ウィーン美術史美術館所蔵
風景画の誕生
2015年9月9日~12月7日
Bunkamuraザ・ミュージアム
1)パティニール初来日
「遥かなる青」
「初めて風景画家と呼ばれた男」
アントワープで活躍したヨアヒム・パティニール(Joachim Patinir)(1480頃-1524)。
ラファエロ(1483-1520)と生没年がほぼ一致する。
ヘラルト・ダヴィト(1460頃-1523)、デューラー(1471-1528)、クエンティン・マサイス(1465/66-1530)などの北方ルネサンスの巨匠と親交があった。
パティニールの作品数は少ない。工房作を含めても20点程とされる。フェルメールより少ない。
そのなかの1点、1515年以前、アントワープの聖ルカ芸術家ギルドの一員として登録される以前に制作した初期作品らしいが、間違いなくパティニールの手によるとされる作品が来日。
ヨアヒム・パティニール《聖カタリナの車輪の奇跡》1515年以前 油彩・板
パティニール作品の来日は、みすず書房のHPによると、初めてのことらしい。大事件である。
初パティニール、
「全体を上から見下ろす視点で描きながら、個々のモティーフを水平の視点で描くことにより印象づける手法」
「前景を褐色で、中景を緑色で、後景を青色で描いた、色彩遠近法」
を凝視する。
その素晴らしさを感じ取れるほどの鑑賞力はないけれども、とにかく青色。青色が強烈なインパクト。しかもその青色は感じがよい。好ましい。貴重な作品を観せていただいた。展覧会関係者に感謝。
ところで、本展にアルブレヒト・アルトドルファー(Albrecht Altdorfer, 1480頃‐1538)の作品もあれば、 対決!「西洋絵画史において、歴史画や物語の背景としての風景ではない、純粋な「風景画」を描いた最初期の画家」勝負!と、さらに凄いことになっていた。過去のウィーン美術史美術館展で来日したことがあるようだが、本展のテーマに沿う作品は持ってない?それとも門外不出?
2)ボスの追随者作品
ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch、1450頃 - 1516年)は特異な画家である。代表作《快楽の園》(プラド美術館)は図版でも忘れがたい強烈な印象を与える。実物はさぞ凄いことだろう。
本展では、ボスの追随者による、《快楽の園》などのボス作品のモティーフを借用した小品2点、《楽園図》と《聖アントニウスの誘惑》が出品されている。前者は本展のポスターにも使われている。いずれもボスの死後、30~50年後の制作。長く人気があったことが伺える。
2点を相応に楽しむ。相応に楽しみはするが、やはり気持ちは既に、10/10からの三菱一号館美術館のプラド美術館展、ボス作品の初来日、真筆とされる《愚者の石の除去》に向かっている。
3)バッサーノの月暦画
バッサーノ作品は、これまでもいろんな展覧会で結構見る機会がある。独特の色とタッチが記憶に残る。本展では、記憶に残る独特の色とタッチそのままの、9点10枚もの月歴画連作が三方を囲む。日本にいながらにして決してメジャーとはいえない画家の大型連作に取り囲まれる機会、素敵なこと。
バッサーノは、北イタリア・ヴェネチア州のグラッパ山麓の麓の町、バッサーノ・デル・グラッパの出身。
というところで、バッサーノは画家一族で、美術史で取り上げられるのは父ヤコボであり、本連作の作者レアンドロは、ヤコボの画家となった三人の息子のうちの一人であることを初めて知る。
これまで見てきたバッサーノは一体どのバッサーノだったのだろう。
このパターンは、以前ティントレットでも経験した。ベリーニやブリューゲルのように一族に二人以上の美術史上の巨匠がいる場合は注意して見るけど……他にも同じような思い込みがあるかもしれないなあ。
なお、レアンドロは、三人の息子のなかでは一番腕がたち、ヴェネチアから肖像画家に任命されるほどだったらしい。国立西洋美術館もレアンドロを所蔵している。日本によく来るバッサーノはほぼレアンドロだったような気がしてきた。
さて、月暦画連作なのに9点(10枚)の展示。9月・10月・12月がない。ウィーン美術史美術館が所蔵していないため。12月は所在不明、9月・10月はプラハにあるという。
また、7月は飾るときの問題で2枚に分断されている。
なお、連作の一部作品については、これまで来日したことがあるようだ。
1月:狩りからの帰還。雪。雪化粧した山脈。
2月:謝肉祭の光景。家禽。
3月:四旬祭の町の市場の光景。魚、甲殻類。季節の野菜は、新玉ねぎ、かぶ、ねぎ、ほうれん草。
4月:子羊の、羊の刈毛。牛の乳搾り。突然の大雨。
5月:バター・チーズ作り。薔薇の花の切り取り。牛の放牧。
6月:さくらんぼと穀類の収穫。
7月:絹の生産。脱穀。
8月:ぶどうの収穫準備。ワイン樽作り。
11月:11/11、労働契約が終わり、家財道具を車に積み上げて村に帰る農夫たち。たくさんの収穫物が集められた台所の光景。織物用の繊維を取り出すために亜麻を叩く。