東京でカラヴァッジョ 日記

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印象派のふるさと ノルマンディー展(損保ジャパン日本興亜美術館)

2014年09月13日 | 展覧会(西洋美術)

印象派のふるさと ノルマンディー展-近代風景画のはじまり-
2014年9月6日~11月9日
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館


 ノルマンディー地方が近代風景画の成立と発展に果たした役割を探る展覧会。
 ノルマンディ地方のセーヌ河沿いの町、入口にあたるルーアンから、河口の町オンフルール、そしてル・アーブルまでがメインの舞台。

 本展は、題名に印象派とあるが、印象派抜きの展覧会である。
 正確には、少年時代をル・アーブルで過ごしたモネが2点出品されているが、やはり印象派抜きの展覧会。

 モネの≪印象、日の出≫。印象派の名前の由来となった第1回印象派展出品作は、ル・アーブルの港の風景。
 また、モネの≪ルーアン大聖堂≫連作。季節と時刻と天候の変化を大聖堂の正面というほぼ同一の構図を用いて描き分けた代表作は、その題名のとおり舞台はルーアン。
 ノルマンディーの印象派の発展への貢献度は大きそうなのに。まあ、島田紀夫著『セーヌで生まれた印象派の名画』(小学館101ビジュアル新書)は、セーヌ川上流から河口まで追う190頁ほどの本だが、ノルマンディーにあてられた頁は7頁弱だからなあ。

 とはいえ、想像以上に楽しめる。その主役は、ブーダンである。


第1章:ノルマンディーのイメージの創造:イギリスの画家たち、ロマン主義の画家たちが果たした役割

 ナポレオン戦争が終わり、1826年には定期連絡船が運行し、英国から画家たちが「ピクチャレスク」な風景を求め、ノルマンディーを訪ねる。ロマン主義のフランスの画家もそれに倣う。ゴシック様式の教会や、廃墟となった修道院、城などを描く。


第2章:近代風景画の創造:ロマン主義から写実主義へ

 1847年にル・アーブルまで、1860年にオンフルールまで鉄道が開通する。
 パリから画家たちが自然を求めてやってくる。
 ノルマンディーの自然を描く。

第3章:海辺のレジャー

 セーヌ川の河口は、上流階級の保養地として発展する。
 画家たちは、上流階級のバカンスの光景も描く。

第4章:近代化に対する印象

 産業革命が進み、ルーアンやル・アーブルは、港町として発展する。
 画家たちは、大型帆船や蒸気汽船、工場やその煙突からのぼる煙、整備された岸壁など、発展する町の風景も描く。


 第2~4章で大活躍するのがブーダン(1824-1898)。
 印象派の展覧会では、前座のような形で展示されることも多いが、本展では主役を担う。
 ブーダンは、なんといっても、オンフルールに生まれ、ル・アーブルで画家修業をし、生涯セーヌ川と河口の町々を描いた、生粋のセーヌ川河口人。パリから来る画家たちの交流の中心も担う。
 第2章の6点で自然を、第3章の2点でレジャーを、第4章の3点で発展する町を描く。
 堂々の計11点は、町の変遷史でもある。
 本展は、小ブーダン展といってもよい。

 モネが2作品。第3章の≪海岸のカミーユ≫、30cm×15cmの小作品で、エスキース(試し書き)のような作品であるが、最近日本の着物を着ていたり、死の床にあったりするカミーユを見ているので、白い服でパラソルを持って海辺に立つカミーユも感慨深い。
 なお、モネは加えて1点、風景画が10月初旬から展示されるとのこと。

 第2章にクールベ3点、海を描く。
 第3章のエルネスト=アンジュ・デュエズ≪海岸での日光浴のひと時≫は、観光ポスターそのものなのが面白い。


第5章:ノルマンディーにおける写真

 1870年代~20世紀初頭のノルマンディーを撮った写真。ビデオも用意され、展示作品に加え、展示されていない作品も紹介。

第6章:自立する色彩:ポスト印象主義からフォーヴィスムへ

 印象派を飛ばして20世紀に突入、色彩が派手になり、聞いたことのない画家が続く、と思った頃、ヴァロットンの登場に驚き。
 ヴァロットンがオンフルールを描いた風景画2点。
 オンフルールを定期的に訪問し、その地を描いていたらしい。
 丘の上から、近景に大きく木々、遠くにオンフルールの教会と町、その先に海が見える2点。やはりちょっと落ち着かない風景。ヴァロットンファンは訪問必須かも。

第7章:ラウル・デュフィ:セーヌ河口に愛着を持ち続けた画家

 本展の第2の主役、デュフィ(1877-1953)。ル・アーブル生まれのル・アーブル育ち、生粋のル・アーブルっ子。デュフィらしい明るい作品11点。

第8章:オリヴィエ・メリエル、印象主義の足跡をたどる写真家

 21世紀のノルマンディー写真。


 お気に入りは、ブーダン≪ル・アーヴル、ウール停泊地≫を挙げる。
 港町としてのル・アーブルを描く。本展のメイン・ビジュアルを担っているが、実物は図版よりずっと魅力的。
 今後、ブーダンの作品を見る目が変わる。

 今まで、印象派等フランスの風景画を見ても、どこの町なのかは、地理知識がゼロなこともあり、ゴッホを除けば、気にしたことはなかったが、今後少しは意識して見ていこう。



東京スカイツリーの辺りだけ明るい。



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