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重要文化財指定の「日本画」13件を見る -「重要文化財の秘密」展(東京国立近代美術館)

2023年05月08日 | 展覧会(日本美術)
東京国立近代美術館70周年記念展
重要文化財の秘密
2023年3月17日〜5月14日
東京国立近代美術館
 
 
 明治以降の絵画・彫刻・工芸の重要文化財のみで構成される展覧会。
 現時点で、重要文化財に指定されている(国宝はまだない)全68件のうち51点が出品される。
 
 遅くなったが、5/2〜5/8週の夜間開館時間帯に初訪問。
 最終週(5/9〜14週)の菱田春草《黒き猫》の登場(代わりに狩野芳崖《悲母観音》が退場)まで待てなかったもの。
 
日本画:指定32件、出品25件(訪問時13件)
洋画 :指定21件、出品15件(訪問時14件)
彫刻 :指定  6件、出品  4件(訪問時 4件)
工芸 :指定  9件、出品  7件(訪問時 7件)
 
 洋画、彫刻、工芸は、ほぼ通期展示だが、日本画は展示替えが多い。
 菱田春草(3点出品)や福田平八郎《漣》を見れなかったのは残念。
 
 
「問題作」が「傑作」になるまで。
 明治以降の作品が最初に重要文化財に指定されたのは1955年。以降、いつ、何が指定されたかをたどっていくと、評価のポイントが少しずつ変わってきているように見えます。それはすなわち、近代日本美術史の研究の深まりの反映でもあるでしょう。
 
 
 最初に「日本画」。
 
狩野芳崖《悲母観音》1888年、東京藝術大学
 私の訪問時のトップバッター。明治以降の美術品の重要文化財指定第1号(1955年)となった4件のうちの1件。所蔵美術館で何度か見たことがある。
 
横山大観《生々流転》1923年、東京国立近代美術館
 全長40.7メートル。東京国立近代美術館1階の細長い展示室は、この作品を一挙公開できるように作られたものだという。確かにぴったりすぎるサイズの展示室であることに感心しつつ、ガラスケースも本作品専用なのだろうと想像しつつ、足早に通り過ぎる。作品自体には興味薄も、初公開となった1923年9月の展覧会初日に起こった関東大震災からの救出劇には興味大。
 
今村紫紅《熱国之巻(夕)》1914年、東京国立博物館
今村紫紅《近江八景》1912年、東京国立博物館
 前者は絵巻2巻のうちの1巻で、約9.5メートルの長さ。後者は全8幅のフル展示。この画家の作品を意識したことはなく、私的に未知の画家。
 
富岡鉄斎《阿倍仲麻呂明州望月図・円通大師呉門隠栖図》1914年、公益財団法人辰馬考古資料館
 辰馬考古資料館の名を初めて知る。兵庫県西宮市に所在し、銅鐸や縄文土器、土偶など考古資料約500件、鉄斎作品約150点を収蔵するという。
 
竹内栖鳳《絵になる最初》1913年、京都市美術館
 初見。着物など、色彩の美しさに感心するが、イメージしていた印象とは異なる。
「本作出品当時、日本画家たちの裸体画への関心は低かった。裸体そのものは描かれなかったが、裸体モデルとその内面を描いた本作は、その主題の新しさにおいて、近代日本画の中でも画期をなす。」
 
村上華岳《日高河清姫図》1919年、東京国立近代美術館
 何度か見たことのある作品だが、今回、その品格に驚く。本展非出品のもう一つの重要文化財《裸婦図》1920年、山種美術館とあわせ、マイ・ベスト・重要文化財指定の日本画かも。
「大正期には人間的な感情を肯定するような、浪漫的・耽美的な気分が濃厚な作品が盛行したが、そのような時代風潮を反映しながら、本図の達成した芸術性・画格の高さは際だって優れており、華岳前期の代表作であると同時に、近代日本画中の名作として高く評価される。」
 
土田麦僊《湯女》1918年、東京国立近代美術館
 ルノワールやゴッホ、ゴーギャンの影響を受けた画家らしい。私的には、オーヴェール=シュル=オワーズのガシェの家を訪ね、ゴッホ作品を見た日本画家の一人として記憶している。
 
松岡映丘《室君》1916年、永青文庫(熊本県立美術館寄託)
 初見。
 
前田青邨《洞窟の頼朝》1929年、大倉集古館
 初見。
 
小林古径《髪》1931年、永青文庫(熊本県立美術館寄託)
 かなりの久々となる再見。線描の魅力。
「たしかに、上半身裸体で髪を梳かせている女性は彫像のようであり、交差させる両手の形などエジプト彫刻の風があり、やや不自然でさえあるが、かえってそのために厳粛な気分が生じてもいる。裸婦という官能的な画題でありながら、品格に富み謹厳な趣さえたたえており、完成度もきわめて高い。」
 
上村松園《母子》1934年、東京国立近代美術館
 「孫を抱く、嫁の姿に、母をしのぶ」。
 重要文化財指定作品を持つ唯一の女性画家らしい。本展非出品のもう1点《序の舞》1936年、東京藝術大学もあわせて見たかったところ。
 
