1696年5月16日、アムステルダム。
美術品の競売が行われる。
出品数は133点。そのうちフェルメール作品がなんと21点。
この21点は、ディシウス・コレクションに由来するものと考えられている。
コレクションの主、ヤーコプ・ディシウスは、デルフトの出版業者で、競売の前年1695年に亡くなっているが、生前は20点ものフェルメール作品を所有していたとの記録が残っている。
生涯の制作点数が55〜60点ほどと考えられているフェルメールの作品をなぜそんなに多く所有していたのか。
ヤーコプの妻が両親から相続したもので、妻の父親ファン・ライフェンは、フェルメールに作品の前払い的な趣旨で資金を貸し、できあがるそばから購入する、いわばフェルメールのパトロンであったから、と考えられている。
1696年の競売の目録が残っており、落札価格も知られている。
フェルメール作品21点のうち15点が現存作品と見られている。
以下、落札価格順に記載する。
1)200ギルダー
《デルフトの眺望》
マウリッツハウス美術館
2)175ギルダー
《牛乳を注ぐ女》
アムステルダム国立美術館
3)155ギルダー
《天秤を持つ女》
ワシントン・ナショナルギャラリー
4)95ギルダー
現存せず
「彫像のある向こうの部屋で手を洗う男、芸術的で珍しい作品」
5)81ギルダー
現存せず
「室内で音楽を演奏する男と若い女性」
6)80ギルダー
《音楽の稽古》
バッキンガム宮殿王室コレクション
7)73ギルダー
《二人の紳士と女》
アントン・ウルリッヒ公美術館
8)72.10ギルダー
《小路》
(または現存せず)
アムステルダム国立美術館
「デルフトの一軒の家の眺め」
9)70ギルダー
《ギターを弾く女》
ケンウッドハウス
9)70ギルダー
《女と召使》
フリック・コレクション
11)63ギルダー
《手紙を書く女》
ワシントン・ナショナルギャラリー
12)62ギルダー
《眠る女》
メトロポリタン美術館
13)48ギルダー
現存せず
(または《小路》)
「デルフトの数軒の家の眺め」
14)45ギルダー
現存せず
「さまざまな品物に囲まれた室内のフェルメールの肖像、同人作の比類なく美しい作品」
15)44.10ギルダー
《兵士と笑う女》
フリック・コレクション
16)42.10ギルダー
《ヴァージナルの前に座る女》
(または《ヴァージナルの前に立つ女》)
いずれもロンドン・ナショナルギャラリー
17)36ギルダー
《真珠の耳飾りの少女》
(または現存せず)
マウリッツハウス美術館
「古代風の衣装を着けたトローニー、類例のない芸術的できばえ」
18)30ギルダー
《真珠の首飾りの女》
ベルリン国立美術館
19)28ギルダー
《レースを編む女》
ルーヴル美術館
20)21)17ギルダー
現存せず
(または《真珠の耳飾りの少女》、または《赤い帽子の娘》)
「さらにもう1点のトローニー」
落札価格についての評価は難しいようだが、少なくとも《デルフトの眺望》と《牛乳を注ぐ女》の価格は、同競売での最高値の2つであり、21作品の平均落札価格も他画家112作品の平均と比べて倍近く高いとのことである。
2018年のフェルメール展では、次の3点が1696年の競売の出品作である。
落札価格の違いがどこから来たのか比較しながら考えるのも一興か。
第2位 170ギルダー
《牛乳を注ぐ女》
45.5×41cm
第11位 63ギルダー
《手紙を書く女》
45×39.9cm
第18位 30ギルダー
《真珠の首飾りの女》
56.1×47.4cm
参照文献:小林頼子『フェルメール論』