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堅山南風《大震災実写図巻》を見る(半蔵門ミュージアム)

2023年08月21日 | 展覧会(日本美術)
特集展示 堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春
2023年7月19日~11月5日
半蔵門ミュージアム
 
 
   堅山南風(1887〜1980)。
   熊本県出身の日本画家。横山大観に師事。文化勲章受章。
 
 
   1923年9月1日。
 上野公園内の竹の台陳列館、第10回再興院展が開幕。大観の全長40メートル強の絵巻《生々流転》の初の一般公開が話題をさらおうとしている。
 南風は、同展に1時間ほど出席したのち、巣鴨の自宅に戻る。
 11:58、地震発生。
 
 翌日、師の安否を心配し、自宅から上野の大観宅まで歩いて向かい、無事を確認する。
「先生の家は普請中だった。先生は尻端折で一升ビンをぶらさげて見舞客にコップ酒を振舞っていた。」
 巣鴨から上野まで往復するなか、惨状をいたるところで目にしたであろう。
「上野公園は避難者でいっぱいだった。みんな青い顔をしていた。夕暗せまる火災は物すごかった。」
 
   2年後の1925年、「大震災実写図巻」を制作する。注文によるもの。
 大震災の発生直後から復興に手が届き始めるまでの状況を3巻・31図に描いた作品である。
 
 
 
 私的には、2019年の同館展示以来、4年ぶり2度目の鑑賞となる。
 
 前回2019年の展示は、1981年の熊本県立美術館での展示以来38年ぶりのことであったが、会期を3期に分けて、1期は上巻、2期は中巻、3期は下巻をそれぞれ全場面を公開した。
 
 今回2023年の展示は、上巻・中巻・下巻のそれぞれ一部の場面を公開する。
 出品リストを見る限り、会期中の場面替えはない模様。
 
上巻:序文と9図のうち、6図
中巻:13図のうち、4図
下巻:9図のうち、4図
 
 全場面の図版パネルも用意されている。
 
 凄惨な場面の数々。
 南風が実際に目にした光景もあっただろう。
 
   震災から2年が経過して尚、震災の惨状を描こうとすると、筆が渋って手を動かすことができない中にも「観世音菩薩」に護られ、漸く描き終えた。
 
 以下、各場面の概要。
 ★印が今回展示の場面を示す。
 
【上巻】
 南風による序文と、地震発生直後の惨状が描かれた9図からなる。
 
「序」
   南風による本絵巻の序文。
 
「前兆」
 黒墨で描かれている何か。
 何が描かれているのか分からない。
 
「大地震」★
   街中。倒壊しつつある家屋。倒れた電柱。そこから逃げだそうとする人々、下敷きになったらしい人々。落ちつつある「奥川医院」の看板。
 
「大地欠烈」★
   郊外。踏ん張ってなんとか立ち姿を保つ魚の行商。木にしがみつく女性。地面の亀裂に落ちる男性。
 
「列車顛覆」★
    蒸気機関車と続く客車が脱線、横倒し。客車から投げ出される人も。
 
「凌雲閣飛散」★
   浅草・凌雲閣。上階部分がポキっと折れて、落下する。地上に振り落とされる男性三人。
 
「呪ノ火」★
   倒壊した家屋の下の一人の女性を救い出そうとする人々。降りかかる火の粉、消火する男性。
 
「大紅蓮」★
   東京の街。赤(火)、黒(煙)、茶(白煙)で塗り込められる。
 
「運命谷(キワ)マル」
   橋の上。橋の両側から黒煙が迫り、身動きができなくなった人々。川に飛び降りる人。
 
「却火急迫」
   火から逃げる人々。馬車・自動車・荷車などで運ぼうとした家財道具は、火の粉が降りかかり燃え出し見捨てられる。暴れる馬。
   
 
【中巻】
 避難、被災直後の悲哀な光景が描かれた13図からなる。   
 
「竜巻」
   黒と茶の竜巻。舞い上がる荷車や戸板など、そして人間も。
 
「火水ノ難」   
   川の上、避難民で一杯の舟。その周りには、舟にしがみつこうとする人、木や板につかまって浮かんでいる人、流される人、沈む人。彼らに容赦なく火の粉が降り注ぐ。
 
