神奈川絵美の「えみごのみ」

楽園はどこに

初めての、本格的なオペラ鑑賞。その演目は……



「椿姫」でもなく……



   「カルメン」でもなく……





      「死の都」。    マ、マニアック!
         (いかにもなタイトル通り、ドイツ語上演です……。)


“ミュージカル部総裁”でオペラにもたいへん詳しい着物友、Sさんが誘ってくださった



この日の装いは……

「季節先取り」で桜の総柄を。佐藤節子先生の作品だ。
帯は春霞を思わせる白系、ラメ入りの綴れ。
そしてクリスタルが華やかな帯留めは、お友達からいただいたスカーフ留めを流用

Sさんは……

これはお宝! な、山下芙美子さんの黒八丈。
シルバーグレーがニュアンスたっぷりにゆらめき、
オペラハウスの中で、サテンのドレスをしのぐほどの存在感。
帯はお身内から譲られた辻か花の洒落袋。



オペラシティ54階の和食レストランでランチ。
旬の野菜がたっぷりの御膳、美味しくいただきました。


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さて、この「死の都」、作曲者はオーストリアのコルンゴルドというユダヤ系の人で
1920年に初演され成功をおさめたものの、ナチスの台頭により国を追われ、
戦後帰国したものの、時代は変わり以前ほど評価されなくなってしまった……という
可哀想な人であり、可哀想な作品だ。
1950年代半ばから再評価が進み、今では20世紀の名作と言われているようだが、
コルンゴルドは1957年に亡くなっているので……。

今回の一番の目玉は、美しい舞台美術だ。


ここは、愛しい妻マリーを亡くした男パウルが住む家。
妻の想い出の品や写真で埋め尽くされている。
真正面にはこの作品の舞台である、ベルギーの古都ブリュージュ。
(googleストリートビューの写真からセットを起こしたそうで、
ハイテク技ならではの精密さですね)

これら舞台美術は、フィンランド国立劇場からのレンタル。
海外公演で好評を得たセットをそのまま使うので、質の高さはお墨つきのようなもの。

暗くなると……

こんな風に、幻想的に。
家(の模型)に灯りをともすことで、部屋だったはずの空間が一転、夜の街に。
この後、中央のベッドはボートになったりして、かなりシュール。


妻を亡くしてからというもの、
いつも喪服で、部屋に引きこもり、妻の想い出とともに生きていたパウル。
ところがある日、妻と瓜二つの女性マリエッタと出会い、
「妻マリーの再来」とばかりにはしゃぐ。

でもまあ、世の中そんなに甘くはなく、

真っ赤な服に奔放なふるまい。マリエッタは貞淑だった亡き妻マリーとは
正反対の性格だった。

……というワケで、パウルは「マリーの再来として」マリエッタを愛するも、
やがてマリエッタの肉欲的というか快楽主義的な誘いに引きずられ、
「マリーを裏切ってしまった」罪の意識にさいなまれ
マリエッタはマリエッタで、パウルがいつまでも「貞淑な」マリーを愛していることに
腹を立て。

死者も交えた三角関係の果てに、パウルはマリエッタを殺してしまう。
「これで、マリーもマリエッタも同じだ!」(どちらも死んじゃったからね)


原作はどうもここまでのようだが(パウルも自殺しちゃう?)、
これではあまりにも救いがないので、
実は、マリエッタの誘惑~殺してしまうまで、すべてパウルの夢の中の出来事だった、
というオチがつく。
夢から醒めたパウルは、「ここにいてももう妻は戻ってこない」と悟り、
友人の助言もあって、引き籠っていた部屋から出て「死の都」ブルージュを去る。


ここで、カトリックの宗教観がわかっている人なら
「パウルは“再生”した。新しい自分に生まれ変わって旅立った」
というような明るいイメージを持つのかも知れないが、
私はそこまでの清々しさは、ラストには感じなかった。
結局、悪い状況(妻が忘れられなくて引き籠っている)を
さらに悪い状況(妻と瓜二つの女性が、結果的に妻を冒涜して、自分はそれに失望した)が
打ち消したに過ぎないのではないか。
オールリセットして、ブリュージュを出たとて、希望ある出会いが
あるとは思えないなあ(まあ、新たな恋を探すために旅に出たわけではないと思いますが)。


お気軽に笑って楽しめるような演目ではなく
歌詞の一つひとつを考えて考えて、自分なりに解釈して…ということが求められる
難しい演目でした。

音楽は、このオペラが創られた時代がダダイズム(当時の前衛的な芸術思想)だったことや、
コルンゴルドがアメリカ亡命後、映画音楽に関わっていたことなどから、
私にとってはかなり好みのスタイルで、音楽自体が舞台の演出効果も担って
いたように感じました。

オペラなので、歌声についても感想を書きたいのですが、
なにぶん初めての鑑賞。今回は、脚本や演出全体を理解しそれに対する感想を持つので
精一杯だったかな。もっといろいろ聴くべきなのでしょう。