 
安田靱彦《黄瀬川陣》1940/41年、東京国立近代美術館
 時代の空気を感じさせる。
 
 
 
 以下、重要文化財指定の「日本画」32件を確認する。
 ★印は本展非出品、☆印は私の訪問時は展示期間外を示す。
 私のような日本画鑑賞素人には、これら重要文化財指定作品を起点として、範囲を拡大しつつ見ていくのがよいかもしれない。
 
☆狩野芳崖(1828-88)
《不動明王図》
1887年、東京藝術大学
1955年重要文化財指定
 
狩野芳崖(1828-88)
《悲母観音》
1888年、東京藝術大学
1955年重要文化財指定
 
☆橋本雅邦(1835-1908)
《白雲紅樹》
1890年、東京藝術大学
1955年重要文化財指定
 
★橋本雅邦(1835-1908)
《竜虎図》
1895年、静嘉堂文庫美術館
1955年重要文化財指定
 
☆菱田春草(1874-1911)
《王昭君》
1902年、善寶寺(東京国立近代美術館寄託)
1982年重要文化財指定
 
☆菱田春草(1874-1911)
《賢首菩薩》
1907年、東京国立近代美術館
1979年重要文化財指定
 
★菱田春草(1874-1911)
《落葉図》
1909年、永青文庫(熊本県立美術館寄託)
1956年重要文化財指定
 
☆菱田春草(1874-1911)
《黒き猫》
1910年、永青文庫(熊本県立美術館寄託)
1956年重要文化財指定
 
☆横山大観(1968-1958)
《瀟湘八景》
1912年、東京国立博物館
1972年重要文化財指定
 
横山大観(1968-1958)
《生々流転》
1923年、東京国立近代美術館
1967年重要文化財指定
 
今村紫紅(1880-1916)
《近江八景》
1912年、東京国立博物館
1968年重要文化財指定
 
今村紫紅(1880-1916)
《熱国之巻》
1914年、東京国立博物館
1968年重要文化財指定
 
竹内栖鳳(1864-1942)
《絵になる最初》
1913年、京都市美術館
2016年重要文化財指定
 
★竹内栖鳳(1864-1942)
《班猫》
1924年、山種美術館
1970年重要文化財指定
 
富岡鉄斎(1837-1924)
《阿倍仲麻呂明州望月図・円通大師呉門隠栖図》
1914年、公益財団法人辰馬考古資料館
1969年重要文化財指定
 
☆下村観山(1873-1930)
《弱法師》
1915年、東京国立博物館
1967年重要文化財指定
 
☆川合玉堂(1873-1957)
《行く春》
1916年、東京国立近代美術館
1971年重要文化財指定
 
松岡映丘(1881-1938)
《室君》
1916年、永青文庫(熊本県立美術館寄託)
2020年重要文化財指定
 
☆平福百穂(1877-1933)
《豫譲》
1917年、永青文庫(熊本県立美術館寄託)
2020年重要文化財指定
 
土田麦僊(1887-1936)
《湯女》
1918年、東京国立近代美術館
1999年重要文化財指定
 
村上華岳(1888-1939)
《日高河清姫図》
1919年、東京国立近代美術館
1999年重要文化財指定
 
★村上華岳(1888-1939)
《裸婦図》
1920年、山種美術館
2014年重要文化財指定
 
★速水御舟(1894-1935)
《炎舞図》
1925年、山種美術館
1977年重要文化財指定
 
★速水御舟(1894-1935)
《明樹散椿図》
1929年、山種美術館
1977年重要文化財指定
 
☆鏑木清方(1878-1972)
三部作《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》
1927、1930、1930年、東京国立近代美術館
2022年重要文化財指定
 
☆鏑木清方(1878-1972)
《三遊亭円朝像》
1930年、東京国立近代美術館
2003年重要文化財指定
 
前田青邨(1885-1977)
《洞窟の頼朝》
1929年、大倉集古館
2010年重要文化財指定
 
小林古径(1883-1957)
《髪》
1931年、永青文庫(熊本県立美術館寄託)
2002年重要文化財指定
 
☆福田平八郎(1892-1974)
《漣》
1932年、大阪中之島美術館
2016年重要文化財指定
 
上村松園(1875-1949)
《母子》
1934年、東京国立近代美術館
2011年重要文化財指定
 
☆上村松園(1875-1949)
《序の舞》
1936年、東京藝術大学
2000年重要文化財指定
 
安田靱彦(1884-1978)
《黄瀬川陣》
1940/41年、東京国立近代美術館
2011年重要文化財指定
 
 
32件のうち24件が東京に所在。
 所蔵者は10者に限られる。
・東京藝術大学  :4件
・東京国立博物館 :4件
・東京国立近代美術館:10件(寄託含む)
・山種美術館   :4件
・静嘉堂文庫美術館:1件
・大倉集古館   :1件
・永青文庫(熊本県立美術館寄託):5件
・京都市美術館  :1件
・大阪中之島美術館:1件
・公益財団法人辰馬考古資料館:1件
 


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