2024.01.28(日)
『すばらしき世界』 2020年 日本映画
https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/
原案:佐木隆三『身分帳』
脚本・監督 西川美和
出演:役所広司(三上正夫)/仲野太賀(小説家志望・津乃田)/橋爪功・梶芽衣子(保護司・庄司夫妻)
六角精児(スーパーの店主・松本)/北村有起哉(ケースワーカー・井口)
白竜・キムラ緑子(福岡の組長夫妻)/長澤まさみ(吉澤・テレビ局プロデューサー/安田成美(三上の元妻)
映画『すばらしき世界』本予告 2021年2月11日(木・祝)公開
殺人で13年間服役後出所した三上は、それ以前も刑務所の中と外を繰り返す人生を送っていた。それでも、13年はさすがに長かったのだろう。もう戻らない・・・という思いは強い。
犯罪者にもこういう形容は許されるだろう、彼は一本木だ。自分の価値観で「ん?」と感じたことにはストレートに反応する。しかし言葉で伝えることを得手としないから、どうしようもないときは暴力で相手を徹底的に打ちのめすこともある。そこを止めるのはなかなか難しい。
彼の部屋は、長い刑務所暮らしで習慣になったのだろう、不自然なくらい、そして気持ちがいいくらいに整理整頓されていて、そして小さな机を前にきちんと正座して簡素な食事をすませ、書き物をしたりする。
瞬間沸騰的な暴力沙汰と、狭いけれど清潔な自室・・・、彼のこれまでの13年を少しだけ想像させる。
刑務所帰りの中年男の就職は困難だ。とりあえず生活保護を受けながら職探しをすることを勧められるが、彼の自尊心はそれを良しとはしない。
それでも、彼の周囲にはさまざまな人が集まる。
保護司の夫婦、万引き騒ぎがきっかけで関わり始めた地元のスーパーの店主、ケースワーカーの男性は、厄介なことを引き起こす彼に気長に付き合う。職を得た彼の祝いの席の和やかさ、彼らから贈られた自転車に乗って三上がアパート前をグルグル回るシーンは美しい。
三上のそばにいて、彼の生涯を書くことで「何もなかった人生ではない」ことを示すと約束した津乃田が三上の最期に見せた慟哭は、肉親でも見せることのできない深く激しく悲しいものだった。
うまくいかない毎日で以前の極道の世界に戻りそうだった三上を制する、かつての組の組長妻(キムラ緑子さんが秀逸)。
再婚して縁が切れても、三上の今を心配して電話をかけてくる元妻。
彼の人としても魅力を伝える。
困難は待ち受けるだろうけど、やり直せる道を歩んでいくのだろう、歩んでいってほしい・・・と願うほどに、なんとも魅力的な、そして際限なく厄介な三上という男。
弱い者には優しく同情的な彼がそのまま生きていくには、この世の中はあまりに冷ややかだ。生きにくい時間が過ぎていく。
人との争いを避けるために弱い者いじめの同僚に迎合して、そして自分に失望する三上に、弱き人は育てた花を手渡し、彼はその花に手を伸ばして最期を迎える。
生きにくくても、彼の目には広い空が見えたはずだ。刑務所では見られなかったような広い空がラストシーンで広がる。
そして、どんな人にもやり直す可能性を認める世間、そして大きな力でなくとも寄り添って話ができる周囲の人々。
人は100%善人になんてなれないし、間違いも脱線もてんこ盛りの人生だ。
それでも、「すばらしき世界」と呼べる時間が三上にもあったのだと、私にはたしかに伝わってきた。
役所広司が破天荒で人間味のある三上を魅力的に教えてくれる。
取り囲む人々が、普通にそこにいて、それが心地よい。
たまにはそれもいいじゃないか。
佐木隆三氏の作品は、『復讐するは我にあり』と『身分帳』しか読んでいないが、どちらの作品ももう一度読んでみたい。
照ノ富士、優勝!!
うれしい。