神奈川絵美の「えみごのみ」

ある医師の物語

先日、かつて一緒に仕事をしていた
編集者と昔話をしていたとき。

「○○さん、覚えてます?」

― 勿論。そんな前でもないよね。

当時の私。

3年くらい前、書籍の仕事で
何回か取材した内科の若い男性医師。

― 最初はちょっと、、、

「そう。パリピーみたいな」

何しろ自宅が
麻布の超高級マンションで
いつもそちらのレジデンス専用ラウンジで
話を伺っていたのだけど、
東京タワーが目の前だったり、
マンションのロビーに滝が流れていたり、
私には別世界の、
そんな場所に、
30そこそこで住んでいるって、、、

(さぞ【いいとこの】お育ちなのかしら)と
思わずにいられませんでした。

態度もちょっと、横柄ではないけれど
割と淡々としていて、
一定の距離をおく感じ。
最後まで打ち解けず、つかみ所がない
印象が拭えませんでした。

「それがですね」彼女が言うに。

書籍の出版後、版元がその医師を
食事会に招待したときのこと。

「親父が、、、手紙をくれたんです」
その医師が、ポツリ。

彼の父親は医学会でとても力のある教授で
彼はずっと、父を超えられない、と、
コンプレックスを持っていたそう。
若くして、専門医の資格も取ったのに、、
そして、繁盛している開業医として、
誰の目からも「成功者」にしか見えないのに、、

「本を出したら、親父がとても喜んでくれて」

でも、照れくさくて、もらった手紙は
まだ開けていないそう。

それだけ、彼にとって父親は
偉大で、遠い存在なのでしょう。

本を出してから、テレビ出演のオファーがきても
「断ったんですって。
『どうして⁉️ 出たくても声のかからない人も
たくさんいるのに』と言ったら、
患者さんに迷惑がかかるからって、、、」

―、、、優しい、いい人だったんだね。

とてもあたたかな、気持ちになりました。
少しおこがましいかもですが、
その医師が、父親を超える、まで
いかなくても
距離を縮めて、自信を持って
これからの医師人生を歩むお手伝いが
できたこと、嬉しいな。

ただ文章を書く仕事、という認識だったら、
20年も続かないし、
20年続けているからこそ、
差し上げられる付加価値もある。
この医師の話は私自身にも
自信とやりがい、そして勇気を
与えてくださいました。

コメント一覧

kanagawa_emi
セージグリーンさんへ
親を尊敬できることは勿論、素敵なことですが、自分がどんなに頑張っても親を超えられない、と、思うのって
ちょっと可哀想だな、とも。
今回の上梓がこの医師の自信になればと願っています。
絵美
kanagawa_emi
香子さんへ
そうなんですよね。医師も人それぞれ、いろんなバックグラウンドがあるなあと、つくづく思い知らされます。
絵美
セージグリーン
最近の禍々しい事件を観ていても、
父と成人した息子の関係は本当に難しい問題だと、
改めて思ったところです。
でも、こちらのドクターは、お父上に尊敬と畏怖?の念を抱かれているのでしょうか?そのこと自体、
宝物ですね。
香子
わぁ、人は見掛けに選らないというか
いい意味で期待を裏切ってくれたというか…
やはりいいお育ちをされたんでしょうねえ。
そういう親になりたいけど、もう無理(笑)
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