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随分前から釣り荵を作ってみたいと思っていた。初夏のころ散歩の途中にコケやシダを集めて園芸の本を見ながら何とか出来上がった。なかなかの物が出来たと自負するほどだった。コケを丸め貫禄十分なシダを配置して軒下に下げ「夕立は晴れて忍ぶの雫かな(正岡子規)」の気分になっていた。しかし、それもつかの間多忙を言い訳に水やりを怠ってしまい、すぐに枯れ姿になってしまった。
枯れてしょぼくれた釣り忍ぶほどみじめな物はない。軒下から庭のカエデの枝に見捨てられてしまった。甦ることはないだろうと思ったのだから、捨てたも同然の事。ところが、ある日気づくとシダの若葉がいつの間にか出ている。土台のコケはちょっと太りぎみだが緑色を取り戻してシダをしっかり抱いている。
この夏は雨の降らない日が殆どなかったのが幸いして、軒下の釣り忍ぶから庭のカエデの釣り忍ぶとなりしっかり甦った訳だ。少々太っちょの釣り忍ぶを見た正岡子規はなんと詠むだろうか。
釣り忍ぶ風にも揺れぬ大きさかな(はしちゃんの句)より