コメント一覧

神奈川絵美
りらさんへ
コメントありがとうございます~。straycatさんにお伝えしますね
なるほど、映画もあるのですね。うむーそれもなかなかマニアックな感じ。
いろいろ勉強になります
りら
http://kimonolove.exblog.jp/
絵美さま
この場を借り増してのお返事、ご容赦くださりませ~。

straycatさま
おおー!「ヴォツェック」上演されるのですか!
私はヴェルナー・ヘルツォークの映画で知りまして、オペラが元とのことで、一度観てみたいオペラの筆頭になりまいsた。
残念ながら、私は米国在住で来月の新国立には行けないんです。
でも、きっとあちこちでレビューなどアップされるでしょうね。楽しみです。
お知らせいただき、本当にありがとうございました。
神奈川絵美
K@ブラックジャックさんへ
この間はどうも~
(記事は明日アップしますね)

引き籠りの主役はこの人です。
http://ebravo.jp/archives/8111
ほぼ出ずっぱりで歌うことが要求される役で、
それができる貴重な方だそうです。
でも、見た目オタク(笑 すみません)。

棚もすごかったし、googleのデータをもとに
創られた正面の街並も、迫力ありましたよー
K@ブラックジャック
これですね
直接話を聞いてから読んだので余計わかりやすかったです。
舞台美術凄いですねー。両脇の棚がすごい細かい。
装置転換が無くてもライトで大分イメージ変わるもんなんだなー。
引きこもりの歌手の方の顔がもっとちゃんと見たかったです(笑)
神奈川絵美
とうこさんへ
こんにちは
この着物の八掛、いい色ですよね。
たたき染めで、表地よりも濃い青というのが
何だか澄み切った春の空みたいで、とても好きです。

黒八丈…私、着物超ビギナーのころに
「このような着物は粋過ぎて、とても一般人には着られない!と
思っていたのですが(そのとき見たのは平織だったかな)、
Sさんのお着物は本当にドレス感覚で、優雅でステキでした。
神奈川絵美
straycatさんへ
その節はありがとうございました!
初めての本格オペラ体験、私、「死の都」で良かったと
思いました~。
有名なのや軽めのものは、(それはその良さも当然ありますが)先入観が大きくなりすぎて
感想にも「バイアス」がかかりやすいと思うのです。
良かったことは良かった、わかりにくかったことはわかりにくかった、と自分の中で素直に感じることが、芸術鑑賞には大切だと思っていますので…

出演者の歌い方の「クセ」とか、音楽の特徴とか、
幕間でのstraycatさんのお話、とても参考になりました

来月、ヴォツェックなんですかー何と言う偶然!
日本人って、こういうの好きなんでしょうか。
とうこ
http://ameblo.jp/toukolilas/
こんばんは。
マリエッタの赤が目に焼き付く感じです。
そして・・・絵美さんの桜!何度拝見しても美しい~~!ちらっと見える八掛がまた素敵。
ご友人の宝のようなお着物も素敵だなあ。
ほんとうに眼福です。
出来るものなら、なでなでしたい私。。。
straycat
絵美さま♪

その節はおつきあい頂き、ありがとうございました。
ミュージカルや文楽は付き合って下さる方がいるのですが、オペラはあまりいないのでとても嬉しかったです。絵美さんには(というか全ての人に当てはまると思いますが)、中途半端なものは却って今後の興味に繫がらないと思い、話題作のこちらにしてみたのですが、正直どうだったかな・・と案じておりました。歌唱に関しても・・とおっしゃっていますが、経験のあるなしにかかわらず、よいパフォーマンスというものはわかるので、絵美さんが良さを実感できなかったというのはそれだけのものだったのではないかと私は思っています。実はわたしもそれほどグッと来なかったので。
今回の肝はなにはともあれ「舞台美術」ということですね。

横レスでもうしわけないのですが、りらさん、「ヴォツェック」とは渋いですね。実は新国立、来月はヴォツェックです。
私は前回観た時はプンカンプンでした。20世紀オペラの金字塔だそうですが・・・。よかったらご覧になってみてください。新国立劇場のこのプロダクション、一応最後は無理やり宗教に持って行っています。
神奈川絵美
朋百香さんへ
こんにちは
そうなんですよ~ちょっと頭を使う感じ。
でも、この幻想的な舞台美術だけを目当てにしても
楽しめると思います!
私もSさんからご推薦いただかなければ
どんな演目が良いのかさっぱり……

