日本美術の記録と評価
調査ノートにみる美術史研究のあゆみ
2020年7月14日〜8月23日
東京国立博物館本館14室
なんと!
本特集は、WEB展覧会も開催!
実会場では、物理的都合で見開き2頁のみの公開となる調査ノート。
WEB会場だと、前後の関連頁全てが公開される。さらに、ノートの書き起こし内容も表示される。
写真を気軽に利用できなかった時代。明治から昭和の日本美術史研究家たちは、実際の作品をじっくり見て、調査ノートに時代や作者、材質や技法といった基本的な情報を記録し、図様を写し、作品の特徴を文字と絵を交えて書き留めた。
本特集は、そんな日本美術史研究家4人の調査ノート、「アナログの記録の確かさと豊かさ」、を一部実作品とともに紹介している。
今泉雄作(1850〜1931)による明治20〜21年の調査ノート
平子鐸嶺(1877〜1911)による明治30〜40年の調査ノート
田中一松(1895〜1983)による大正14〜昭和18年の調査ノート
土居次義(1906〜1991)による昭和8〜23年+47年の調査ノート
初めて名を聞く人ばかり。
ここでは、土居次義関連の出展品の一部の画像を、展示室の解説文とともに掲載する。
《農夫図屏風》
渡辺始興筆、江戸時代・18世紀
東京国立博物館
「渡辺始興筆 農夫図屏風 調査ノート」(昭和47年)
同じく始興が描いた農夫図と伝えられる京都・大覚寺の杉戸絵やボストン美術館所蔵の屏風と比較できるよう、人物の姿態や衣装、持物の特徴をスケッチと文字で記録しています。
(WEB会場は他頁の画像2枚あり)
「狩野山楽筆 繋馬図絵馬 調査ノート」
(昭和16年)
寛永2年(1625)海津天神社(滋賀県高島市)に奉納された絵馬2面のうち1面の調書。「狩野山楽筆」という落款の記録の横に、「狩野山楽ノ署名アリしか形跡アリ」とメモされています。制作途上に署名の文字サイズが変更された可能性を検討したようです。
(WEB会場は他頁の画像5枚あり)
細部への注目
署名のない障壁画の筆者を検討するとき、土居は細部に注目しました。これは、イタリアのG・モレリ(1816〜91)が提唱した鑑定法に基づいています。モレリは、画家が強く意識しない細部に癖が表れるとし、人物の耳や指に注目しました。土居の記録には、虎の足や岩の輪郭線など、部分だけを抜き出したスケッチが多く見られます。
「虎の足の描写比較 研究ノート」
(昭和9年頃)
虎の足先ばかりが描き留められた頁。名古屋城の虎、天球院の虎に続き、次頁には南禅院の虎の足など、展示中の頁のほか7頁に虎の足に注目した記録が見られます。並べて見れば指の肉付き、爪の生える位置、爪の形など、画家それぞれに癖があります。
(WEB会場は他頁の画像6枚あり)
「竹虎図 調査ノート」
(昭和23年)
土居が虎の足に比較したのは、署名のない障壁画の筆者を鑑定するひとつの手がかりとして、画家の筆跡、個性が出やすい細部に注目したためです。この頁では指の肉付きを強調して描き留め、「山雪ヨクフクレル」と狩野山楽の方式に近いことを記しています。
(WEB会場は他頁の画像1枚あり)
西洋美術史研究の理論・技術を日本美術史研究に導入・適用していたのだなあ。
写真が気軽に使えない時代、美術史家には、こういうスケッチ力が不可欠であったのだ。
この領域は全く分からないけれども、感心しつつ、見る。