神奈川絵美の「えみごのみ」

風に導かれながら - 日本絵画の魅惑展 -

出光美術館「日本絵画の魅惑」展へ行ってきた。
(会期は6月8日(日)まで)


今回は、この後にあった用事の都合で、洋服。

帽子好きな私。10年ほど前にいただいた、
麻地に墨で彩色された涼しげなカジュアルハットは、中村淳子さんの作品。


この展示では、鎌倉~江戸時代までの日本絵画の代表的な分野を
同美術館の有名な所蔵品で振り返るというもの。
絵巻を“アニメ映画の源流”と称してみたり、
風俗画に描かれた遊女の乱れた髪から、彼女らの恋愛感情を考察してみたり、
所蔵品ならではのこだわりの視点、解説がなかなか面白かった。


室町の「やまと絵」にも感じ入るものがあったし、
    (同時代の水墨画に対し、赤や緑で彩色された風景画を指す)
美人図の色気あるポーズや着物にも惹かれたが、
今回の展示、私のココロは終盤のこの3点に、ほぼ完全に持っていかれてしまった。

酒井抱一 「八ツ橋図屏風」
狩野長信 「桜・桃・海棠図屏風」

そして、桃山の画聖
長谷川等伯 「波濤図屏風」


もともと私の一番のお目当ては、江戸琳派の酒井抱一だった。

これは、彼にとっては一時代前の、尾形光琳が描いた八ツ橋図をもとに
していると言われている。

光琳の八ツ橋図はコチラ。


抱一はカキツバタの数を思い切って減らし、
余白の美や一つひとつの花の存在感を際立たせるとともに、
葉先に動きをつけて、生命のリアルさや躍動感に重きをおく江戸琳派らしさを
出している。

その隣には、私の大好きな鈴木其一もあって

「桜・楓図屏風」
江戸琳派以前なら、配置がアンバランスと捉えられかねないかもだが、
私は抱一よりも自由なデザイン性と、精緻だからこそ映えるセンスの良さを感じる。


この2つの作品が展示されているのは、出光美術館の中でも一番大きな展示室。
くるっと後ろを振り返ると……


時代は桃山時代。狩野長信の「桜・桃・海棠図屏風」が。
これは解説文の受け売りだが
こうした屏風は有名武将が好んで城の広間にしつらえたため、
ほとんどは戦により、消失してしまったそう。
この「桜・桃・海棠図屏風」は戦火を免れ今も残っている
たいへん貴重な作品で、
この前に時の権力者が座っていたかも…。

この写真ではわからないが、花の一輪いちりんが、
外へ外へ、枝先に向かってぐーっと広がっている様に勢いがあり、
強さと優美さ両方を楽しめる。
背景の雲、山も、絵に奥行をもたらし美しいなあと見入ってしまった。


-----------------


その隣に展示されているのが、長谷川等伯だ。

-これが狩野派と同じ、桃山時代の画家の絵!?-
とても衝撃を受けた。

この、波の表現や、それに増して岩の表現が、
今から500年前、1500年代のものとは、思えなかった。

ぱっと連想したのが、ドビュッシーだ。(そしてなぜか、型染めの伊砂利彦さんも)
2年前に、ブリヂストン美術館で観た、彼の音楽と関係の深い美術を回顧する展示で
私は、一枚の波の絵に魅せられた。


クロード・モネ「嵐」(1880年)。
私には専門的な知識はないが、
長谷川等伯の描いた波や岩も、その写実性のカギとなるのは実は、
風に導かれながら、波頭や岩肌にはねかえる光であり、
結果的に豊かな動きをともなう作品になっているのでは、と
「波濤図屏風」を観たとき、咄嗟に思った。


モネは浮世絵の影響を受けているので、

歌川広重「富士三十六景より」(1800年)
こちらも大波の一瞬をとらえた、動的な作品。

つまり日本で言えば江戸時代後期に流行り、その後西欧にも影響を及ぼした
絵画スタイルは、
実はその300年も前、長谷川等伯から端を発していたのでは、と思えてくるのだ。

ちなみに…
ドビュッシーの楽譜「海」の表紙も

浮世絵チック。


心を打つ、心に残る芸術のエッセンスは、
時代の風に導かれながら、国境なんて関係なく拡がり、
息づいていくものなのだなあと、しみじみ思った。
葛飾北斎は、生前にフランスとの接点があったようだけれど、
長谷川等伯は、果たして西欧の存在自体をどこまで知っていたのか。


上の太字3作品だけでも十分に、感じさせるものがある良い企画展だと思います。
会期は残りわずか。ご興味ある方はぜひ。

※出光美術館の同展示のサイトはコチラ
※2年前に観た、ブリヂストン美術館「ドビュッシー 音楽と美術」展のサイトはコチラ


-------------

そして予告です。

官能美あふれる板谷波山。6月から六本木の泉屋博古館で企画展が始まります。
3月の出光美術館の展示を見逃してしまった方、良かったらどうぞ・・・!
サイトはコチラ

コメント一覧

神奈川絵美
香子さんへ
こんにちは
この時季の「波」にはそそられるものがありますよねー

この展示、前期は雷神図が売り?だったのですが、
私は後期の八ツ橋狙いで(笑)。
もう今週いっぱいなので、お時間あれば
香子
さすが、いつも絵美さんは早い!
超絶技巧を見に行った時、この展示の割引券があったので
いただいて来てました(まだ行けてませんがw)

波濤の絵を見て、先日の夏じたく展で見た銀の帯留めを思い出しました。
くぅぅ~、アレ良かったですよねえ
神奈川絵美
とうこさんへ
こんにちは
風雅ですねぇ。教えてくださってありがとうございます。

今回、長くなるので書けなかったのですが、
室町時代の水墨画に漢詩が書きこまれている作品
(待花軒図といいます)もとても印象的でした。
-花を待つのは、良い客を待ち受けるのと同じだ。
  表を掃き清め、香も焚いた。
  まずは読書をしよう。-
(訳ですが)
昔の詩歌には、リタイアしてからの理想の生活の
ありようが、たくさん詰まっているように思います

板谷波山、ご覧になったのですねー
美しかったでしょう。ロマンティックな気分に
なれますよね。
とうこ
杜若に八つ橋・・・
からごろも
きつつなれにし
つましあれば
はるばるきぬる
たびをしぞおもう 
という歌をお茶の先生に教わりました。(間違ってたらすみません)
酒井抱一、鈴木其一・・・いいですよねえ。行きたいな。
板谷波山・・・実は、当地に一番のコレクターがいて、4月、こちらでやっていました。良かったです!
   
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