0×197.0cm
ハッソ・プラットナー・コレクション
 
 既にフランス美術界の巨匠となっていたモネ。
 1911年の2番目の妻アリスの死、1914年2月
の長男ジャンの死、1912年から進行する白内障などで制作意欲を失っていたが、フランス元首相で友人のクレマンソーの励ましもあり、1914年春、睡蓮の「大装飾画」の制作に取り組むことを決意する。
 同年7月、世界大戦が勃発、次男ミシェルや義理の娘の夫たちが出征。長い戦時期間にはドイツ軍がジヴェルニー近くまで侵攻する時期もあったが家に留まり、「大装飾画」の制作に励む。
 
 本作は、1917年頃から「大装飾画」とは別に描いた、縦1mまたは1.3m、横2mのより小型の(「大装飾画」対比)作品のうちの1点。
 かつてMOA美術館が所蔵していたが、現在はドイツの富豪が所有し、自身がポツダムの歴史地区に2017年に設立したバルベリーニ美術館にて展示しているようである。
 同時期制作の同タイプの作品を、直島の地中美術館が所蔵している。
 
 
《睡蓮の池の片隅》
1918年、119.5×88.5cm
ジュネーブ美術歴史博物館
 
 東京会場限りの出品。
 池の北東の一角を描いたもの。同じ構図のものを4点制作している。
 「この時期の作品にしては描写が緻密で細かい」。その分見入ってしまう。
 
 
《薔薇の中の家》
1925年、66.0×82.0cm
アムステルダム市立美術館
 
 国家に寄贈する「大装飾画」は、この時期、実質的には完成状態にあるようにしか見えない。設置場所・部屋は、紆余曲折があったものの、オランジュリーに準備完了されている。それでもモネは引き渡さず、再三寄贈の延期を申し入れていたのは、自分が生きている間は手放したくなかったからなのかもしれない。
 
 本作(撮影不可)は、悪化する視力と戦っているのか、自由気ままというべきか、抽象性が高い絵。
 
 
 
 東京会場では不遇な展示環境にあるモネの庭作品だが、次の巡回地・大阪中之島美術館では、おそらく目玉になるだろう。
 まずは展示作品数。東京会場の5点のうち1点を除き出品されるほか、大阪会場限りの5点が加わって、9点で構成される。
 また展示室のキャパシティが違う。格段に環境が良くなるだろう。
 
 大阪会場でも見たいモネ展。


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