黒八丈、真っ黒にならないのがいいですよね。
山下母娘の作品は綾織が効いていて、
光の加減で微妙にニュアンスが変わり、立体感が
出るのが素晴らしいなあと思います
朋百香
http://www
絵美さま
おおー、元気な時でないと観たくないかも・・・な
お話ですね。男ってゆうやつは全く・・・って感じ
ですかね(笑)しかし、この舞台美術! 圧巻です。
正面の古都ブリュージュが上から見下ろす角度に
なっているところも、心理的に危うさというか、
不安感をあおる感じで流石です。素晴らしい。
オペラ、観にいきたいと思ってはいるのですが、
お高いのと、何を観たら良いのか初心者には、
なかなかチョイスが難しい。先輩に連れていかれる
のがベストかも。
絵美さんの桜、今年も見られて幸せでした~💗
Sさんの黒八丈、「キャー」な代物ですね!
今まで見た中でも、一番素敵かも・・・💗
神奈川絵美
Tomokoさんへ
こんにちは おおっと、チャット状態
私、初台では数えるほどしか降りたことなくて…。
裏手にも行ったことがありません。旧き良き風景が
まだ残っているといいですね。

今週は気温も高くなるようですし、桜のor桜色の着物の
出番が多くなりそうです
神奈川絵美
りらさんへ
こんにちは
ヴォツエック、ウィキペディアで筋を見ましたら、
これまた救いのなさそうな愛憎劇ですねぇ
ドイツ、オーストリアってこういうテイストがウケるのでしょうか。
「死の都」は、あまり「動き」がないんですよ。大きな場面転換もないし。余計にずーんと考え込んでしまう感じ。

このスカーフ留め兼帯留め、キレイですよね!挟む部分が大きいので、三分紐以外にも使えるんです。
Tomoko
こんにちは。お二人のお召し物、いよよ春も本番ね!って空気が伝わってくるようです。
オペラシティ・・・懐かしい~。
あの建物(と新国立劇場)だけが別空間なんですが、裏手は昔っからの職人町の空気がただよう場所で、商店街の界わいは我が独身時代最後の10年ほどを過ごした思い出深い地であります。
名を聞くと、オペラシティ内や商店街のあそことまたあそこのお店に寄りたいな、なんてことを思います。
オペラの記事とはまるで関係なくて恐縮デス・・・(苦笑)。
りら
重たいけれど、面白そうな内容ですねぇ。
ずっと見たいと思っている「ヴォツェック」のストーリーを思い出しました。
(こちらは宗教観とは関係無さそうですけれど。)
来期はオペラを聴きに行きたいなぁと思ってるんですけど、もしかして「死の都」、やらないかしら??

お召しのお姿、春爛漫ですねぇ。
帯留の華やかさがオペラを観に行くのにピッタリに思えます~。
神奈川絵美
香子さんへ
こんにちは
確かに! そしてこのオペラの中でも、
マリエッタ(踊り子なんです)の劇団仲間が
ボートでどんちゃん騒ぎをする軽い場面もあったんですよ。
このオペラ、どうしても宗教の概念が入ってくるので、
ちょっと私には難しい面もありましたが、
言われてみれば、近松作品との共通項もあるかも…。

あはは、スカルの帯飾り! さすがです~。
神奈川絵美
ロンドンの椿姫さま
こんにちは
コメントいただけて嬉しいです~

さすがオーストリア産、あの有名な劇作家ブレヒトに
通じるものがあるなあと(学生のとき、一度だけドイツ語劇にチャレンジしたことがあります)。
パウルの見た目がオタク系(ホントすみません)だったのと、マリーとマリエッタが瓜二つ…ではなかった!のが、
オペラ初心者には多分に想像力の発揮を求められるところではありましたが、黙役のマリーの薄幸ぶりは半端ではなかったです。

あと音楽がいいですよね。シェーンベルクと映画音楽のミックス!みたいな、比較的新しい感じが、好みに合いました。

今回、リブレット対訳本も購入し、ドイツ語と照らし合わせてみると、宗教観の理解は私には難しいものの、作品全体で言わんとしていることには何となく、共感できたかなあ・・・と。
こんなレベルでお恥ずかしいですが、今後も機会あれば、オペラに触れてみたいと思います
香子
「死の都」と伺って
スカルの帯飾りがピッタリハマるな~♪
などと思ってしまいました
こういうストーリーをチャリ場を加えて演ると
近松っぽくなりませんか?
前妻の面影を追って、奔放な女によって身を持ち崩す…
まったく男ってな内容ですよね(笑)
もっとも近松だったら心中して終わり、夢になんてしないですけどね(爆)
ロンドンの椿姫
私も好きなオペラです
http://ameblo.jp/peraperaopera
このオペラ、日本のオペラ仲間の間で話題になってて評判も良いですが、絵美さんにぴったりと思いますので、ご覧になって頂けて嬉しいです。私の結構好きなオペラで、去年ブリュージュに行った時にはこのオペラに思いを馳せました(お天気が良いとイメージに合いませんが)。
歴史の長いオペラには色んなジャンルがありますので、機会があれば又観てくださいね。初心者向けのオペラに拘る必要はないですよね。実は今日、オペラはほぼ初めての日本からの友人を、他にチョイスがなかったので難解なリヒャルト・シュトラウスのオペラに連れて行き、「寝ててもいいし、途中で抜けてもいいから」、ということで本人もその予定だったのですが、意外にもとても楽しめたようです。
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