東京でカラヴァッジョ 日記

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ラスキン&ターナー 〜「ラファエル前派の軌跡展」(三菱一号館美術館)

2019年03月20日 | 展覧会(西洋美術)
ラスキン生誕200年記念
ラファエル前派の軌跡展
2019年3月14日~6月9日
三菱一号館美術館 


   ラファエル前派関連の展覧会と言えば、直近私が行ったものだと、2014年の森アーツ「テート美術館の至宝   ラファエル前派展ー英国ヴィクトリア朝絵画の夢」、および2016年のBunkamura「リバプール国立美術館所蔵   英国の夢-ラファエル前派展」の2展。
 
   これら2展と比べてどれだけの作品を集めているのかがポイントだろうと思いつつ、本展の最初の展示室に入って驚き。
   ターナー作品が並ぶ。
   そうか、本展は「ラスキン生誕200年記念」展覧会でもあったのだ。
 
   ラスキンの名前は聞いたことがある。英ヴィクトリア朝時代の影響力絶大の美術評論家。
   カルパッチョ《二人の貴婦人》を「世界でもっとも美しい板絵」とたたえつつ、二人の女性を高級娼婦とする当時の見解を確定させたこと。
   ホイッスラーの「黒と金色のノクターン 落下する花火」を酷評し、名誉毀損で裁判を起こされ、敗訴したこと。
   2014年の森アーツの展覧会で多少認識した、ラファエル前派の画家たちの女性関係の盛りだくさんのいざこざの一つ、ラスキンも当事者である各種エピソードのこと。
   書店でよく見かける分厚く高価でペイするとは思えない多数の翻訳書。
 
   この程度の知識だが、この程度ではとどまらない人物で、産業革命を経て世界の工場となり貧富の差が拡大し続けるヴィクトリア朝時代、ジャック・ロンドン著『どん底の人びと』の時代の慈善家、社会思想家でもあるようだ。
 
   さて、美術評論家としてのラスキン、21歳の頃にターナー(1775〜1851)に目覚め、自ら作品を買い求めコレクションを形成する。
   1843年、24歳の頃、ターナーの擁護を目的として『現代画家論』の第一巻を発表(全5巻、1860年完結)、評論家として地位を確立する。
 
 
   ターナー作品は、水彩画4点に油彩画1点の出品。水彩画も素敵だが、油彩画が特に良い。
 
ターナー
《カレの砂浜―引き潮時の餌採り》
1830年、ベリ美術館
   夕暮れの光に包まれる砂浜、翌日の漁で使う餌を採っている女性たち、20人ほどいるであろうか。


   続く2室は、ラスキン筆の素描コーナー。
   山を中心とする風景素描の部屋と、建造物とその装飾彫刻を中心とする素描の部屋。外国旅行時の制作素描が多い。そのなかからのお気に入り1点。
 
ラスキン
《ストラスブール大聖堂の塔》
1842年、マンチェスター大学ホイットワース美術館
 
   大聖堂と木造家屋の対比。ラスキンは、「鉄製品のよう」な大聖堂に対して、「木造家屋の高い天井と豊かな正面部分にひどく興奮し、感銘を受けた」との回想を残しているそうである。
 
   あと、離れてもう1室、ラスキンの素描コーナーが用意されている。
   こちらはイタリア美術作品の模写素描。ポッティチェリ《春》の衣装に描かれたバラ、シモーネ・マルティーニ作品、フラ・アンジェリコ《受胎告知》、ティントレットのサン・ロッコ同信会館作品。ラスキンが捉えようとした各作品の本質。
 
 
   ここまで第1章「ターナーとラスキン」。次の一番大きな展示室から1848年結成、ラスキンが推した当時の前衛芸術、第2章「ラファエル前派」が始まる。
   驚いたことに、この一番大きな展示室に限って写真撮影可。ブラウン、ミレイ、ロセッティ、ハント。ラファエル前派の主要画家4人の出品作に限り撮影可能なのである。英断か。
   で、少し画像を掲載する。油彩小品3点と、本展メイン作品の展示風景2景。
 
 
【油彩小品3点】
 
フォード・マドクス・ブラウン
《待ちわびてー1854-55年イギリスの冬の炉端》
1851-52年/1854-55年
リヴァプール国立美術館、ウォーカー・アート・ギャラリー
 
 
ジョン・エヴァレット・ミレイ
《新約聖書よりイエスのたとえ話》
(1「パン種」2「パリサイ人と取税人」3「秘された宝」)
1863年頃
アバディーン美術館
 
 
 
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ
《ボルジア家の人々》
1851-59年
タリー・ハウス美術館
 
 
【本展メイン系作品の展示風景2景】
 
ウィリアム・ホルマン・ハント《「甘美たる無為」》1866年、個人蔵  の展示風景
 
 
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの大型作品3点の展示風景
 
 
  第2章「ラファエル前派」は廊下を渡った次の展示室にも続く。ヒューズ、ブレットなど。
 
  以降も、ラスキンが推した当時の前衛芸術家たちの紹介。第3章「ラファエル前派周縁」、第4章「バーン=ジョーンズ」、第5章「ウィリアム・モリスと装飾芸術」と展開。記載省略しようと思うも、やはり第4章には触れざるを得ない。1点だけ挙げる。
 
バーン=ジョーンズ
《赦しの樹》
1881-82年
リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー
   ギリシャ神話主題の作品。地元に戻った婚約者の帰還を待ち焦がれ、そのうち悲しみにくれてしまった女が自死する。神は彼女を惜しみアーモンドの木に変身させる。戻ってきた男、嘆き悔いて木に抱きつくと、女が姿を現わす、「樹」のなかから。
 
 
   予想外のターナーとラスキンに関心の大半がいってしまった展覧会となる。
 


2 コメント

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ラスキンの秘書 (山科)
2019-03-21 09:10:49
ラスキンの秘書を数年やっていた
Charles Augustus Howellという人がいて、シャーロック・ホームズもの「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン」のモデルだそうです。
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山科様 ()
2019-03-21 21:40:38
コメントありがとうございます。
Charles Augustus Howell(チャールズ・オーガスタス・ハウエル)の名は初めて聞くのでググりました。
美術商で恐喝者、ロセッティほかラファエル前派の芸術家たちと関係、愛人である女性画家の肖像画をホイッスラーに依頼、最期の姿、などを知りました。
また、青空文庫で『チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(犯人は二人)』も読みました。
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