
……ではなくて(三菱一号館美術館は休館中。
2月からナビ派展が始まるそうです)
その近くにある出光美術館。

心静かに鑑賞できる場を、と
比較的小規模なこちらと、五島美術館の茶道具展を掛け持ちしました。
着ていったのは

ゑり善セット。
袖丈一尺五寸の椿の小紋に、千鳥の名古屋。
八掛、相変わらず朱のままです

シャーベットオレンジの帯揚げは、
着物の大先輩からのいただきものを初おろし

帯締めは以前、リサイクルショップで入手したもの。

鏡で一枚撮ってみました。
さて、「岩佐又兵衛と源氏絵」と銘打ったこの展示。
しかし、総合的な感想としては
申し訳ないのですがちょっと不完全燃焼。
又兵衛らしい画風の作品が意外と少なく、
メジャーになり工房化してからの源氏絵は、
やや“らしさ”が影を潜めてしまうのです。
又兵衛が影響を与えた後続の画家の作品で
スペースをもたせたような感も。
謎の多い画家で、所在不明の作品も少なくないようなので、
仕方ないのかも知れませんが……。
でも、そんな中でも、新たな発見がありました。
これからご覧になる方への、超私的注目ポイントは
次の2点。
・源氏物語 第五十一帖「浮舟」

匂宮が橘の小島になぞらえ、浮舟に愛を告白する有名なシーン。
又兵衛は、当然いるはずの船頭もお供も描かず、
二人のたたずまいをドラマチックに引き立てています。
物語の説明よりも、二人の心情を重視した描写。
私、展示作品の中でこの絵がもっとも心に迫りました。
・同じく源氏物語 第八帖「花宴」
……なのですが、肝心の又兵衛画の原本は、実は所在不明。
原本もないのに、なぜおススメかというと……
彼の影響を受けたとされる岩佐勝友による絵はこちら。

こういった、源氏が朧月夜を抱きしめる構図は、
源氏絵では“お約束”のようなものなのですが、
実はこの構図で描いた初めての人が又兵衛。
館内で、プロジェクターにてその原本を観たのですが、
その扇情的たるや、上の勝友の比ではありませんでした。
源氏が背中を向けていて、衣をひるがえすようにして
朧月夜をさらうように、抱きすくめているのです。
観る人からは、源氏の肩越しに朧月夜の顔をのぞむような構図。
思わずワタシ、トレンディドラマ(死語)の主題歌が
頭の中をぐるぐるしました

浮世絵以前の、江戸時代前期に、何てセンセーショナルな絵を!
参考までに、この場面の本文を記すと
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いと嬉しくて、ふと袖をとらへたまふ。
女、恐ろしと思へるけしきにて、(略)おぼろけならぬ契りとぞ思ふ
とて、やをら抱き下ろして、
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(訳)
とても嬉しくなり、とっさに袖を捉えて、
怖がっている朧月夜に対し
前世からの浅からぬ縁があったと思います、と歌を詠み、
そっと抱き下ろす。
……といった風に、割と淡々としているのですが
この数行だけとらえてドラマ仕立てにするセンスがすごいな、と
思いました。
この企画展では、
五十四帖の屏風が目玉の一つであり、
「又兵衛以前」-師にあたる土佐光信による屏風と
「又兵衛以降」-勝友による屏風が並べて展示されています。
圧巻ですが、似たような構図も多くて何となく眺めて終わり、に
なってしまいがち。
でも、上の第八帖の特徴に着目してみると、
両者の絵がまったく違うことに気づきます。
ちなみに、先に挙げた第五十一帖も、土佐光信は登場人物をきっちり描いていて
説明的。
勝友は又兵衛に倣って、匂宮と浮舟しか描いていません。
岩佐又兵衛は、物語を絵で再現するのではなく
絵で物語のクライマックスを表現することに注力したのではないかなと
個人的に思います。
人物が大きくて、表情が豊か。
浮世絵のルーツを知るという点でも、興味深かったです。
展示は2月5日(日)まで。
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