11月22日、少し寒さの感じられる夕暮れ、新宿駅南口にある紀伊国屋サザンシアター、行ってきました。
東京ヴォードヴィルショーの「エキストラ」(三谷幸喜作・演出)。ぴあもイーチケットも先行でとれなかったのであきらめていたんだけど、ヴォードヴィルショーからのハガキで、「いちばん多くの席数を確保していますよ」というメッセージ。ちょっと疑いながらも電話をかけたら5分で通じて、最前列がとれた。
でも芝居で最前列ってどうなんでしょ。「ウィートーマス」(よかったら、こちらをどうぞ)の最前列ではあまりのグロな光景に最前列でのけぞった私ですが、最前列はちょっと見にくい? 近すぎる? ま、ぜいたくなわがままですけど(そういえば「ウィートーマス」のレビューでは「スピッツライブの最前列は一度ぜひぜひ経験したい」とか書いていますね、ハハハ)。
そんなこんなで、当日を迎えたわけです。
豪華な客演(角野卓造、伊東四郎、はしのえみ)もあるし、佐藤B作、あめくみちこ、山口良一ら劇団員の外部活動も多いせいか、ロビーのお花やメッセージもどこか華やか。キムラ緑子さん(艶っぽくて大好き!)から角野さんへのお花もありました。この前「夢のかさぶた」(よかったら、こちらを)でも共演されていましたっけ。
客席の年齢層は老若男女を問わず、という感じ。演劇青年が目立つわけでもなく、中年のおばさんグループが声高に幅をきかせているわけでもなく。ある意味、特徴がないっていったらいいのかも。
■群集劇のかわいい迫力
一幕もので、舞台はテレビドラマ(もとアイドルを主役にすえた、時空を越えたアクションもの?)に出演するエキストラたちの控え室。といっても、ロケで雨風をしのぐ程度のところ。
そこで、沢渡稔、はしのえみがそれぞれマネージャーを務める2つのエキストラ派遣会社から送られきたエキストラたち10名ほどが、さまざまなドラマを繰り広げる、という展開。
去年観た「竜馬の妻とその夫と愛人」(三谷幸喜作)はたった四人の芝居で、あめくみちこ、平田満、沢渡稔、佐藤B作のそれぞれがキャラクターが魅力的で、私にとって、これと、長塚圭史演出の「LAST SHOW」は昨年のベスト作品なのですが、今回は群集劇。
エキストラたちの仕事に対する思い、映画への思い、自分たちの立場や現場への情熱や不満はそれぞれで、でも交わされる会話からそういうことがきちんと浮かび上がってくる。そういうところをたった2時間で私たちに伝えきる三谷台本はさすがだ。
声高に何かを語るわけではないが、小さなエピソードからその人物の背景が見えてくる。
そして、エキストラを物扱いする女性AD(奈良崎まどかが、笑顔の中に冷ややかな人間性を演じていて、ちょっと魅力的)の年老いたエキストラへの一言に抗議する元教師のエキストラの反乱がドラマを盛り上げ、その中で監督やプロデューサー、ほかのエキストラの一面が見えてきたりする。
一人一人の顔が見えてくる群集劇という感じかな。そういうところに上質なものを感じました。人物が人形じゃなく、ちゃんと息をしていて、生きてきた歴史があるんだなと、こっちが納得できるのがいい。
大げさなものは何もなく、ヒーローも極悪人もいない群集劇の「かわいい」迫力です。人生はこういうもんなんだよな、なんて妙に納得。三谷作品って、そこが一種の特徴かな、と。
■陳腐な表現ですが、角野卓造、伊東四郎の存在感
反乱を起こす元教師が角野卓造。
校長ともめて教師をやめたあと、映画好きが高じて、エキストラになって半年、という男。誠実で、理屈っぽくて、そして理不尽なことには目をつぶれぬ正義感の人。こういう役をやると光るんだよな、この人。
「渡る世間は鬼ばかり」では、酔っ払っているところばかり記憶にある私ですが(たまに見るだけなんで)、実は文学座所属の中堅舞台俳優で、こまつ座の常連でもある実力派。舞台を観るたびに、すごいなあと思っているのだけど、今回も私を裏切らずにいてくれました。
うまく表現できないと「存在感がある」ってな言葉でごまかしてしまう私ですが、やっぱり今回も「存在感ありあり」ということでごまかすしかない。すいません。
そして伊東四郎。この方の舞台は初めてだったのですが、気負わず、だけどやっぱり圧倒的な「存在感」(笑)で感動的。テレビのバラエティーで見る軽妙洒脱な雰囲気そのままで、エキストラデビューを果たす元地下鉄駅員の役。
何度も何度も失敗を重ねて、しょんぼりと「だめでした」と戻ってくるときの情けない表情がなんともかわいくて魅力的です。何気なくすっと現れて、とくにテクニックを使うわけでもないのに、その場の空気をさらってしまう。根っからの芸人なんだろうね。
笑わせるって本当に難しいというけど、そんなことはまったく見せずに、普通の顔で私たちを爆笑させちゃう…。あざとくないところがすごくかっこいい。
来年もいろいろおもしろそうな芝居に出演が決まっています。ぜひ追っかけしたい!
