とても好意的な感想を寄せていたので、
期待度120%で向かった、9月文楽 第二部。

50周年記念公演です!
着ていったのは……

板締めの藍染小紋の単衣に、
柿渋染めの、諸紙布の八寸。
半衿は、薄手の木綿に紫で染めを施したもの。
そして帯留めに、祖母の形見の琥珀の菊を。
ちなみに帯揚げは蜻蛉の絞り。
もう秋ですねぇ。。。
一人での鑑賞だったのですが、
劇場内にて「あれ、この間の……」。
何と、前週にお友達の紹介で
お知り合いになった方とばったり!

お陰さまで、休憩時間も楽しく過ごすことができました。
着物の世界は狭いとはいえ、
何回もある公演の中で、偶然にお会いできるとは、
嬉しい巡り合わせですね

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(ここからは文楽の感想ですが、アドリブの内容などを少し紹介していますので
これから第二部を鑑賞予定の方はご留意を)
さて、公演の方は……
まず、おめでたい「寿式三番叟」。

私、基本的には、舞の演目は
人形よりもやはり人間が舞った方が、動きも大きいし流麗かなと
思っているのですが、
この演目はお人形さんが大きく、衣裳も華やか。
加えて今回は、浄瑠璃方が床ではなく、舞台後方にずらっと。
人形遣いも緑の裃で、格調高く壮観でもありました。
「人形が人間らしく」ではなく
人形が人形としての愛嬌を存分に振りまいて、
躍動感ある楽しい舞台だったと振り返っています。
お約束の、三番叟の片方が途中でぜいぜいいったり、扇であおぐ
仕草も可愛くて

もちろん、翁役の吉田玉男さんは渋いながらも堂々としたたたずまいでした。
欲を言えば、翁の太夫さんは別の方でも聴いてみたかった…
ちょっと、個性が勝るように感じるのですよね(すみません、個人の感想です)。
その後、「一谷ふたば軍記」の三段目を通しで。
滅多にかからないであろう「弥陀六内の段」と「脇ヶ浜宝引の段」が
こんなに面白いものとは……!

何と言っても、切場語りの豊竹咲太夫さん。
素人考えで

思ったのですが、ある意味納得。
素晴らしい語りで、大満足、大感激でした。
咲太夫さんの裁量なのか、
脇ヶ浜…のお約束なのか、はたまた50周年記念だからなのか
私にはわかりませんが、
アドリブがたくさん!
今までの公演でも、一言ふた言入ることはありましたけれども
これだけ入ったのは、私は初めてでした。
例えば、敦盛から預かった笛の入った袋が
「結構な赤金襴じゃ。広島カープか」で、会場どよめき。
でも確かに

これは床本なのですが、
これだけ赤金襴、赤金襴、赤金襴…とあれば
今年だったらどこかに広島カープを差し挟んでみたくなるわ…
と、妙に納得

(大阪公演だったら、おおいにリスキーなのでしょうね 笑)
ほかにも、「上へ差し上げて…こっちゃ向いて」のあたりで
永六輔がおもむろに出てきたり、
玉織という名前を挙げるのに
「ああ、、、何と言ったっけ……人形浄瑠璃の……有名な」
「あ? 蓑助?」
「いや、ちがう」
「勘十郎?」
「いや、ちがう」
「玉男?」
「おお、それじゃ、玉織」
とつないだり、
……もしかして、咲太夫さんって、チャリ場好き?

いやいや、チャリ場チャリ場と軽く言うことなかれ。
この場面、喋りにクセのある村人が何人も登場し、
プラス弥陀六、庄屋、小雪、藤の局、追手の2人……と
大人数の舞台。
わさわさしたり、ふざけたりする様子を
たった一人で語り分けるわけですから、
相当な実力が必要とされるのは自明の理。
今までは、切場でどっしり、しっとり、
ベテランでそつなく、という印象もあったのですが、
チャーミングな方なんだなあ、と親近感を持ちました。
さて、続くはお馴染み「熊谷桜の段」と「熊谷陣屋の段」。
熊谷桜は、私の大好きなますらおペア
(鶴澤清治さんと豊竹呂勢太夫さん)。
呂勢さんは、今回はやや声の通りが…絞り出すような声が
耳につきましたが、演目の性格に依るものかも知れません。
私は今回も、正面に床を臨む席で、特に太棹がばっちり視界に。
清治さんって、何と指が綺麗でいらっしゃるんだろうと
見入ってしまいました。
内に熱さを秘めた、凄みのある音。今回は特に際立っていて、
この段、ほとんど太棹鑑賞タイムに。
オトコマエすぎて、くらくらしました。
清治さんだけでなく、今回は太棹が実に聴きごたえあり、
明々朗々と陽性な鶴澤燕三さん、
厳格で熱のこもった鶴澤清治さん、
ストイックで繊細な情緒のある富澤富助さん、
温かく深い人情味ある竹澤團七さん
みなさんそれぞれ個性ある演奏で、どなたも素晴らしくて惚れ惚れ。
「熊谷陣屋の段」の豊竹英太夫さんもとても良かったです。
この段に合っていたような……。
出立の場直前の
-夫は瞬きもせん方涙御前を恐れ、余所に言ひなす詞さへ、
泣く音血を吐く思ひなり-
の語りも言葉も何と美しく悲哀に満ちていること。
来年、呂太夫を襲名するそうですね。
身代わりものは不条理だしなじめないなあと思っていた
熊谷陣屋ですが、
何度か観ているうちに、慣れてしまったのか

だんだん、形式美のようなものを楽しみにしている自分に気付き……

例えば、首が自分の子どもと知った瞬間に
相模が発する「ヤアその首は」、
のちにその首を藤の局に差し出すときの「アイ」などは
床本にあり、わかりきっている台詞なのに、
やはりその瞬間は息をのむし、悲しくなるし、感情移入してしまいます。
(熊谷陣屋は来月の歌舞伎座でもかかるそうですね。)
人形の方は、
やはり、昨年観た吉田玉男さんの熊谷次郎直実と、
今回の、桐竹勘十郎さんの熊谷次郎直実は、違うなあ……と。
何がどう違うかは、鑑賞歴の浅い私には上手く表現できないのですが、
玉男さんは剛直な感じ? 勘十郎さんは、武士から僧に変わる流れでの
心情の移ろいが、よりゆるやかな感じがしました。

吉田蓑助さん、今回は観られなかったのですが、次回はぜひ……。

次回、12月は忠臣蔵を通しで。
私、文楽では未見なので、ぜひにとは思っているのですが、
同日には無理……上演10時間超!
日程調整に、悩まされそうです。