「霊顕」
   煙に囲まれつつも、火難を避ける浅草観音堂。遠くには折れた凌雲閣がうっすらと。
 
「避難ノ群衆」
   遠くに火、家財道具を抱えて逃げる群衆。
 
「赤イ太陽」
   高台から燃ゆる街を眺める人たち。黒煙に包まれた真っ赤な太陽。
 
「不安ノ一夜」★
 夜。下段には、野宿する避難民たち。上段には、未だ燃ゆる街。
 
「失望ト疲労」   ★ 
   夜が明けて。野宿の避難民たちは、動けずただじっとしている。
 
「市中ノ混雑」★
   右から左に進むは、尋ね人の札を掲げて歩く人々、負傷者を運ぶ人々。左から右に進むは、白い幟を掲げる在郷軍人や青年団、食料を大八車で運ぶ巴商会慰問。真ん中の電柱横で呆然と座り込んでいるのは、母親と男の子と幼児。
 
「貼札ヲ差タ銅像」★
   尋ね人の掲示板となった西郷隆盛像。
 
「応急手当」
   黒い幕の中、手当てをする医師、手当てを受ける人々。
 
「餓タル罹災者」
   公園の池。協力して魚を捕る人々、捕った魚をめぐってのいがみ合いも。虚しく立つ注意看板「園内の鳥魚捕るべからず 公園課」。
 
「涙ノ同情一」
   おにぎりを配る人々、それを受け取り食べる人々。
 
「涙ノ同情二」
   支援物資を集める青年団の人々、運ぶ青年団の人々。一人の男が担ぐパンを入れた箱には「木村屋」の文字。
 
 
【下巻】
 被災後の混乱情勢や復興に手が届き始めた光景などが描かれた9図からなる。 
 
 
「自警団」
   日本刀、竹槍、鳶口あるいは警棒を持った自警団の男たち。
   両手をあげた一人の男を、指差して問い詰める自警団の6人。
   自警団の男たち8人は必死に追う、逃げる男2人を。
   追いつかれたのだろうか、もう1人の男は、自警団の男たちに囲まれている。
   背景の立札には、『各自警戒セヨ不逞ノ徒横行、掠奪放火被害頻頻タリ各自警戒セヨ』『糧食欠乏ノ不安ナシ関西方面ヨリ玄米●十万俵長崎丸ニ●載横浜ニ向イ出帆其ノ他各地ヨリノ廻●続々タリ』。
 
「却火ノ跡」
   焼け野原になった街。
   棒で焼け跡を掘る男。
   犠牲者を悼み手を合わせる男女。
   画面中央に、「阿部良二柩」「阿部よし柩」を背負い歩く2人。 
 
「災後雑観」
   モノを売る露店。すいとん、日本米ライスカレー、牛めしなど食事を提供する屋台には結構な客。自転車応急修理。そして、大震災絵葉書売りも。
   満員の馬車が走る。「上野行」とあるので、乗合馬車だろう。
   「焼金庫開扉受●」の幟をあげて道をゆく2人の男。
 
「剽盗横行」
   暗闇。刃物を持った男。襲われる男。
 
「無情ノ雨」
   空地に筵で屋根を作った仮小屋に野宿する罹災民たちに、無情の雨。
 
「復興ノ曙光」★
   始まる家屋の建て直し。
 
「寂しき月」★
   画面の3分の2を占める青に三日月。
   白い屋根には猫が歩く。
   屋根の下、窓に明かりが灯る部屋も。
 
「諸行無情」「大悲乃力」 ★
   しめくくりは「観世音菩薩の姿」★。
  
 
 今回の公開は、揺れによる阿鼻叫喚、一夜明けた後の疲労、末尾の復興と菩薩による救いの場面が選ばれたようだ。
 
 今回選ばれなかったのは、火災による阿鼻叫喚や、被災後の人々の助け合い、悲哀、あるいは醜い場面などとなる。


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