はしのえみのはつらつとした演技もよかったです。三谷さんが朝日新聞の連載で「将来のコメディエンヌの女王」として期待していると書いていたので、私も楽しみにしていよう。
■笑いジワ、絶対増えたぞ!!
ホントにそう。絶対に目じりのシワが深くなったはず。どうしてくれるのっ!っていう感じだ(怒ってどーする)。
「ウィートーマス」では最前列でのけぞっていた私ですが、今回は何度も体を丸めて大笑いでした。涙もカタルシスってことで心も体もすっきりさせるけど、笑いもすごい効果。帰りの寒空でも体がたしかに暖かかったですから。
たまには涙がでるほど笑いましょうよってことだな。
そしてそんな中で、ちゃんと心に響く言葉があり(「われわれは三流の役者じゃなく、一流のエキストラ」とか)、じーんとくる場面もある。
最後、年老いたエキストラが亡くなって、みんなで死んだことをふせて死体のエキストラで出演させようとするんだけれど、笑いと涙のかげに、軽いシニカルなものも感じさせて、ラストとしては秀逸だったと思います。
帰りはサザンテラスのイルミネーション(ここにアップしました)がきれいでした。
新宿駅西口のヨドバシカメラの裏手にある居酒屋「寅」に寄ったのですが、狭いけれどいい雰囲気のお店で料理もおいしく、中国人の若い女性スタッフの二人が感じよくてオススメです。
HPはないようで、電話番号もわからないのですが、見つけたら寄ってみてください。
追記
「寅」の電話番号わかりました。
03-3348-2881
です。
東京ヴォードヴィルショーの「エキストラ」(三谷幸喜作・演出)。ぴあもイーチケットも先行でとれなかったのであきらめていたんだけど、ヴォードヴィルショーからのハガキで、「いちばん多くの席数を確保していますよ」というメッセージ。ちょっと疑いながらも電話をかけたら5分で通じて、最前列がとれた。
でも芝居で最前列ってどうなんでしょ。「ウィートーマス」(よかったら、こちらをどうぞ)の最前列ではあまりのグロな光景に最前列でのけぞった私ですが、最前列はちょっと見にくい? 近すぎる? ま、ぜいたくなわがままですけど(そういえば「ウィートーマス」のレビューでは「スピッツライブの最前列は一度ぜひぜひ経験したい」とか書いていますね、ハハハ)。
そんなこんなで、当日を迎えたわけです。
豪華な客演(角野卓造、伊東四郎、はしのえみ)もあるし、佐藤B作、あめくみちこ、山口良一ら劇団員の外部活動も多いせいか、ロビーのお花やメッセージもどこか華やか。キムラ緑子さん(艶っぽくて大好き!)から角野さんへのお花もありました。この前「夢のかさぶた」(よかったら、こちらを)でも共演されていましたっけ。
客席の年齢層は老若男女を問わず、という感じ。演劇青年が目立つわけでもなく、中年のおばさんグループが声高に幅をきかせているわけでもなく。ある意味、特徴がないっていったらいいのかも。
■群集劇のかわいい迫力
一幕もので、舞台はテレビドラマ(もとアイドルを主役にすえた、時空を越えたアクションもの?)に出演するエキストラたちの控え室。といっても、ロケで雨風をしのぐ程度のところ。
そこで、沢渡稔、はしのえみがそれぞれマネージャーを務める2つのエキストラ派遣会社から送られきたエキストラたち10名ほどが、さまざまなドラマを繰り広げる、という展開。
去年観た「竜馬の妻とその夫と愛人」(三谷幸喜作)はたった四人の芝居で、あめくみちこ、平田満、沢渡稔、佐藤B作のそれぞれがキャラクターが魅力的で、私にとって、これと、長塚圭史演出の「LAST SHOW」は昨年のベスト作品なのですが、今回は群集劇。
エキストラたちの仕事に対する思い、映画への思い、自分たちの立場や現場への情熱や不満はそれぞれで、でも交わされる会話からそういうことがきちんと浮かび上がってくる。そういうところをたった2時間で私たちに伝えきる三谷台本はさすがだ。
声高に何かを語るわけではないが、小さなエピソードからその人物の背景が見えてくる。
そして、エキストラを物扱いする女性AD(奈良崎まどかが、笑顔の中に冷ややかな人間性を演じていて、ちょっと魅力的)の年老いたエキストラへの一言に抗議する元教師のエキストラの反乱がドラマを盛り上げ、その中で監督やプロデューサー、ほかのエキストラの一面が見えてきたりする。
一人一人の顔が見えてくる群集劇という感じかな。そういうところに上質なものを感じました。人物が人形じゃなく、ちゃんと息をしていて、生きてきた歴史があるんだなと、こっちが納得できるのがいい。
大げさなものは何もなく、ヒーローも極悪人もいない群集劇の「かわいい」迫力です。人生はこういうもんなんだよな、なんて妙に納得。三谷作品って、そこが一種の特徴かな、と。
■陳腐な表現ですが、角野卓造、伊東四郎の存在感
反乱を起こす元教師が角野卓造。
校長ともめて教師をやめたあと、映画好きが高じて、エキストラになって半年、という男。誠実で、理屈っぽくて、そして理不尽なことには目をつぶれぬ正義感の人。こういう役をやると光るんだよな、この人。
「渡る世間は鬼ばかり」では、酔っ払っているところばかり記憶にある私ですが(たまに見るだけなんで)、実は文学座所属の中堅舞台俳優で、こまつ座の常連でもある実力派。舞台を観るたびに、すごいなあと思っているのだけど、今回も私を裏切らずにいてくれました。
うまく表現できないと「存在感がある」ってな言葉でごまかしてしまう私ですが、やっぱり今回も「存在感ありあり」ということでごまかすしかない。すいません。
そして伊東四郎。この方の舞台は初めてだったのですが、気負わず、だけどやっぱり圧倒的な「存在感」(笑)で感動的。テレビのバラエティーで見る軽妙洒脱な雰囲気そのままで、エキストラデビューを果たす元地下鉄駅員の役。
何度も何度も失敗を重ねて、しょんぼりと「だめでした」と戻ってくるときの情けない表情がなんともかわいくて魅力的です。何気なくすっと現れて、とくにテクニックを使うわけでもないのに、その場の空気をさらってしまう。根っからの芸人なんだろうね。
笑わせるって本当に難しいというけど、そんなことはまったく見せずに、普通の顔で私たちを爆笑させちゃう…。あざとくないところがすごくかっこいい。
来年もいろいろおもしろそうな芝居に出演が決まっています。ぜひ追っかけしたい!
はしのえみのはつらつとした演技もよかったです。三谷さんが朝日新聞の連載で「将来のコメディエンヌの女王」として期待していると書いていたので、私も楽しみにしていよう。
■笑いジワ、絶対増えたぞ!!
ホントにそう。絶対に目じりのシワが深くなったはず。どうしてくれるのっ!っていう感じだ(怒ってどーする)。
「ウィートーマス」では最前列でのけぞっていた私ですが、今回は何度も体を丸めて大笑いでした。涙もカタルシスってことで心も体もすっきりさせるけど、笑いもすごい効果。帰りの寒空でも体がたしかに暖かかったですから。
たまには涙がでるほど笑いましょうよってことだな。
そしてそんな中で、ちゃんと心に響く言葉があり(「われわれは三流の役者じゃなく、一流のエキストラ」とか)、じーんとくる場面もある。
最後、年老いたエキストラが亡くなって、みんなで死んだことをふせて死体のエキストラで出演させようとするんだけれど、笑いと涙のかげに、軽いシニカルなものも感じさせて、ラストとしては秀逸だったと思います。
帰りはサザンテラスのイルミネーション(ここにアップしました)がきれいでした。
新宿駅西口のヨドバシカメラの裏手にある居酒屋「寅」に寄ったのですが、狭いけれどいい雰囲気のお店で料理もおいしく、中国人の若い女性スタッフの二人が感じよくてオススメです。
HPはないようで、電話番号もわからないのですが、見つけたら寄ってみてください。
追記
「寅」の電話番号わかりました。
03-3348-2881
です。